学長式辞(PDFファイル ) - 緑ケ岡学園

式辞(2014/04/08)
陽春四月、釧路にもようやく春の深まる季節が訪れました。
本日、ここに記念すべき第51回釧路短期大学の入学式を行うにあたり、お忙しい中をご来賓
各位、並びに保護者の皆様、多数のご臨席を賜り、誠にありがとうございます。厚くお礼を申し
上げます。
さて、只今、入学を許可しました生活科学科41名、幼児教育学科53名、合計94名の皆さん、入
学おめでとうございます。私たち釧路短期大学教職員一同が、皆さんの入学を心より歓迎して
いることを学園、大学の代表としてお伝えしたいと思います。
最初に、皆さんが入学した釧路短期大学の歴史と建学の精神、教育理念をかいつまんで紹
介したいと思います。
本学は、昭和39年、男子同様女子の人材養成と文化の向上は重要課題とし、とくに釧路・根
室地域で女子の家政系大学は皆無であることから、初代理事長クリスチャンでありました岡野
佐太二氏や広大な土地を寄贈された二代目理事長佐々木正雄氏によって、家政科単科で総定
員200名の「学校法人緑ケ岡学園 釧路女子短期大学」として創設されました。
昭和48年に、女子教育のみではなく、地域社会の多くの青少年に教育機会を提供すること
が短大の使命とし、男女共学制の実施のため、釧路短期大学と名称を変更しました。その後、よ
り高度・専門化した社会の要請から昭和54年に家政科を内容充実のため生活科学科と改め、
昭和55年には、短大附属幼稚園教諭・保母養成所を短期大学幼児教育学科へ昇格設置をしま
した。
昭和59年には生活科学科を生活科学科専攻と、今日の食育の時代を見越した栄養士養成
のため、新たに、食物栄養専攻課程を開設し、幼児教育学科と合わせ、総定員200名の地域に
密着し、地域活性化に貢献する短期大学として新たな歴史を刻み、今年50周年を迎えました。
また、釧路短期大学の設置母体である「学校法人緑ケ岡学園」は平成16年、創立40周年を契
機に、新たに武修館中学校を開設し、東北海道初めての中・高一貫教育を導入しました。そして
今年の春一つの目標であった、現役で東京大学に合格者を出したのは、学園全体の喜びでし
た。ここに幼稚園、中学校、高等学校、専門学校、短期大学を擁し、地元の生徒や学生たちの夢
や希望の実現を精一杯支援する釧根唯一の私立の綜合教育学園として、今日に至っていま
す。
つぎに、本学の建学の精神は、創設者の崇高な信仰と献身とも解せる「愛と奉仕」としてい
ます。「人を愛し人に尽くす」精神と実践は、未だ殺りくや暴力、貧困等が無くならない今日の
社会や世界にとって、必要欠くべからざる人類普遍の原理と考え、本学の教育理念に据えてい
ます。
釧路短期大学の教育理念は、この建学の精神に基づいて以下三つを掲げています。
まず一つは、「自由にして規律ある人格」。これは今日の激動する社会において、社会的風
潮や目先のことから自由になり、自己を見失うことなく、自ら行為の規範となる規律、倫理を
確立し、自立的で責任ある主体性を備えた人間形成を目指しています。
二つに、本学の生活科学科と幼児教育学科は、図書館司書、栄養士、保育士、幼稚園教諭な
どの専門的職業人を養成する機関でもあります。それ故、各専門分野の進歩に対応できる高
度な知識と技術を備えた、優れた専門的職業人の養成を使命としています。しかし、単なる資
格や免許を持つ専門家養成にとどまらず、建学の精神に基づく知性と感性の調和した「幅広
い教養と人間性豊かな専門的職業人の育成」を目指しています。
これらの人材養成は、日々変化する社会や地域の中で、現在4,050名の卒業生が、生活を通
して、職業を通して、自己や他者の幸せを創出しうる有為な人材として地域のオピニオンリー
ダーや企業家として、また栄養、教育、福祉、保育分野などで責任ある立場から活躍し、今日道
東における釧路短期大学の存在価値を高めています。すなわち「地域社会の文化の向上と福
祉へ貢献」する人材養成が本学の三つ目の教育理念です。これらの三つの教育理念に基づい
て、各学科の教育方針が立てられ、教育課程(カリキュラム)を構成し、短期大学士の学位を授
与するにふさわしい学力と人間形成のため、日々教育研究活動が展開されています。
今、紹介しました歴史と学風を持つ釧路短期大学は、二年制の大学であり、高等教育機関の
ファーストステージと言われています。皆さんにとってのこの二年間は、十代から二十代へと一
人の人間として、社会人として、専門的職業人として成長する人生の大きな節目かと思いま
す。
また、特に社会人から入学を果たした皆さんには、生涯学習推進の一躍を担っている本学と
しても、その決心と努力に敬意を表しますと共に、念願の夢を達成すること、大いに期待してい
ます。そして将来職業に就き社会へ出て行く時、またさらに、大学・大学院へ進学するなど、セ
カンド、サードステージへ飛躍する時の土台作りにも重要な二年間といえましょう。是非、初心
を大切にして、自ら選択した目標に強い意志と情熱、実践を持って、到達してもらいたいと思い
ます。そのためには、「明確な目標と努力」が必要です。
昨年の入学生にも述べたのですが、すばらしい人の例えを示しましょう。
2012(平成24)年50歳の若さで、「iPS細胞(人工多能性幹細胞)の開発(通称、様々な細胞に
成長できる能力を持つiPS細胞の作製:万能細胞)」でノーベル医学・生理学賞を受賞した山中
伸弥京都大学教授のことです。詳しくは、文春新書「大発見の思考法」(文芸春秋)をお読みく
ださい。2008(平成20)年、「CP対称性の破れ」の起源の発見、トップクォークの存在を予言しノ
ーベル物理学賞を受賞した益川俊英京都大学名誉教授との対談集です。
先生は、高校で柔道やラグビーをやっていた頃、絶えず骨折やけがをしていたそうです。ま
たその頃、自分の進路に対しても考えていたようですが、父親からの影響もあって、骨折など
を治療する臨床医、整形外科医を目指し神戸大学医学部に入学したそうです。しかし、実際に
臨床の現場にたってみると、重症のリウマチ、脊髄損傷で苦しむ患者さん達に対して、有効な
治療法が確立されていないことや、自分の無力さで大きなショックを受けたそうです。そして、
何とかして治療法を見つけ、重症の患者さんを救いたいということから基礎研究に入り、また
こうした思いや初心がアメリカで幅広い研究をすることになったと。このような経験が、帰国
後、奈良先端科学技術大学遺伝子教育研究所センターで「体細胞からES細胞を作製する」と
いう今から考えるとノーベル賞受賞につながるテーマとなり、研究するようになったと述べて
います。先生は、ご自分を顧み「はたから見たら、僕の人生は、遠回りで非効率に見えるかもし
れないし、無駄なことばかりやっているように思えるかもしれません。もっと合理的な生き方
ができたんじゃないの?と思われるかもしれませんが、そうやって回り道したからこそ今の自
分があるんじゃないかと思います」と述懐しています。こうしたことを言えるのは、アメリカの
研究所に留学していたとき、ボスから「VW」と言うことを教わって努力したからだそうです。
「ヴィジョン&ハードワーク」つまり「明確な目標を持ち、それに向かって一生懸命努力するこ
と」が成功の条件だと言うわけです。
つぎにもう一人、2010(平成22)年に、やはりノーベル化学賞を受賞された、北大名誉教授、
むかわ町生まれの道産子鈴木章先生のことです。受賞理由は、「有機合成におけるパラジウム
触媒クロスカップリングの開発」ですが、説明は省きます。先生も同じことを述べられていま
す。北大から発行されている「リテラポプリ42号」の中で「仕事で何らかの成功を収めるチャン
スは誰にでもある。でも、そのチャンスを活かすためには、手をこまねいているだけではダメで
す。幸運の女神が微笑んでくれるには、その前提として何よりも努力が欠かせない」と述懐し
ています(リテラポプリ42号:2010)。
山中先生、鈴木先生のお二人の例を挙げましたが、いずれも世界有数の教育研究者、第一
人者です。先生方さえ「努力」が不可欠とおっしゃっているのです。どんな事物、事象や行為の
目標へ到達するには、全て「目標と努力」が不可欠だと言うことは一つの真理かと思います。
入学生の皆さん、前述したように初心で自ら選択した「明確な目標、夢」に向かって、元気で、
本気に、根気強く、精一杯努力をして、成し遂げて下さい。心から期待をしています。
なお、道産子ノーベル化学賞受賞者鈴木章先生は、緑ケ岡学園創設50周年記念行事に、釧
路市文化振興財団と共催でお迎えし、来る9月27日(土)生涯学習センターで、市民講演会とし
て開催する予定です。
終わりに、学生には、すでに社会で活躍してきた社会人や大学を卒業した方が、少なからず
おります。多様な価値観、考え方を持っている方、色々自己と違う性格や資質を持った学友達
が入学して来ています。どうか皆さん、相互の人格を認め、「愛と奉仕」の建学の精神に基づき
ながら、ともに健やかで、心豊かなそして有意義な大学生活を築かれることを心から願ってや
みません。
入学にあたり、所懐の一端を述べて、歓迎の辞(ことば)といたします。
2014(平成26)年4月8日
学校法人緑ケ岡学園 釧路短期大学
理事長・学長 西塔 正一