英国総選挙がもたらすものとは

英国総選挙がもたらすものとは
5月7日に英国で実施された総選挙では、大方の予想に反して保守党が下院定数(650議席)の過半数を上回る331議
席を獲得し、1992年のメージャー政権以来となる単独与党となった(図表1)。市場では、どの政党も過半数に満たない
Hung Parliament(ハング・パーラメント、宙ぶらりん国会)となり、1カ月程度政治的な空白が続くと予想されていた。ひと
まず「政治の安定」をもたらす今回の選挙結果は好材料と受け止められ、英FT100種株価指数は急騰、ポンドも対ドル
で1.52ドル台半ばから1.55ドル台前半まで急伸した。
2大政党の与党・保守党と野党・労働党は、いずれも「財政赤字削減、公的債務削減」を公約としているが、税制面で政
策に大きな違いがあり、労働党の政策に比べて、保守党のほうが「市場寄り(Market Friendly)」と認識されている。例え
ば、2010年に保守党のキャメロン首相が政権(自由民主党との連立)の座に着いてからというもの、政府は消費増税を
行う一方、当時28%だった法人税率を2014年にかけて20%まで引き下げた実績がある。これにより、法人税率が米国
(39.09%)、日本(36.99%)、ドイツ(30.18%)に比較して圧倒的に有利になったことで、国内民間投資の増加やグロー
バル企業の誘致を通じて景気回復が促された。一方、労働党は最低賃金引き上げ等、バラマキ的な政策を打ち出す
一方、その原資として法人税率引き上げや、高所得者層に対する課税などを主張。また、これまで保守党と連立を組
んでいた自由民主党も、公共投資を重視する一方、法人税率引き上げや、主に金融機関への増税を公約としていた。
仮に保守党が単独過半数獲得とならず、再び自由民主党と連立を組んだ場合には、こうした「市場に不人気」な政策
にも配慮する必要があったはずで、ここまでポジティブな市場の反応は見られなかっただろう。
今回の選挙結果は市場に好感されたものの、長期的には波乱含みである点には注意が必要だ。第1に、保守党は
2017年に欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票を実施することを公約としている。そもそも「なぜEU離脱なのか」だ
が、英国民のEUに対する失望感は案外大きい。EU拡大によって、東欧などからの移民が増加。英国民の職を奪って
いるとの不満が高まっているうえ、2010年以降の欧州債務問題も、英国民のEUに対する不信を煽った。EUにおける域
内貿易や金融面のメリットを考慮すれば、企業にとってEU離脱はデメリットのほうが大きい。しかし、国民感情はより複
雑で、4月上旬の世論調査(You Gov)では、EU離脱賛成が39%、反対が40%とほぼ拮抗しており、このまま国民投票
に持ち込めば、英国のEU離脱(Brexit)もあり得ない話ではない。第2に、スコットランド国民党(SNP)の大躍進が挙げら
れよう。SNPのスタージョン党首は、スコットランドの財政運営について、英国政府からスコットランドへの完全な権限掌
握を求めている。昨年9月に実施されたスコットランドの住民投票前に、英国の主要政党はスコットランドへの権限移譲
を進めると約束したため、これが履行されない場合、再び独立を巡る住民投票が実施される可能性が高まろう。来年5
月のスコットランド議会選挙でSNPが躍進すれば、スコットランドの独立がより現実味を増すことになりそうだ。英国経
済は堅調で、シティは英中銀(BOE)が、来年1-3月期に利上げに踏み切ると予想している。これに先駆けて利上げが
見込まれる米ドルに対してポンドは今後弱含む可能性はあるものの、対円では来年初旬にかけて堅調地合いが続こう。
ただ、来年6月のスコットランド議会選挙や2017年の国民投票などの政治イベントには警戒が必要とみている。
【各政党の獲得議席数】
(議席)
350
307
【ポンド円】
331
300
258
250
2010
260
2015
240
232
251円09銭
220
200
200
150
180
100
50%戻し183円95銭
160
57
56
50
8
0
(1ポンド=円)
6
0 1
1 1
3 3
18 18
140
120
116円80銭
100
2000年
2002年
2004年
2006年
2008年
2010年
2012年
2014年
出所:各種報道をもとにシティ作成、ロイターのデータをもとにシティ作成
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