2015 年 5 月 15 日発行 平 仮名の 成 り立ち 日本の平仮名はもともと中国から渡来した漢字をデフォルメしてできた もので、すべての平仮名にはそれぞれもとになった漢字が存在する。 丸 山 純 一 (まるやま じゅんいち) シティグループ・ジャパン・ ホールディングス株式会社 執行役員 多 くの皆さんはすでにご存じのことと思うが、日本の平仮名はもと もと中国から渡来した漢字の音だけをとり、形のほうをきわめて 大胆にデフォルメして究極の省略形を作成することによって生まれたも のである。したがって、すべての平仮名にはそのもととなった漢字(こ れを「字母」と呼ぶ)が存在するわけであるが、その字母は、現在われ われが用いている平仮名からなんとなく推測できるもの、多少形が似て いるので言われればそうかなと思うもの、現在の平仮名とは似ていない ので全く推測がつかないもの、といったグループに分けることができる。 1977 年に東京大学法学部卒業後、大蔵 省(現財務省)に入省。アメリカ合衆国日本 大使館(在ワシントン)や欧州復興開発銀行 (在ロンドンの国際機関)などの在外勤務を 経験した後、財務省国際局において様々 な課長ポストを歴任。その後、外務省欧州 局審議官、金融庁国際担当審議官を経 て、2009 年 7 月から 1 年間横浜税関長を 務める。2010 年 10 月、シティバンク銀行 顧問に就任し、2011 年 1 月より副会長。 2013 年 7 月よりシティグループ・ジャパン・ ホールディングス株式会社に移り、現在執 行役員、ガバメント・アフェアーズ担当。米 国プリンストン大学にて修士号を取得。三重 県出身。 ◎ ま ずは、現在の平仮名の姿と字母とが似ていて推測が可能なものと して、たとえば「あ」の字母である「安」や「い」の字母である 「以」、 「か」の字母である「加」や「せ」の字母である「世」などがあ げられる。これらの平仮名とその字母とを比べてみると、なるほど平仮 名は漢字を崩してできたものだな、と納得がいく。 と ころが、 「う」の字母が「宇」、 「え」の字母が「衣」だといわれて も、そうなのかもしれないけどどうなのだろう、という程度にな ってくる。同じように、 「み」は「美」からできたもの、「ら」は「良」 からできたものと言われると、 「そう言われればそうなのだろうが、今の 姿から想像するのは難しい」というのが正直なところであろう。 「シティバンク 丸山の視点」は丸山純一氏、個人の見解となります。シティバンク銀行株式会社またはシティグループにおける各社の見解とは異なります。 1/2 2015 年 5 月 15 日発行 さ らに似ていないグループもあって、「そ」は「曽」から、「ち」は 「知」からできているといわれても、すぐにピンとくる人は多く ないのではないか。究極の推理ゲームは、 「つ」とか「む」であろう。こ れらの平仮名は、 「川」と「武」からできている(ただし、 「つ」は「州」 からできたものとする説もあるくらいで、専門家の間でも学説が定まっ ていない) 。いずれにしても、これらの字母は現在の平仮名の形からは想 像もつかないし、言われてもちょっと考えないと腑に落ちてこない。逆 に言えばこのことは、平安時代に平仮名を作った日本人がいかに大胆に 漢字をデフォルメしたか(おそらくは早く書き、それでも美しく見せる ために)を物語っているといっていいのではないか。 も う一つ押さえておくべき点は、現在の平仮名は一音一文字である が、平仮名が成立してからこの方、明治33年までは平仮名は一 音複数文字であったということである。つまり「ア」という音を表すの に「安」を崩した「あ」だけでなく、 「阿」を崩した平仮名(パソコンで は文字が出ない。以下同じ)や「悪」を崩した平仮名も全く同じように も用いられていたのである。同様に、「い」についても、「以」を崩した 現在の平仮名に加えて、 「意」を崩した平仮名や「伊」を崩した平仮名も 用いられていた。一つの音について通常は3つから4つの字母があった らしいので、全体では250から300くらいの平仮名があり、昔の日 本人はそれらの平仮名をかき分けていたのである。毛筆で書いていく上 で文字の大小のバランスとか続け具合とか、あるいは同じ字母の重複を 避けるとか、さまざまの要素を考慮しながら筆で文章を書いていったの であろう。やっぱり日本人ってそういうセンスが豊かなのではないか、 と筆者は思ってしまうのであるが、みなさんはどうお考えであろうか。 ◎ 「シティバンク 丸山の視点」は丸山純一氏、個人の見解となります。シティバンク銀行株式会社またはシティグループにおける各社の見解とは異なります。 2/2
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