尿路結石症について

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尿路結石症(030421)
尿管結石の失敗例。
四十代の女性。初診前日の朝、えぐられるような左側腹部~下腹部の疼痛を認めた。痛みは増
悪軽減を認めるものの持続痛であった。嘔気なし。生理周期の 3 日目だが、いつもの生理痛とは
明らかに異なると感じたという。37 度程度の微熱も認めた。持っていた NSAIDsを服用した後に痛
みは軽減。食欲は良好で食事で増悪は認めなかった。翌朝、診療所受診。受診時には痛みはほ
ぼ消失。病歴聴取に支障があるような痛みは無し。左側腹部から下腹部にかけて軽度の圧痛を
認めるが、その他の所見ははっきりせず。CVA 叩打痛なし。Percussion tenderness 陰性。Heel
drop test 陰性。エコーではエコーフリースペースなし。腎は両方に小さな結石は認める。左腎はや
や腎盂の拡張を認めるかもしれないが、症状と結び付けられるほどはっきりとした所見なし(下
図)。ドプラでの血流は明らかな異常を認めず。WBC が 8000 台でいつもより高値だが、採血では
明らかな異常なし。周期的な痛みで尿路でないなら胃腸炎のような消化管の病変か?と疑ったが、
下痢や嘔吐も無く、症状も軽いため経過観察とした。その夜、就寝していると疼痛が再燃したが、
しばらくして自然に痛みは軽減。翌朝に再来した時には、軽度であるが左側腹部の持続的な疼痛
を認めた。発熱は 36.9℃。この時点で CVA 叩打痛を確認した。尿潜血(2+)であったが、それ以外
の異常所見を認めなかった。WBC7000 台、CRP は 0.7 と軽度の上昇のみ。
(発症 2 日目の腎のエコー:左:右腎、右:左腎)
数日間、増悪軽減を繰り返す持続的な左側腹部痛、CVA 叩打痛、微熱、尿潜血、WBC/CRP 軽
度上昇、エコーでは有意な水腎を認めないということで、尿路感染症を考えて 3 日目から抗菌薬と
NSAIDsを使用して経過を見ることとした。尿路感染だったら後々重篤化するかもしれないし、より
重傷な疾患の方にターゲットを絞りたいという心理も働いていたと思う。痛みは一旦軽減したもの
の、その夜に再び左側腹部痛が増悪して、救急車にて夜間救急病院を受診。最終的に尿路結石
の診断に至った。
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尿路結石が、突然増悪する強烈な側腹部痛で来院すると思い込んでいたのが一番の誤診の原
因だったと思う。症状を説明できるような水腎が無いと一時点で思考停止してしまったのも良くな
かった。夜間に腹痛が増悪し、来院時には軽減~ほぼ消失していることらから、繰り返し増悪する
エピソードを説明できるような診断を付けなければならなかった。来院時の症状が軽度で、夜間の
痛みの強さを軽視してしまったのも良くなかった。レトロで見るとエコーの微妙な左右差も意味が
あったわけだが、この程度で結石は無いだろうと思い込んだのは甘かった。エコーは何回でも繰り
返し施行すればよかったと思う。夜間の増悪を繰り返して 4 日目に最大の痛みが出現したわけだ
が、結石の移動で今回のような病歴をとることだってあり得ると肝に銘じておこうと思う。最も痛い
時に、都合よく受診してくれるとは限らない。微熱や血液所見、CVA 叩打痛で、UTI に引っ張られ
たのもまずかった。そもそも腎盂腎炎とは病歴が違う。何か違うな・・・と思った時にはやっぱり診
断が違っているわけで、次の一手に踏み切るのが吉だ。
ちなみに、救急受診して数日後に確認させていただいたエコーは以下の通り。尿管結石の患者
のエコー所見としては典型的だ。急性発症した強烈な左側腹部痛で、あぶら汗と嘔気を認めつつ、
このエコー所見なら診断に難渋することは無かったと思うが、臨床はそれほど甘くないというわけ
だ・・・。
(発症 7 日目の腎のエコー:左腎)
ということで、反省の意味を込めて尿路結石のお勉強。

本邦では 11 人に 1 人が罹患すると言われている。2)

尿路結石は存在する部位に応じて上部尿路結石(腎結石、尿管結石)および下部尿路結石
(膀胱結石、尿道結石)に分類される。1)

本邦ならびに欧米では上部尿路結石(腎結石および尿管結石)が大部分を占める。下部尿
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路の膀胱結石は前立腺疾患や神経因性膀胱など残尿が多い場合に認められる。2)

結石成分による分類では、シュウ酸カルシウムあるいはリン酸カルシウムのようなカルシウ
ムを含むカルシウム含有結石が尿路結石の 90%以上を占め、感染結石であるリン酸マグネ
シウムアンモニウム結石、尿酸結石、シスチン結石と続く。2)
□
上部尿路結石

近年増加傾向で、成人病との関連も指摘されており、生活習慣病の一つととらえる報告もあ
る。その他、飲水が制限される環境・職業などは発症の要因となる。また、副甲状腺疾患、尿
酸代謝異常に伴う場合、薬剤性のものなどがある。1)

結石成分の多くはシュウ酸カルシウム結石であるが、その他尿酸結石、特殊なものでは遺伝
性のシスチン結石などがある。1)

通常、腎結石は無症状であるが、大きくなり尿管へは下降できずに腎孟にとどまるような結
石では、体動に伴う血尿、背部の鈍痛、背中が張るといった訴えの原因となりうる。1)

尿管結石においては腎結石が尿管内へ落下して急激な尿管閉塞をきたすことにより、数 mm
程度の小さな結石でも腰背部から側腹部に激痛(疝痛)を引き起こす。結石が下降して膀胱
へ近づくに従い、頻尿や尿意切迫といった膀胱炎症状を引き起こす。1)

結石の移動に伴う疼痛は夜間から早朝にかけて起きやすく、夜間救急外来を受診する状況
が多くなる。3)

疝痛の範囲は、患側で片側性に腰背部(costo-vertebral-angle:CVA)から側腹部に起こる。
結石が膀胱近くの下部尿管にまで下降してきた場合には下腹部痛が起き、膀胱尿管移行部
に至ると膀胱刺激症状(頻尿、残尿感)も出現し、男性では陰嚢への放散痛を訴えることもあ
る。3)

疝痛発作以外には、自律神経症状として悪心、嘔吐、発汗も見られることが多々ある。3)

尿潜血を伴う腹痛を認める場合、尿路結石と簡単に診断することには注意を要する。なぜな
らば、慢性腎炎等により血尿を認める患者に急性虫垂炎や卵巣茎捻転あるいは腹部大動
脈瘤などが発症した時も、同様の症状となるからである。2)

腎部の疼痛、血尿の 2 つがそろえば、かなり高い確率で尿管結石の診断が得られる。しかし、
急性腎孟腎炎、腎梗塞、腎腫瘍の自然破裂などでも両症状が同時にみられる場合がある。
4)

超音波検査ではおもに腎結石をみることができる。また、腎孟・尿管結石における尿路閉塞
を反映した水腎症を確認しうる。ただし、結石が微小で疝痛発作の軽快しているときには、一
時的に尿の流れが改善して水腎症が指摘できないこともある。発症直後にも水腎症が指摘
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できないことがある。尿管内の結石そのものについては、上部尿管内の結石であれば腎孟
から尿管の走行を追い、下部尿管内の結石であれば膀胱から尿管の走行を追い観察できる
ことがある。1)

KUB では想定される尿路の走行に沿って結石陰影を探す。ただし、尿酸結石やシスチン結
石では単純撮影検査で陰性のため超音波検査もしくは CT 検査による確認が必要である。1)

KUB で尿管結石と誤りやすいものとして静脈石がある。骨盤内の石灰化陰影として描出され
る。一般にきれいな円形であり中央が淡い。4)

尿路結石は 90%以上がカルシウム含有結石であるため、レントゲンに写ることが多い。しか
し、尿酸結石やシスチン結石はレントゲン透過性であるため、KUB で診断できないことがある。
超音波検査では疼痛と同時に水腎症を認めた場合、尿路結石症の可能性が高い。超音波
検査で水腎症を認めながら KUB で結石陰影を認めない場合、腎から膀胱までの腹部単純
CT で確認することが望ましい。2)

疼痛がある場合の造影剤を用いた検査(造影 CT や IVP)は、尿溢流の危険性があるため禁
忌とされている。4)

尿路結石は、5 年再発率が約 40%と非常に高く、尿路結石症の既往があるかを聴取すること
は診察上きわめて重要である。4)

激痛を伴う尿管結石では鑑別診断として重要な疾患に解離性大動脈瘤、急性膵炎、急性腹
症などがあげられる。尿管結石では通常、疝痛発作であり、症状に波があること、超音波検
査で水腎症を認めること、腎臓に一致した叩打痛を認めることなどが手がかりとなる。鑑別診
断に苦慮する場合にも CT 検査が有用となりえる。1)

疝痛発作を呈し、尿路結石と鑑別を要する疾患として、消化器疾患(胃十二指腸潰瘍、胆石
症、胆嚢・胆管炎、虫垂炎、結腸憩室炎、膵炎)、婦人科疾患(卵巣出血、卵巣腫瘍茎捻転、
子宮外妊娠)がある。4)

急性腎孟腎炎を合併した尿管結石:発熱・悪寒などの症状、尿検査での膿尿・細菌尿、採血
検査での白血球増多、CRP 高値などから診断する。受診時、すでに敗血症となっている場合
も 少 な く な い 。 診 断 、 治 療 が 遅 れ る と 、 シ ョ ッ ク や DIC ( disseminated intravascular
coagulation:播種性血管内凝固)に陥り、生命の危険をもたらす場合がある。4)

尿路結石症ガイドラインによれば、6mm を超える尿路結石症では積極的治療の対象となる。
その方法として、①体外衝撃波治療(ESWL)、②内視鏡手術、③腹腔鏡あるいは開腹による
切石術があるが、切石術が選択されることはほとんどない。2)

非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)を使用する。1)

NSAIDs 投与が不適切な症例では非麻薬系の鎮痛薬を使用する。1)

軽度の痛みでは鎮痙薬にて効果が得られることがある。1)

指圧により改善が得られるとの報告もある。1)
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
自然排石が期待できる症例では 2L 以上の排尿量を維持するよう指導する。1)

糖質を含む清涼飲料水では尿中カルシウム排泄が増加するので控えるようにする。また、塩
分摂取によるナトリウム摂取もカルシウム排泄増加と結びつくので控えさせる。2)

痛みの間欠期には運動を促す。1)

排石促進薬および結石溶解促進薬を投与する。1)

前立腺肥大症などに使用されるα1 遮断薬には下部尿管結石の排石効果があると報告され
るが、わが国での保険適用はない。1)

尿酸結石に対しては尿アルカリ化薬を併用し結石溶解を促進する。1)

溶解療法が効果を示すのは、尿酸結石とシスチン結石の 2 つである。3)

尿酸結石を含めた尿路結石症を発症した痛風・高尿酸血症患者に対して、薬剤を使用して
高尿酸血症を改善し、尿中尿酸排泄を抑制しようとする際、ほとんどの泌尿器科医は尿酸産
生阻害薬(アロプリノール製剤)を投与することになる。併せて尿のアルカリ化のために酸性
尿改善薬(クエン酸製剤:ウラリット®)を処方する。3)

砕石術または石切術(結石摘出術)など:自然排石のない、または期待できない症例で適応
が検討される。1)

尿管結石では、腎孟尿管移行部から腸骨までの上部尿管(U1)、骨盤骨と重なる部位の中
部尿管(U2)、そして骨盤内の下部尿管(U3)で方針が変わる。U1 結石は ESWL が主体とな
り、 U2 および U3 では経尿道的尿管結石砕石術(TUL)が選択される。一方、6mm 以下の尿
管結石では自然排石が期待できる。この大きさの結石の場合、欧米では尿管を弛緩させ排
石を促す薬物療法が“medical expulsive treatment”として推奨されている。具体的には、前
立腺肥大症における排尿改善薬であるα1 プロッカーのタムスロシン(ハルナール
圧症治療薬のカルシウムチャンネルブロッカーであるニフェジピン(アダラート
TM
TM
)や高血
)でその有効
性が確認されているが、本邦では尿路結石症に対する保険収載がなく使用できない。2)

本邦ではウラジロガシエキス(ウロカルン
TM

TM
)やロワチン
TM
あるいは抗コリン薬のブスコパン
などが用いられているが、排石効果に関して不明な点が多い。2)
原因にかかわらず尿の濃縮を回避することが最大の予防法であり、日頃から 2L 以上の排尿
量を維持するよう指導する。1)

特に発汗が多くなる夏場や空気の乾燥する冬場に結石が形成されやすくなるため、再発を
繰り返す症例では季節ことに排尿記録をつけるよう指導する。夜間就寝後には水分補給が
減少して結石が形成されやすくなるため、就寝前に排尿、飲水の習慣をつける、また、夕食
から就寝までの時間を十分にあける。これは遅い夕食を摂る習慣のある患者では、就寝後
の脱水に加えて消化吸収も重なるため、結石形成がより促進されるためである。1)

飲酒機会のある患者においては飲酒後一時的に尿量が増えても、アルコール代謝に伴って
後に脱水をきたすため、飲酒後のアルコール以外の水分補給を指導する。1)
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□
下部尿路結石(膀胱結石、尿道結石)

上部尿路結石が落下して生じる場合と、膀胱内で結石が形成される場合がある。背景に尿
の停滞や排泄障害が存在することがある。多くの場合、感染を伴った感染結石である。1)

血尿、排尿時痛、排尿障害、尿線の途絶。1)

上記症状や反復する膀胱炎で疑い、KUB、超波検査、膀胱尿道鏡検査で診断する。1)
オピオイドの効果についての疑問について論文を検索して、抄読会を行った。
読んだのはオピオイドと NSAIDsを比較したメタ解析。
●PECO
P:acute renal colic
E:opioid
C:NSAID
O:patient rated pain, time to pain relief, need for rescue analgesia, rate of recurrence of pain, and
adverse events.
急性腎疝痛に対して、オピオイドを使用すると、NSAIDsを使用した場合と比較して、痛み、痛み
の軽減までの時間、レスキューでの鎮痛剤の使用、痛みの再発、有害事象などが改善するかどう
かを検討した研究であることが分かる。
●妥当か
抄録の REVIEW METHODS に Randomised controlled trials とあり、RCT のメタ解析であること
が分かる。
●結果
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痛みは NSAIDs群で 4.60 ㎜より多く減少した[-4.60 (-7.50 to -1.70)]。痛みの完全寛解を認めな
かったのはオピオイド群で 147 人/281 人、NSAIDs群で 186 人/393 人であり、NSAIDs群で少ない
傾向であった [0.87 (0.74 to 1.03)]。嘔気などの副作用はオピオイド群で多かった。
20 trials totalling 1613 participants were identified. Both NSAIDs and opioids led to clinically
important reductions in patient reported pain scores. Pooled analysis of six trials showed a greater
reduction in pain scores for patients treated with NSAIDs than with opioids. Patients treated with
NSAIDs were significantly less likely to require rescue analgesia (relative risk 0.75, 95% confidence
interval 0.61 to 0.93). Most trials showed a higher incidence of adverse events in patients treated
with opioids. Compared with patients treated with opioids, those treated with NSAIDs had
significantly less vomiting (0.35, 0.23 to 0.53). Pethidine was associated with a higher rate of
vomiting.
(参考文献 5 より引用)
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(参考文献 5 より引用)
使用できる状況なら NSAIDsが基本であるが、状況に応じて選択枝は多い方がいい。
同じ病気でも、患者の訴えは異なる。ただ、コモンな病気はやはりコモンであり、足元をすくわれ
ないようにしたいと思う。
参考文献
1.
釣巻ゆずり,久米春喜.尿路結石.診断と治療 99(2): 355-359, 2011.
2.
諸角誠人.尿路結石症.綜合臨牀 59(12): 2471-2472, 2010.
3.
荒川孝.尿路結石症.治療 91(増刊): 1074-1079, 2009.
4.
児玉浩一,野田透.症例 9 尿管結石の疑い.レジデントノート 11(9): 1317-1322, 2009.
5.
Holdgate A, Pollock T. Systematic review of the relative efficacy of non-steroidal
anti-inflammatory drugs and opioids in the treatment of acute renal colic. BMJ. 2004 Jun
12;328(7453):1401. Epub 2004 Jun 3. Review. Erratum in: BMJ. 2004 Oct 30;329(7473):1019.
PubMed PMID: 15178585; PubMed Central PMCID: PMC421776.
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