Killer sore throatについて

ROCKY NOTE
Killer sore throat(150603)
研修医と診察。のどの痛みについて話題になった。危険な喉の痛みについて復習。
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咽頭痛が主訴となる疾患のうち、①急性喉頭蓋炎、②扁桃周囲膿瘍、③咽後膿瘍、④無穎
粒球症は killer throat pain と呼ばれ、見逃すと重篤な転帰に至る可能性がある。「つばも飲
めないほど強い咽頭痛」「よだれが出る」「声がかすれて出せない」などの状況では常に疑う
べきである。2)
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killer sore throat とは何でしょう? 「喉が痛い」という患者さんを診たとき、何が怖いかという
と、気道および呼吸に影響を及ぼすことなんですね。1)
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最も注意を要するのは“six killer sore throat”と呼ばれる症候群だ。これらはまれながら気道
閉塞や循環不全を来して死に至るリスクがある。このような重篤な症状の場合、気道狭窄が
主たる原因であり、身体所見上“stridor”が聴取されることが多い。4)
(参考文献 4 より引用)
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「喉が痛い」患者さんで、注意しておくべきことが一つあります。それは、「喉が痛い≠喉の疾
患」ということです。喉の痛みが“放散痛”である可能性があることを知っておく必要がありま
す。(心筋梗塞など)1)
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心血管系のリスクが高い場合、症状が突然発症である場合、冷汗を認める場合などは必ず
心電図をとろう。1)
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扁桃周囲膿瘍:扁桃炎の合併症として発症します。特徴的な症状として、開口障害や hot
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potato voice(熱いポテトを食べている時のような特徴的な声)があります。また、同側のリン
パ節腫脹を多く認めます。1)
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咽後膿瘍:小児に多くみられる疾患で、80%が 5 歳以下です。小児の場合はリンパ節炎から
の波及であることが多いといわれています。一方で、成人の場合は免疫不全の患者さんや
食道異物、挿管や胃管挿入後などに発症することが多いため、これらの既往を問診すること
は非常に大切です。特別な症状はありませんが、「喉が痛い」というよりは「頸が痛い」という
症状が強く出現します。また、頸部の運動時痛も強いため、斜頸のように頸の位置を固定し
て来院することも、疑う一つの手がかりになるかもしれませんね。1)
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咽頭後壁より後方に感染が及ぶと、遮るものがないため後方・下方へ容易に進展する。咽後
膿瘍やそこから波及する椎体炎・縦隔炎は重篤である。糖尿病などの基礎疾患がある患者
に多い。咽頭所見に比して疼痛が強い場合、全身状態が悪い場合には疑うべき病態である。
また、咽頭炎の合併症として生じる頸静脈化膿性血栓症(Lemierre’s syndrome)は頸部痛
や不明熱として表現される。2)
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急性喉頭蓋炎は長く小児の疾患と考えられてきましたが、最近は成人の方がよくみられるよ
うになりました。なぜでしょうか。ポイントは「ワクチンを射ってますか?」です。急性喉頭蓋炎
の原因は H.influenzae であり、Hib ワクチンで予防できます。つまり、ワクチン接種があれば
喉頭蓋炎の罹患率は格段に下がりますので、ワクチン接種がなされているかどうかは、急性
喉頭蓋炎を考える上で非常に重要になります。必ず問診するようにしましょう。一般的な症状
として、嚥下時痛が 100%、嚥下困難が 85%、声の変化が 74%にみられます。吸気性喘鳴
(stridor)や呼吸不全はわずか 10%程度です。ただ、気管挿管などの緊急介入が必要になる
症例も 21%に認められ、気道管理には細心の注意が必要なことには変わりません。1)
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喉頭蓋炎では開口障害が出現することは少なく、前頸部の圧痛を認めることが多いともいわ
れています。咽頭を見ないまでも、開口が可能かどうか、また前頸部に圧痛を認めないか、
恐る恐る確認してもいいかもしれませんね。繰り返しますが、患者さんが楽な姿勢で観察す
ること、決して無理な診察を行わないことが重要なことを肝に銘じておいてください。1)
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無顆粒球症:強い咽頭痛が主訴となる。外来患者でも多くの薬剤が無穎粒球症の原因となり
得る。内服薬の確認は日常的に行い、とくに抗甲状腺薬、H2 プロッカー内服の有無は確認し
たい。抗甲状腺薬による無病粒球症の多くは開始から 2~3 ヵ月以内に生じ、そのうち 16.5%
が白血球数は正常範囲であったとする報告がある。白血球分画の確認を怠らないようにし
たい。2)
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Ludwig’s angina は、下顎部の軟部組織感染によりその感染が頸部に波及し、呼吸困難で
死亡する可能性のある疾患である。3)
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Ludwig’s angina(顎下部間隙膿瘍もしく口腔底蜂窩織炎)は主に第 2、第 3 大臼歯の齲歯
の感染から生じることが多いが、その他、外傷、膿瘍、異物なども感染源となりうる。基礎疾
患として、糖尿病、膠原病、HIV 感染症、慢性腎炎、再生不良性貧血などが報告されている。
成人の場合、約 40% に何らかの基礎疾患を認め、約 50%で齲歯が Ludwig’s angina の原因で
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あるが、小児の場合、基礎疾患はほとんど認められないと報告されている。3)
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口腔底に感染が生じ、これが舌骨筋下に及ぶと、疎な組織間隙を通じて、顎舌筋後部から下
顎下部に炎症が進展する。下顎骨、舌骨、深部頸部筋膜の障壁により感染に伴う浮腫は口
腔底と舌を後上方へ偏位させ、これにより著明な気道狭窄が生じる。これらの結果、口腔壁
の疼痛性腫脹、舌の挙上、嚥下困難、構語障害、死に直結する呼吸困難が出現する。更に
炎症が頸動脈鞘へ波及すれば降下性縦隔炎、膿胸や心膜炎を惹起する。3)
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膿瘍の場合、液体貯留を示唆する低吸収域と造影剤による不規則なリング状の増強効果を
示し、それが口腔底に位置すれば Ludwig’s angina、咽頭側壁に位置すれば副咽頭間隙膿
瘍、咽喉後壁に位置すれば咽後膿瘍と診断する。これらの疾患はいずれも混在することもあ
る。3)
Killer sore throat ではないけれど
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伝染性単核球症:典型的には咽頭痛、発熱、倦怠感、食欲不振などウイルス感染症と類似し
ますが、咽頭痛は「人生で最悪」という表現をする人がいるくらい強い痛みを生じる場合もあ
ります。発熱、前頸部・後頸部リンパ節腫大、咽頭痛が 75 〜100%に出現します。眼瞼浮腫
は認められれば非常に特徴的です。1)
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魚骨刺傷:X 線では魚骨が写らないことも多いですが、CT ではほぼ確実に確認できます。
専門医がすぐに対応できない場合は、CT で確認することも一つの方法かもしれません。1)
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咽 頭 痛 の 原 因 と し て EBV ( Epstein - Barr virus ) に よ る 伝 染 性 単 核 球 症 ( infectious
mononucleosis : IM ) は 有 名 で あ る が 、 CMV ( Cytomegalovirus ) や HIV ( Human
immunodeficiency virus ) 、 ト キ ソ プ ラ ズ マ な ど が 類似 の 症 状 を きた し 得 る 。 時 に SLE
(systemic lupus erythematosus)などの膠原病も類似の病識をとり得る。筆者は経験がな
いが、抗てんかん薬の副作用でも同様の症状をきたし得るとされる。2)
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淋菌・クラミジア:「のどリン」、「のどクラ」と俗称で呼ばれることもある、oral sex による咽頭
部への淋菌・クラミジア感染が増加している。概して症状は軽微であることが多く、他者への
感染源になり得る。長引く咽頭痛では性感染症の可能性も考える必要がある。2)
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HIV の感染初期(感染機会から 2~6 週後)にインフルエンザや伝染性単核球症と類似の症
状を生じることがあり、HIV 急性感染症と呼ばれる。症状は非特異的であり、数週で自然に回
復する例が多く、その場合は、原因不明ウイルス感染として見逃されやすい。後に HIV 感染
と診断された患者に対する急性感染時での誤認例を表 3 に示す。2)
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(参考文献 2 より引用)
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急性甲状腺炎:甲状腺の破壊による甲状腺中毒症状が生じる。頸部痛が主訴になり得る、
2)
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特発性縦隔気腫:基礎疾患や誘因がなく、もしくは大声を出した後などに気管支の微小な断
裂から縦隔気腫を生じる病態である。咽頭痛・頸部痛が主訴になり得る。聴診にて心拍に一
致した捻髪音を聴取することがある(Hamman’s sign)。2)
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高安動脈炎:「脈なし病」として有名であるが、病初期には非特異的な関節痛や、時に頸部
痛を生じる。頸部の血管炎による疼痛が「ストレス性の咽頭痛」として長期に放置されたのち、
大血管の狭窄に進行して診断される例も経験される。若年女性の不明熱・頸部痛・関節痛な
どの訴えでは考えるべき疾患である。2)
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臥床するときだけ stridor が出て、起き上がると重篤な気道症状を訴えない。これは口側で気
道を狭窄するような構造物があることを示唆している。(寝ているときだけ Stridor が出る場合
には、舌扁桃部の異常を疑え!)4)
(参考文献 4 より引用)
咽頭痛のほとんどは急性上気道炎だが、緊急を要する重大疾患については真っ先に想起でき
るようにしておきたいと思う。
□ 急性喉頭蓋炎
□ 扁桃周囲膿瘍
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□ 咽後膿瘍
□ 口腔底蜂窩織炎(Ludwig angina)
□ 副咽頭間隙膿瘍
□ 化膿性血栓性内頚静脈炎(Lemierre syndrome)
□ 無穎粒球症
□ アナフィラキシー
□ 心筋梗塞
参考文献
1.
水大介.第 3 回 喉が痛い! ~風邪? 実は…~.エマージェンシー・ケア 27(9): 946-951, 2014.
2.
脇坂達郎.紹介(56)治らない咽頭痛.治療 92(増刊): 1115-1120, 2010.
3.
柳川 洋一, 萩原 章嘉, 西 紘一郎.診断の遅れから治療に難渋した Ludwig's angina の 1
例 .日本救急医学会雑誌.Vol. 19 (2008) No. 3
4.
井村洋, 清田雅智.咳と喉のイガイガ感が続く疾患は?ドクターズマガジン (189): 16-19, 2015.
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