1P43

1P43
密度汎関数理論を用いた高分子電解質の自己凝縮に関する理論的研究
(豊橋技術科学大学) ○鈴木千秋、墨智成、関野秀男
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Gyration Radius / Å
【序】DNA 等の高分子は溶液中で負の電荷を帯びた高分子電解質といわれるひとつの巨大なイオンと
なる。このとき、水溶液中の塩による反対符号を持つ対イオンが高分子電解質の負電荷を遮蔽するよ
うに、その周りに集まる“対イオン凝縮”という現象が起きる。それに伴い、高分子電解質自身が凝
縮する“自己凝縮”という現象が起きることも確認されている。また、 一価塩と多価塩の混合溶液中
では一価塩のみが存在する場合とは異なった振る舞いを示すことが報告されている。高分子電解質の
自己凝縮は、一般的に、対イオン凝縮による内部エネルギーの安定化によって起こるという議論がな
されてきたが、同符号のイオンからの効果についての議論はなされていない。同符号のイオンのみを
考えた場合、高分子電解質が凝縮することで、イオンの並進エントロピーは増大する。つまりエント
ロピー増大の効果によって自己凝縮が起きるのではないかと考えられる。本研究では、一成分プラズ
マモデルを用いたブラウニアン動力学計算を行い、高分子の自己凝縮における、対イオン、同符号イ
オンそれぞれの効果を調べることを目的とする。
【計算方法】本研究では、一価塩及び二価塩溶液中での高分子電解質の自己凝縮のシミュレーション
を行った。溶液中での高分子の分子シミュレーションを行なうには、溶媒分子の自由度の多さから、
膨大な計算コストがかかる。そこで、液体の密度汎関数理論(DFT)に基づき溶媒分子の自由度を消
去することにより、高分子と溶媒分子からなる混合系の問題を、溶媒効果を考慮した高分子鎖の一分
子問題として扱うことのできる、有効ハミルトニアン 法[1]を用いて分子シミュレーションを行なった。
高分子電解質のモデルとして一価の負電荷を持つサイトが、剛体の結合で自由連結された高分子鎖を
用いた。各サイトの排除体積相互作用としては WCA (Weeks-Chandler-Andersen)斥力ポテンシャル
を与えた。また、一価及び二価塩には、片方のイオンを、一様電荷をもった連続体で置き換えた、一
成分プラズマモデルを採用した。
【結果】図 1 に、真空中と、一価及び二価塩の陽イオン、陰
イオンの一成分プラズマ中における、温度変化による高分子
鎖の慣性半径の推移を示す。対イオンによる効果よりも小さ
いが、同符号イオンの効果によっても慣性半径が小さくなっ
ていることが分かる。また、多価イオンのほうが自己凝縮に
おいて大きな効果があることが分かる。図 2、3 は対イオン、
同符号イオンそれぞれを考慮した場合の高分子電解質の有効
ハミルトニアンにおける、サイト間有効ポテンシャルを示し
たものである。近距離でのポテンシャルが小さくなっている
系ほど、図 1 において慣性半径が小さくなっていることが確
真空中
認できる。
一価対イオン
対イオンを考慮した場合では、温度が低くなるほど慣性
半径が小さくなっている。つまり、自由エネルギー最小の
原理において、エンタルピーの寄与が大きくなるほど、凝
縮している。従って、対イオンの効果による高分子電解質
の自己凝縮は、内部エネルギー減少の効果によるものであ
ると理解される。一
方、同符号イオンを
考慮した場合では温
度が高くなるほど慣
性半径が小さくなっ
ている。つまり、対
イオンとは逆にエン
トロピーの寄与が大
きくなるほど凝縮し
△ 一価対イオン(200K)
◇ 一価対イオン(300K)
ている。従って、同
□ 一価対イオン(400K)
符号イオンの効果に
▲ 二価対イオン(200K)
◆ 二価対イオン(300K)
よる高分子電解質の
■ 二価対イオン(400K)
自己凝縮は、並進エ
ントロピー増大の効
Distance / Å
果によるものである
図 2.対イオンを考慮したときの
と理解される。
サイト間有効ポテンシャル
[1] T Sumi and H Sekino, J. Chem, Phys., (印刷中)
一価同符号イオン
二価対イオン
二価同符号イオン
T/K
図 1.慣性半径
□
◇
△
■
◆
▲
一価同符号イオン(200K)
一価同符号イオン(300K)
一価同符号イオン(400K)
二価同符号イオン(200K)
二価同符号イオン(300K)
二価同符号イオン(400K)
Distance / Å
図 3.同符号イオンを考慮したときの
サイト間有効ポテンシャル