CuZnSnS薄膜のマグネトロンスパッタリング 成膜における硫黄原子の絶対密度及び付着確率 プラズマ応用工学研究室 高橋 裕太 実験背景・目的 Cu2ZnSnS4薄膜 (Copper Zinc Tin Sulfide, CZTS) 太陽電池の光吸収層として使用される材料 変換効率は12.6% (結晶シリコン太陽電池では20%程度) CZTSの長所 • • • • 光吸収係数が大きい (Si:102cm-1,CZTS:104cm-1) 光劣化がない 原料が地中に豊富 構成元素が無毒 研究用途において主流の成膜法・・・真空蒸着法、ゾルゲル法 など RFマグネトロンスパッタリング法 • ワンステップでの成膜が可能 • 大面積に緻密な薄膜を形成できる 量産性に優れる 実験背景・目的 RFマグネトロンスパッタリング法の問題点 成膜したCZTS薄膜にS原子が不足してしまい、 化学量論比を有する薄膜が得られない (一般にS原子の蒸気圧の高さが原因であるとされる) レーザー誘起蛍光法(LIF)による表面付着確率の評価 CZTS構成元素の 構成元素の 蒸気圧(400℃ ℃) 蒸気圧 S >102 (Torr) Zn >10-2 (Torr) Cu >10-16 (Torr) Sn >10-16 (Torr) Cu、Zn、Snについて表面付着確率はほぼ等しいという結果が得られたが、 SについてはLIF信号が得られなかった 真空紫外吸収分光法によるS原子の表面付着確率の評価 S原子は真空紫外領域(110-180nm付近)に主要な吸収スペクトルを持つため、 光源にECR SF6プラズマを用いた真空紫外吸収分光法により密度を測定 CZTS薄膜中においてS原子の組成比が低下する原因を解明するため、 スパッタリングプラズマ気相中のS原子の絶対密度、及び付着確率の評価を行った 実験体系及びS原子寿命の測定 RFタイミング 100ms RF電力 ON 90ms OFF 10ms ON 90ms S密度 吸収分光法 指数関数的減衰を示す 入射光強度と透過光強度との比から 気相中の粒子密度を求める方法 RF電源をパルス発振させ、 アフターグローにおける S原子密度の時間変化を測定 時定数ττ 密度の減衰時定数 (原子寿命)を算出 S原子寿命の測定 80mTorr 吸収率(1-It/Io)の時間変化 S原子密度の時間変化 11 0.4 10 0.2 Density (cm-3) Absorption Ratio 0.3 0.1 0 10 10 -0.1 -0.2 9 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 10 0 0.5 Delay After RF OFF (ms) 原子寿命τ80=1.13ms 1 1.5 2 2.5 Delay After RF OFF (ms) 3 付着確率の評価 時定数の式 2l (2 − α ) Λ2 p+ 0 τ= Dp vα (Dpは定数) τ0=0.71 ms τ80=1.13 ms τ100=1.38 ms τ150=1.58ms 近似直線の切片 2l (2 − α ) τ0 = 0 vα τ τ:原子寿命 Λ:拡散長 D D:拡散係数 p:圧力 p l0:体積/表面積 α: 付着確率 v: 平均速度 k:ボルツマン定数 k: T:原子温度 T: M:原子質量 粒子の平均速度 v= Tが等しいとすると 8kT ・・・ M のみに依存 πM 真空容器の体積/表面積l0は一定値であるから、切片τ0の比 及び M の比から付着確率αの比が算出できる τ 0S M S α Cu (2 − α S ) = τ 0Cu M Cu α S (2 − α Cu ) 付着確率の評価 時定数の式 2l (2 − α ) Λ2 p+ 0 τ= Dp vα (Dpは定数) 切片の比 τ0Cu : τ0Sn : τ0Zn : τ0S 1 : 1 : 1.3 : 2.1 τ0Cu=0.35 ms τ0Zn=0.36 ms τ0Sn=0.45 ms τ0S =0.71ms M の比 Cu: Zn : Sn : S 1 :1.02:1.37 :0.71 τ τ:原子寿命 Λ:拡散長 D D:拡散係数 p:圧力 p l0:体積/表面積 α: 付着確率 v: 平均速度 k:ボルツマン定数 k: T:原子温度 T: M:原子質量 v= αの比 Cu: Zn : Sn : S 1 :1.01:1.02 :0.505 Cu,Sn,Znの付着確率に対するSの付着確率は約0.5倍であると評価される 8kT πM 結論 CZTSターゲットRFマグネトロンスパッタリングプラズマの診断により S原子の絶対密度及び付着確率の評価行った 実験から得られたS原子の絶対密度は、過去の実験で得られた CZTS薄膜の堆積速度を説明できるだけの大きさがある S原子の表面付着確率が他の3原子の表面付着確率の約0.5倍である マグネトロンスパッタリングにより成膜されたCZTS薄膜においてS原子の組成比が 低下する原因は、S原子の表面付着確率が小さいことであると考えられる 補足 実験原理 スパッタリング法 ターゲット側を陰極として高周波(RF)電圧を印加 プラズマ中のAr+イオンが電極により 加速されターゲットに衝突 ターゲット原子が叩き出され、基板上で凝縮 RFマグネトロンスパッタリング法 ターゲット近傍に磁場を発生させる 高密度なプラズマを生成できる 膜堆積速度の向上 低ガス圧(数mTorr)での成膜 ( mTorr) カソード ターゲット粒子 実験原理 吸収分光法 プラズマに光を入射し、入射光と透過光との 相対強度からある粒子の密度を求める方法 プラズマ気相中の粒子密度 124.7nm 130.3nm 147.4nm 0.8 Absorption Ratio S原子は真空紫外領域(10-200nm付近)に吸収 スペクトルを持つため真空紫外吸収分光法を用いる 1 0.6 T=400K l=10cm 0.4 0.2 0 8 10 上式より気相中のS原子密度を算出 Io:入射光強度 It:透過光強度 It: l:吸収長 l n:粒子密度 n: gu:吸収線上準位の統計重率 gl:吸収線下準位の統計重率 λ:吸収線の波長 A:遷移確立 A kB:ボルツマン定数 : T:気相温度 T: M:粒子質量 M: 9 10 10 10 11 10 12 10 13 10 14 10 Density (cm-3) Wavelength (nm) 124.7 Terms gl – gu 3P-3D° Einstein A coefficients (s-1) 1.36×107 130.3 3P-3S° 2.95×107 5-3 147.4 3P-3D° 1.96×108 5-7 5-7 S原子密度の評価 プラズマ気相中の粒子密度 気相中のS原子密度 1012 1 0.6 T=400K vd=1nm/s Density (cm-3) Absorption Ratio 0.8 124.7nm 130.3nm 147.4nm T=400K l=10cm 0.4 1011 1010 0.2 9 0 108 10 109 1010 1011 1012 1013 Density (cm-3) Io:入射光強度 It:透過光強度 ll:吸収長 gu:吸収線上準位の統計重率 gl:吸収線下準位の統計重率 λ λ:吸収線の波長 A:遷移確立 kB:ボルツマン定数 T:気相温度 T: M:粒子質量 M: vd:堆積速度 ρs: ρs:硫黄密度 1014 0 2 4 6 8 10 Deposition Rate (nm/s) 堆積速度を1nm/sと仮定したとき S原子密度は1.4×1010cm-3 S原子密度の評価 Arガス圧 ガス圧 (mTorr) 吸収率 (%) 5 3.3 10 8.6 50 12.3 80 33.3 100 33.2 150 32.0 200 31.9 Arガス圧力80-200mTorrにおいて 吸収率は33%程度 S原子密度は9.1×1010cm-3 CZTS薄膜の堆積速度から予想される密度(1.4×1010cm-3)より大きい密度が見られた CZTS薄膜堆積速度(参考) RF電力80Wにおける 膜の堆積速度圧力依存性 RF電力80Wにおける 膜の堆積速度温度依存性
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