量子真空場ゼロ点振動力の測定

量子真空場ゼロ点振動力の測定
東京大学宇宙線研究所
増田正孝、青木利文、佐々木真人
東京大学地震研究所
新谷昌人
高エネルギー加速器研究機構
東保男
新たなる エネルギーフロンティア の重要性
最低エネルギー
真空
場の理論、Axion、
宇宙項、余剰次元、
重力
高エネルギー
加速器
素粒子標準理論
超対称性
起源の探究
最高エネル
ギー
宇宙
GUT相転移、重力、
超重粒子、余剰次
元、痕跡ν散乱、暗
黒エネルギー
量子真空場ゼロ点振動力
(カシミール力)とは
•
H.B.G.Casimir, Proc. K. Ned. Akad. Wet. 51, 793 (1948)
• QEDによる帰結:
真空中での電磁場のゼロ点振動エネルギー:境界条件により差を持つ
2枚の金属平板の存在するときと、存在しないときでの差をとる

1
c 1
c
c 2
V      2
 dkx dk y k k z  (2 )3  dk   720 d 3
 2
(2 ) 2 d
(V )
c 2
1.3 10 7
2
F 



N
/
cm
d
240 d 4
(d m ) 4
距離の4乗に反比例した引力
温度0K・誘電率∞が前提
実験におけるカシミール力
温度・誘電率・表面の粗さを補正
d
素粒子実験場としての真空
カシミール力の補正項に潜む未知の相互作用の解明
=>広いレンジでカシミール力の精密測定を目的とする
未知の力の結合定数につけられた制限
(300k
)
地震研Limit
測定感度
神岡Limit
SPARNAAY 1958 0.6~2μmレンジ
力(10-5N/cm2)
横棒:距離決定の不定性
Physica XXIV751-764
・天秤を用いて測定
・極板クロム、アルミ
・力の検出
静電容量による変位測定:10-8~10-9N
破線:理論値
距離(μm)
結果:理論値に対して100%程度の不定性
測定感度と距離決定精度が問題
Lamoreaux 0.6~6μmレンジの測定
実線:カシミール力理論値
電気力をフィットで引いた値
S.K.Lamoreaux, PRL 78,5 (1997)
・検出部は静電容量測定 測定感度10-11N
・零位法(静電気力によるフィードバック)
・球面鏡と平面鏡(金)の間に働く力
(3乗に逆比例)を測定
・5%精度でカシミール力を検証?
・理論式(温度・誘電率による補正)に誤り
・もっとも大きな誤差の原因:
測定中(1cycle32点測定 25分)のドリフト
我々の実験では各点ごとに距離を実測
AFMを用いた100~500nmレンジでの測定
曲線:理論値
・A.Roy, C.Y.Lin, U.Mohideen, PRD60 (1999)
・AFM(原子間力顕微鏡)の原理を用いた測定
・アルミの球(直径201.7μm)と平板
・1%精度の確認?
・理論式(温度・誘電率による補正)に誤り
カシミール力における温度効果
・有限温度による補正に誤り
この2つの実験では誘電率補正と温度補正を別々に計算
温度による補正:誘電率に大きく依存
・間違った理論に実験が合っている?
– M.Bostrom and B.E.Sernelius, PRL 84 4757 (2000)
補正を含まない理論式に対する相対値
Lamoreaux
Roy,Lin,Mohideen
誤った理論値
0k
0k
300k
300k
真空チェンバー内
我々の装置の概要
1.ねじれ秤 ワイヤーで吊された金属棒
2.トンネル電流検知部:
STM(走査型トンネル電流顕微鏡)の
原理を用いたねじれの角度モニター
探針をねじれ秤の先端の極板に近づけ、
その間に流れるトンネル電流が
常に一定(1nA)になるように
フィードバックで追尾
最小感度;10-9rad以下
3.微小力感応部:
2枚の極板を接近させ力を働かせる
周波数変調法を用いる
距離測定:極板間の静電容量から求める
3.微小力感応部150mm
2.トンネル電流検知部
装置のセットアップ
チェンバー内
地震研地下にて
真空チェンバー;
ロータリーポンプ
で10-2torr
ビューポート
レーザー
ロータリーポンプ
フォトダイオード
Casimir Plate 金を蒸着した石英
•
平面鏡:φ25.4mm、 面精度λ/10
•
球面鏡:φ40.0mm、R200mm 面精度λ/4
•
駆動系: ピエゾ11.6μm/100V,
電動ステージ
球面鏡
平面鏡
トンネル電流検知部の開発
粗動用マイクロ
メータヘッド
100mm
ピエゾ素子
313V/μm
バイトンゴム
とアルミ
70mm
原理
トンネル電流の大きな距離依存
性を利用したフィードバック
ピエゾに探針を取り付けたもの
STM用探針 0V
極板 +100mV
フィードバックテスト用の装置
+100mV
0V
プレアンプ
定電圧源
トンネル電流
STMフィード
バックコント
ローラ
ピエゾドライバ
-
+
高圧増幅器
1.探針を極板から1nm程度に
近づける。
2.極板と探針間に電圧100mV
をかけトンネル電流をモニター
2.常に一定(1nA)となるように
ピエゾに信号を送り、極板の動
きに追随
3.ピエゾに送った信号から極板
の変位量に換算
トンネル電流フィードバックテスト
ステージの熱膨張をフィードバックで再現
10
-10
-30
-50
-70
-90
-110
-130
熱膨張によるステージ(Al 4cm)の伸縮
変位予測(nm)
探針先端の変位(nm)
トンネル電流によるフィードバック制御(1nA)
0
20000
40000
60000
時間(秒)
・ピエゾで作った擬似的なねじれ振動
ピエゾへの出力電圧
20
0
-20
-40
-60
-80
-100
-120
-140
0
20000
40000
時間(秒)
60000
(振幅350nm,0.1Hz)に追随
トンネル電流による
フィードバック制御の
確立
トンネル電流の持つ変位感度
逆関数
Distance(nm)
図1
図2
図1 探針と極板間の距離 VS トンネル電流(Logスケール)
図2 トンネル電流(Logスケール 100nA付近) VS 探針と極板間の距離
100±0.1nAのときの変位 0.00013nmの分解能
トンネル電流の持つ可能な到達感度 7.1×10-17N :重力の4桁下
感度はバックグラウンドによって制限される
極板間隔の決定精度と装置の較正
距離の測定
極板間の静電容量をブリッジ回路にて測定
レーザー変位計を用いて距離の
測定精度を調べた。
0.6~30μmにて
理論値C=55.63LN(1+80.648/d)
Capacitance
350
とのずれは5%以内:
300
C(pF)
250
200
距離の決定精度 5%
150
100
50
0
0.1
1
10
100
d(μm)
piezo
12
d(μm)
10
+方向1
+方向2
-方向1
-方向2
8
6
4
2
0
0
20
40
60
V(V)
80
100
ピエゾの較正:11.6μm/100V
レーザーを用いたねじれ秤のノイズ振動測定
水平方向
時系列
120s
周波数スペクトル密度
単振動;周期120s Q=34
垂直方向
時系列
0.9Hz
0.9Hzにピーク;振り子運動(L=30cm)に対応
周波数スペクトル密度
ダンピング磁場中でのノイズ測定
・縦方向の振動(振り子モード)を抑える
・トンネル電流検知のダイナックレンジに長時間おさまるようにする
鉛直下側から垂直磁場(1500gauss)
水平方向
ピーク付近を拡大
渦電流減衰によりQ=2.4
垂直方向
ピーク付近を拡大
赤;磁場なし
青;磁場あり
磁場中で周波数変調を用いたときのS/N
S:計算による信号の振幅

F; Φ12mm,t=1mmの極板(Cu)間に働く力
(N)
lF
I;慣性モーメント(kg・m2)
I ( 2   0 ) 2   2 2
ω;変調角周波数(Hz)
2
ω0;ねじれ秤の共振角周波数(Hz)
N:実測によるノイズの振幅
γ;減衰係数(Hz)
スペクトル密度から求めた。
1.カシミール力に対するS/N
d(μm)
1
5
10
Q=3
測定時間50分
S/N(f=0.01Hz)
S/N(f=0.1Hz)
S/N(f=1Hz)
S/N(f=10Hz)
5.42×10 6
2.67×10 4
1.68×10 3
3.01×10 4
1.48×10 2
9.26×10 0
3.00×10 2
1.48×10 0
9.24×10 -2
1.45×10 1
7.12×10 -2
4.46×10 -3
2.ニュートン重力(Cu;φ12, 厚さ1mm d=1μm~10μm)のS/N
f
θ
S/N
0.01Hz
0.1Hz
1.96×10 0μrad
1.42×10 2
4.56×10 -3μrad 4.53×10 -5μrad 4.53×10 -7μrad
7.88×10 -1
7.85×10 -3
3.79×10 -5
重力に対してS/N=140
1Hz
10Hz
余剰次元重力があれば測定可能
極板間の力の測定
極板間に
極板間の接触電位差による電気力
300
フォトダイオードの変位(mV)
2
y = 0.0008x
250
200
接触電位差
+ 0.1473x - 1.6178
2次関数でフィット V=92mV
150
100
50
V
0
-50
-500
-300
-100
100
バイアス電圧(mV)
300
500
GND
斥力
曲線:電気力(1/d)でフィット
力:d=265μmを基準
とした相対値(N)
5E-10
4E-10
原因不明の斥力
極板間の電圧に
3E-10
2E-10
換算して227mV
1E-10
測定レンジ(1~10μm)にて変調測定を行ったが
0
100
150
200
250
距離(μm)
変調ねじれの時間変動の測定
300
キャンセルできず
斥力の原因(過去の論文etc)
極板表面の状態に起因?
電荷、塵、ロータリーポンプによる油、アウトガス
対策:洗浄、加熱処理、オイルレスポンプetc
まとめ
・カシミール力補正項の精密測定 => 未知の力へのプローブ
・過去の検証実験の問題と我々の改善:
1. 到達感度 => トンネル電流検知
•
1 ~ 10μm レンジで カシミール力補正項 の精密測定
•
1mm ~ 1μm レンジで 余剰次元重力 を検証
2. レンジ精度 => 各点で静電容量の測定
3. 有限温度効果の取り扱い => 最近の理論の整備
・新たな測定方法の確立。試料表面の状態の理解が急務
展望
装置の低温化・温度制御 => 温度補正項の議論に決着