歯 周 病 巣 由来 のviridans streptococci(緑 色 レ ン サ 球 菌)の 分 離

916
感 染 症学 雑 誌
歯 周 病 巣 由 来 のviridans
streptococci(緑
第62巻
色 レ ン サ 球 菌)の
第10号
分 離
レ ンサ球 菌 感 染症 研 究 会(会 長:中 島邦 夫)
宮 本
泰1)小
原
寧1)山
下 田
祐 子2)田
中
融3)
井
志 朗2)
1)元 神 奈 川 県衛 生 研 究 所細 菌 病 理部
2)神 奈 川 県衛 生 研 究所 細 菌 病 理部
3)塩 野 義製 薬 株 式 会社 臨 床 検 査部
(昭和63年3月3日
受 付)
(昭和63年4月12日
受理)
要
197'年4月
よ り1980年1月
uiridans streptococci(緑 色 レ ン サ 球 菌)138株
1ar abscess)が74株,歯
炎(osteomyelitis
が1株,残
旨
の 間 に 大 阪 市 内 の19ヵ 所 の 歯 科 診 療 施 設 か ら収 集 さ れ た 歯 周 病 巣 由 来 の
肉膿 瘍(gingival
に つ い て 調 査 を 行 った .病 巣 の種 類 別 で は 歯 槽 膿 瘍(alveo-
abscess)が5株
,歯 周 炎(periodontitis)が12株,顎
骨 骨髄
の 他 の 歯 性 膿 瘍 が13株 ,そ の 他 の 口腔 内 炎 症(oralinfection)
maxillaris)が4株,そ
余 の28株 は 病 名 不 明 で あ った .分 離 菌 株 の 同 定 はFacklamの
sanguis IIが 最 も多 く81株(58%)を
はsanguisIの6株(4.3%)で
占 め,次
あ っ た .そ
位 のmitisの18株(13%)を
分 類 法 に 準 拠 し て 行 っ た .S
大 き く引 き は な した
.第3位
の 他 の株 の 菌 種 と分 離 株 数 は 次 の と お りで あ る .anginosus-
constellatus4株,MG-intermedius2株
,mozbillorium1株,残
余 の26株 は 菌 種 同 定 が で き な か っ た .
こ れ ら の 株 は 生 化 学 的 活 性 が 最 低 で ,一 部 性 状 の 脱 落 が 示 唆 さ れ た.
は じめ に
阪 回 生 病 院,大
本 調 査 は 塩 野 義 製 薬 株 式 会 社 の 依 頼 に よ り,
1979年4月
よ り翌80年1月
的 に も関 西,特
が,わ
に か け て 行 わ れ ,地 域
に 大 阪 の み に 片 寄 っ た成 績 で あ る
が 国 の特 に人 口密 集 地 区 に お け る菌 周 病 巣
由 来 の緑 色 レ ンサ 球 菌(緑
連 菌)群
の菌種 分布パ
阪 警 察 病 院,大
大 阪 赤 十 字 病 院,大
阪厚 生 年 金 病 院 ,
阪鉄 道 病 院,関
北 野 病 院,済 生 会 中 津 病 院,新
海 歯 科 医 院,新 住
友 ビル 診療 所,住 友 病 院,天 王 寺 病 院,東
立 中 央 病 院,村
輸 送 並 び に 分 離 培 養 法:歯
肉,歯 槽 等 の 歯 周 組
えて
織 の病 巣(歯 槽 膿 瘍,歯
報 告 す る次 第 で あ る.筆 者 ら1)の研 究 で,川
崎病
た 膿 汁 は 好 気 的 に,ま た はTranswabに
原 因菌 がStmptococcus
Sanguisで
あ
肉炎 な ど)よ
間 以 内 に ウマ 脱 線 維 血 液 液5%加
わ が 国 で も本 菌 種 を含 め,緑 色 レ ンサ 球 菌 の 菌 種
直 接 塗 抹 後,37℃,18hr好
の 重 要 性 が見 直 され て く る こ とが 予 想 され る.
α-溶血 環 を 指 標 と して 集 落 を採 取,さ
材 料 と方 法
19施 設 で あ る.(ア
イ ウエ オ順)
阪大学歯学
部 付 属 病 院 口腔 外 科 第1講 座 お よ び第2講
別 刷 請 求先:(
入 れ て,
血 液寒天培地 に
気 的 に分 離 培 養 さ れ,
らに 同種 類
の 血 液 寒 天 培 地 上 で,オ
阪 府 下 の 下 記 の歯 科 診 療
朝 日新 聞診 療 所,市 立 池 田 病 院,大
り採 取 され
塩 野 義 製 薬 臨 床 検 査 室 に まで 運 ば れ,到 着 後2時
る こ とが 解 明 され つ つ あ る現 況 に 照 し て,今 後,
病 的 材 料 提 供 施 設:大
大阪市
田歯 科 医 院,吉 原 歯 科 医 院
タ ー ン を代 表 す る も の と考 え られ るの で,敢
(MCLS)の
西 電 力 病 院,
座,大
プ トヒ ンdisc ,バ シ トラ
よ り発 育 阻 止 さ れ ず ,か つSF培
地
(ニ ヅス イ)で 発 育 阻 止 され る菌 株 を緑 色 レ ンサ球
シ ンdiscに
菌 群 と した.こ
れ らの 株 の集 落 の1白 金 耳 量 の菌
体 を筆 者 らの ゼ ラチ ンdisc法2)3)の 媒 質(小 ガ ラス
管 入,0:05mlの
減 菌 水 を 加 え て37℃ 温 浴 に て 加
温 溶 解 す る.た だ し 英 文 原 著2)の 中 の 媒 質 組 成
917
昭 和63年10月20日
sodium
L-ascorbate
さ せ,シ
0.5%は5%の
誤 り)に
浮遊
リ カ ゲ ル 入 り デ シ ケ ー タ に 入 れ て,真
ポ ン プ に て 空 気 を 吸 引,乾
燥 後,密
空
封 して 神 奈 川
緑 色 レ ン サ 球 菌 群 の 同 定 法:上
記 検 体 を 再 び少
滅 菌 水 に 溶 解 再 浮 遊 し,そ
落 を 採 取,グ
培 養 後,緑
ラ ム 陽 性 球 菌 で,双
ン サ 状 分 裂 形 態 を 確 認 し,同
infusion
broth(3ml)に
た 活 性 の 低 い菌 株 で あ った.
病 巣 由 来 別 で は 歯 槽 膿 瘍alveolar
agar
そ の他 の 歯 性 膿 瘍13,歯
周 囲炎periodontitis12,
に は特 定 の 関 係 を認 め なか っ た.
考
色 溶 血 環 の集
球 菌 な い し短 レ
じ集 落 の 微 量 をheart
接 種,37℃,1夜
abscessが 最
に 歯 肉膿 瘍gingivalabscess5,
そ の他 の 順 で あ った が,病 巣 の種 類 と菌 種 との 間
の1白
金 耳 を ヒ ツ ジ 脱 線 維 血 液5%加columbia
培 地 に 塗 抹 し,37.,1夜
れ ら は部 分 的 に 生 理 活 性 の脱 落 し
も多 く74例 で,他
衛 研 に ま で 郵 送 さ れ た.
量(0.05m1)の
で あ った が,こ
深 く注 目に 値 す る.す な わ ち,smguis
とで9'株(71.7%)を
培 養,
察
菌 株 の 分 布 が少 数 の 菌 種 に集 中 した こ とは 興 味
IIとmitis
占め た 点 で あ る.こ の2菌
遠 心 分 離 集 菌 菌 体 を ス ラ イ ド グ ラ ス 上 に と り,
種 は イ ヌ リン とエ ス ク リン が共 に 陰 性 で 近 縁 の 菌
3%オ
種 で あ る.ま たmitisは
キ シ ドー ル 水 溶 液 を1滴
ゼ 反 応 陰 性(ブ
加 え て,カ
ド ウ 球 菌 と の 鑑 別)を
タ ラー
溶 血 環 の 性 状 を 除 け ばA
群 溶 連 菌 とほ とん ど同 じ生 理 学 的 性 状 を 持 つ 菌 種
確 認 し た.
つ い で に 液 体 培 地 発 育 菌 に つ き レン サ状 形 態 を確
で あ る こ とを 想 起 す れ ば(ヒ
認.
が 専 らA群
群 の 中 の 種 の 同 定 法:緑
種 に 分 類 し たFacklam4)の
色 レ ン サ 球 菌 群 を10菌
しarginine分
解 性 はNivenら6)の
だ
方 法 に準 拠 し
育 貧 困 の3株
績
お よ び 雑 菌 混 入1株
如 く
SsanguisIIが
最 高 位 で81株(58%)を
2位 のmitis18株(13%)を
%),が
が76株(20.9%)で,そ
め て い る.勝8)に
の 統 計 で も,菌
で あ る.
ま た,他
bacterial
の4菌
Table
占 め,
大 幅 に ひ き 離 し た.
1
Viridans
species
s.b.e.
略)と
報 文 で もS.B.E.由
れ ぞ れ 第1と
も呼 ば
来364株
isolated
第2位
で"抜
from
種 別 の 集 計 は な い が,緑
歯 そ の 他 の 歯 科 治 療"が
various
strept.の
and periodontal
色 レン サ
因別の集計
首 位(45.5%)で
種 別 の 集 計 は な い が,こ
oral
を 占
よ る 国 内 の 感 染 性 心 内 膜 炎(I.E.)
要 な 所 見 で,viridans
類 不 能 株 は26株(19%)
streptococcal
endocarditisの
球 菌 が 首 位 を 占 め て い て(56.7%),原
あ っ た.菌
種 の 内 で はsanguisI6株(4.3
首 位 を 占 め た.分
来Stmp-
い しStreptococcus
の 内,Ssangu空1が106株(29.1%),SanguisII
を除 く
138株 の 菌 種 別 疾 患 名 別 の 成 績 はTable1の
種がヒ ト
よ びNiven7)以
erzdbcarditisな
れ た 程 で,Facklam4)の
神 奈 川 衛 研 に 送 付 さ れ た 緑 色 レ ン サ 球 菌142株
の 内,発
S.san8uisはWhiteお
tococcus
(subacute
た.
成
菌 に属 す る か ら),こ の2菌
の 歯 周病 巣 か ら優 位 に分 離 さ れ て も不 思 議 で は な
い.
分 類 に 準 拠 しCowan
ら5)の 同 定 手 技 に し た が っ て 分 類 を 行 っ た.た
トの 病 原 レ ンサ 球 菌
れ は極 め て重
侵 入 門所 が 歯 の周
diseases
918
感 染症 学 雑 誌
辺 で あ る こ と を 明 白 に 示 し て い る.上
の 成 績 の み な らず 英 国 のCentral
Lab.の
成 績9)で もS.B.E.す
tious Endocarditis)の
るmutansも
記 のCDC
Public
夫,
%)で
510-522,
原 因 菌 に う蝕 の 原 因 菌 で あ
成 績 と今 回 の 我 々 の 成 績 を 比 較 す る こ
め た.彼
りにsanguis
の に 対 し て,我
3)
前 者 で は 第1位(32.9
も検 出
IIが 絶 対 優 位(58.7%)を
の 材 料 は プ ラ ー ク(plaque,歯
占
4)
垢)で あ る
々 の は 歯 周 病 巣 で あ る と い う検 体
の 由 来 に よ る 差 異 で あ る こ と が 判 る .Clarke10)
に よ る 本 菌(Smutans)の
5)
最 初 の 記 載 もプ ラ ー ク
由 来 株 で あ っ た.mutmsは
プ ラ ー ク形 成 か ら
6)
う蝕 す な わ ち エ ナ メ ル 質,象 牙 質 な ど の 歯 牙 硬 組 織
の 脱 灰 を お こ さ せ る の に 対 し て,sanguisは
う蝕
7)
形 成 へ の 関 与 は 少 な く,む
る 歯 周 病(periodontal
Eubacterium
し ろ軟 組 織 の 病 変 で あ
disease)の
こ と が 推 測 さ れ る.も
原 因に関与す る
どの 嫌 気 性 菌 種
が 本 病 の 主 要 原 因 菌 と し て 疑 わ れ る こ と は 報 告13)
さ れ て き た.し
か し佐 々 木14)の 報 告 で も 好 気 性 菌
で は α-Streptococcusが
最 も 多 く検 出 さ れ,嫌
性 菌 種 で もBacteroidesに
次 い で,嫌
球 菌 で あ るPeptostreptococcusが
気
気 性 レンサ
第2位
を 占め
8)
に よ る も の か(今
ク 法 に よ る 培 養 も,CO2一
わ れ な か っ た),わ
よ る も の か 否 か,こ
の点 は 将 来 の検 討 課 題 の一 つ
で あ る.
文
1) 宮 本
12)
献
泰, 山井 志 朗, 渡 辺 祐子, 新 川 隆康, 仁 井
田太 郎, 数野 勇 造, 武 田植 人, 佐 々木斉, 川 音 晴
日 医 師 会 誌,
1980.
久,
蓋 弥,
木 下 四 郎,
石川
烈,
長田
内 藤 祐 子,
豊,
斉藤
29:
荻 原 さ つ き, 竹
奥 田克 爾,
高 木 添一
歯 周 治療 後 にみ られ る歯 周病 原 菌 に対 す る血
正:
1-11,
日 歯 周 誌,
26:
308
歯 周 疾 患 病 巣 に お け る黒 色 色 素 産 生
Bacterioidesの
フ ラ ン器 に よ る培 養 も行
が 国 と欧 米 との 食 生 活 の違 い に
感 染 性心 内 膜 炎 の現 況 .
清 抗 体 価 の 変 動 に つ い て.
-316
, 1984.
れ が技 術 上 の 問 題
ー ソ
孝:
869-886,
渡辺
郎:
も検 出 さ れ な か っ た こ と は ,
回 は 分 離 培 養 に 際 し て,ロ
1987.
9) Parker, M. T. & Ball, L. C.: Streptococci and
aerococci associated with systemic infection in
man. J. Med. Microbiol., 9: 275-302, 1976.
10) Clarke, J. K.: The bacterial
factor in the
aetiology of dental caries. Br. J. Exp. Pathol.,
5: 141-147, 1924.
今 回 の 成 績 で は 好 気 性 な い し微 好 気 性 菌 種 で あ
や や 特 異 な 印 象 を 受 け る が,こ
染
, 1946.
勝正
84:
11)
て い る こ と は注 目に値 す る.
るSmutansが1株
sanguis感
gonorrhoeae by the gelatin-disc method. Brit. J.
Venereal Dis., 55: 90-93, 1979.
Obara, Y., Yamai, S., Nikkawa,T., Shimoda, Y.
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bacterial endocarditis. J. Bacteriol., 51: 717
-722
ち ろ んBacteroides11)12)や
Actinobacillusな
患 者 に関 す る二
2) Yamai, S., Obara, Y., Nikkawa, T., Shimoda,
Y. & Miyamoto, Y.: Preservatirn of Neisseria
高 率 に 見 ら れ る 理 由 が 理 解 さ れ る.
あ る の に 対 し て,我 々 の 材 料 で は1株
さ れ ず,代
第10号
マ ウ ス に よ る 病 理 組 織 学 的 モ デ ル . 感 染 症 誌, 61:
な わ ち,1.E(Infec-
と は 意 義 深 い.Smutansが
川 崎 病(MCLS)
三 の 臨 庄 検 査 所 見 とStreptococcus
Health
歯 科 領 域 の 材 料 か ら得 ら れ た 菌 種 に つ い て 前 記
のCDCの
武 村 民 子:
第62巻
検 出 率 と 分 離 菌 種.
日 歯 周 誌,
1987.
13) Moore, W. E.C., Holdeman, L.V., Cato , E.P.,
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& Ranney, R. R.: Comparative bacteriology
of juvenile periodontitis. Infect. Immun., 48:
507-519, 1985.
14)
佐 々 木 次 郎:
感 受 性.
歯 性感 染 症 か らの検 出菌 とそ の薬 剤
歯 医 学 誌,
6:
89-104,
1987.
919
昭 和63年10月20日
Isolation
of Viridans
Streptococci
Yasushi
MIYAMOT01),
Yasushi
from
the Lesions
of Periodonatal
Diseases
OBARA2), Shiro YAMAP), Yuko SHIMODA2)
Yu TANAKA3)
&
1) Formerly of the Department of Bacteriology & Pathology, Kanagawa Prefectural Public Health Laboratory
2) Department of Bacteriology & Pathology, Kanagawa Prefectural Public Health Laboratory,
54 Nakaocho Asahi-ku, Yokohama 241
3) Department of Clinical Laboratory, Shionogi Pharmaceutical Co. Ltd. 2-5-1 Mishima Settsu-shi Osaka-fu
The 138 strains of viridans streptococci derived from periodontal lesions collected from 19 dental
institutions in Osaka during the period from April 1979 to January 1980were examined. 74 were from
alveolar abscess, 12 from periodontitis, 5 from gingival abscess, 4 from osteomyelitis maxillaris, 13
from other oral abscess, 1 from other oral infection, and 28 were unknown oral origine. Species
classification was performed according to Facklam's scheme. Strains of S. sanguis II was the highest in
order, i.e., 81(58%)followed by S. mitis with much less figure, 18(13%).S. sanguis I was the third, i.e., 6
(4.3%). Other species isolated and their numbers were as follows: anginosus constellatus, 4; MGintermedius, 2; and morbillorium, 1. The rest 26 strains were unclassifiable since their physiological
activities were lowest, suggesting partial disruption of the characters.