子宮頸癌の治療と診断 コルポスコピーについて

教育講演
子宮頸癌の診断・治療
川崎医科大学
コルポスコピーについて
産婦人科学 中村隆文
子宮頸癌は癌腫の中で細胞診による検診が一番有効であることは周知の事実で
ありますが、1990 年まで順調に子宮頸癌の罹患率は低下してきていたのですが、
1990 年代後半から再上昇してきています。2001 年に罹患率は 10 万人当たり約 12
人で、2005 年の死亡率は 10 万人当たり約 4 人です。39 歳までの若年女性で一番多
いのが子宮頸癌です。全女性の 2005 年罹患数は子宮頸癌が約 9000 人、子宮体癌が
約 8500 人、部位不明が約 800 人です。子宮頸癌は病理組織で主に扁平上皮癌と腺
癌に分類されます。子宮頸癌は 0 期の上皮内癌からIa 期の微小浸潤癌さらに肉眼
で診断できる腟部に限局するⅠb 期から膀胱や直腸に浸潤するⅣa 期と進展してい
きます。 鼡径部や傍大動脈リンパ節に転移するとⅣb 期に分類されます。
日本
産婦人科学会に登録される子宮頸部上皮内癌は癌検診の普及とともに年々増加し
てきていますが、依然として約 60%は浸潤癌で発見されます。1980 年代の報告で
は子宮頸癌は 22 歳前後で異形成になり 28 歳前後で上皮内癌に進行して 40 歳代で
微小浸潤癌になり 50 歳代に臨床的浸潤癌になるのが子宮頸癌の自然史でした。
1982 年の統計では 50~60 歳代が浸潤癌のピークでしたが、2004 年の統計では 30
歳代にピークがシフトしてきています。
未婚未経産の若年女性の子宮頸癌が増加してきていますが、子宮頸癌の治療も進
歩してきています。 一般的にはⅠb 期の浸潤癌では広汎子宮全摘出術を施行する
のですが、最近では腟部に限局する2㎝以下の子宮頸癌では患者様が希望すれば子
宮体部を温存する広汎子宮頸部摘出術も可能になってきました。早期子宮頸癌であ
れば子宮頸癌術後でも体部を温存して妊娠出産ができたという報告が多く出てき
ています。
ツール・ハウゼン先生は子宮頸癌の主要原因が、特定のタイプのヒトパピローマ
ウイルス(HPV)であるとするウイルス説を早くから唱え、1983 年に子宮頸癌組織
から HPV 16 型および 1984 年には HPV 18 型を分離し、彼の学説を立証しました。
この基礎研究の成果は子宮頸癌の治療、そして現在接種開始している子宮頸癌予防
ワクチンの開発へと研究の道を拓いたのです。そして人類を脅かす致死的な病気の
原因を特定し、子宮頸癌予防ワクチンの道を広げたといいうことで 2008 年にノー
ベル生理・医学賞を受賞されました。
HPV は感染後 2 年経過すると感染率が 10%まで低下しますが、持続感染するケー
スが癌化すると考えられています。WHO の推計では世界で約 3 億人が発癌性 HPV に
感染していて、3000 万人が CIN1〜CIN2 に進行、さらに 1000 万人が CIN3 に進行し
て、約 45 万人が進行癌になると報告しています。
つまり発癌性 HPV 感染者の 0.15%
が進行癌になると推定しています。
細胞診で特徴のある所見のコイロサイトーシスは電子顕微鏡の検査で HPV が感
染してウイルス粒子が増殖している像であることは証明されています。
ジョー
ジ・パパニコロウ先生は細胞診の発見者です。1917 年にコーネル大学医学部解剖
学教室に入り、実験遺伝学研究の一環として動物の腟上皮細胞の性周期による変化
の観察に取り組んでいました。1923 年に彼はヒトの腟内容物に研究を進め、やが
て偶然 1 人の子宮頸癌患者の塗抹標本中に癌細胞を発見したのです。彼は 1928 年
に“新しい癌診断法”という論文を報告しました。15 年後の 1943 年に婦人科医と
の共著である“腟の塗抹標本検査による子宮癌診断法”でようやく認められ、1948
年米国癌協会が専門学会を招集して以降、”Pap smear test”として急速に世界的
に普及しました。
現代では細胞診だけでもかなりの精度で子宮頸部軽度異形成・中等度異形成・高
度異形成・上皮内癌・浸潤癌など子宮頸癌の多段階発癌を推定診断できます。 し
かしながら婦人科医も細胞診検査をする際に、すでにある程度の精度で多段階発癌
を診断できるのです。その検査がコルポスコピー(子宮腟部拡大鏡検査)です。婦
人科臨床医は内診する前に、外陰部を観察して続いて腟鏡診をして腟粘膜や帯下の
状態から腟内の炎症を判断して、また不正性器出血がある場合は出血部位も肉眼で
観察してから子宮腟部や頸管から細胞診のサンプルを採取します。 肉眼でもⅠb
期以上の浸潤癌であれば確認できるのですが、異形成・上皮内癌・微小浸潤癌は肉
眼では到底診断ができません。しかしながらコルポスコピーをすればかなりの精度
で前癌病変(CIN1〜CIN2〜CIN3〜CIS)から初期浸潤癌の診断ができます。もちろ
ん正確な診断にはコルポスコピー下の狙い生検でサンプルを採取して病理組織検
査をして確定診断をしてもらうことになります。しかしコルポスコピーを習熟する
と生検する回数が段々少なくなってきて病理医の仕事を軽減できます。また実際に
長期間コルポスコピーで患者様を経過観察することで、微小浸潤癌の確定診断に必
要な円錐切除術の件数も減らすことが出来ます。 つまり CIN1 の 1%が浸潤癌に
進行し、CIN2 では 5%、CIN3 でも約 10 数%しか浸潤癌に進行しないので、ほとん
どの患者様の異形成は持続するかまたは軽快して消失するのです。 しかし上皮内
癌では 10~20%が浸潤癌に進行すると報告されています。私はコルポスコピーで
経過観察をして、上皮内癌に進行してきた症例や頸管内の病変のためコルポスコピ
ーで観察できない症例は円錐切除術をして微小浸潤癌が隠れていないかを確定診
断するようにしています。
最近では HPV 検査も併用することが出来るようになってきたので、コルポスコピ
ーの回数も減らすことが出来るようになってきています。HPV 検査でウイルスのタ
イプも同定することにより、持続感染または再感染なのかも判定すればもっと正確
に患者様ごとに検診期間を決定して経過観察ができるようになります。将来は子宮
頸癌予防ワクチンと細胞診・HPV 検査・コルポスコピー・組織診をうまく組み合わ
せながら癌検診を施行すれば子宮頸癌が撲滅される日が来る可能性もあります。