解説(青)生化学 平成 21 年度(2009) 定期試験問題 平成 21 年 7 月 24 日 金曜日(II 校時) 総合成績 >=90 点以上(6 人)、 >=80(17 人)、 >=70(14 人)、 >=60(6 人)、 <60(10 人)。 試験平均 69.3 点。レポート(二回、計2点)、WebClass 問題解答(4 章、計 4 点) 加点後の平均 75 点。総合で 80 点以上の人が 23 人、70 点以上が 37 人いるので、全体 としては難しくはない。 しかし、試験が 60 点未満で、加点後に>=60 点(合格)になった人はひとりのみ。 つまり、総合で<60 点の場合、ほとんど 50 点代前半(5 人)。他は、40 点台(4 人)、 30 点台(1 名)。このあたりの人は、合格した人に比べて、明らかに力が落ちるとい わざるを得ない。今後いっそうの努力で追いついてほしい。基礎学力は試験直前だけ では伸びない。 根本 20090727 番号 +レポート( 問題1 氏名 )+Web 解答( 試験( )+Q&A( ) ) =最終成績( ) 以下の文章は正しいか,誤っているか? もし誤っているなら,その理由を簡潔に示せ. (3 点)平均 2.75 点(92%) pH=5 の酢酸溶液がある.この溶液の水素イオン濃度は10 -5M であるから,これを純水で 1000 倍希釈するとその水素イオン濃度は 10-8M となる.すなわち pH=8 となり,この溶液は塩 基性(アルカリ性)を示す. 答 「酢酸をいくら希釈してもアルカリ性にはならない」では説明不十分。純水がpH=7 であ ることをいうべき。 (実は希釈すると酢酸の解離度があがるので、それほどpH は上昇しないのだ が、そこまでは問わない) 問題2 (Web より) log2=0.3 として水素イオン濃度が 2x10-6(M)の溶液のpH はどれか.(M =mol/l) (3 点)平均 2.72 点(91%) 1. pH 4.3 2. pH 4.7 3. pH 5.3 4. pH 5.7 5. pH 6.3 基本 問題3 以下の反応式を参考にして問に答えよ.(2 点x3=6 点) Pi=無機リン酸 平均 5.1 点(86%) 式 A グルコース + フルクトース → スクロース + H2O ΔGo= 5.5 kcal 式 B ATP+H2O → ADP +Pi ΔGo= -7.3 kcal 式 C グルコース + ATP → グルコース-1-P + ADP ΔGo= 不明 1 式 D グルコース-1-P + フルクトース → スクロース + Pi ΔGo= 不明 問1 式 C と式 D を介してスクロースが合成される二段階の反応を一つの式 E にまとめて記せ. ただし両辺共通の項目は削除せよ. 答(式 E) 基本 問2 式 E の標準自由エネルギー変化(ΔGo)を求めよ. 答 基本 問 3 サトウキビはグルコースとフルクトースからスクロースを合成する.その反応は式 A によ るのか.それとも式 E か?その理由も示せ. 答 自由エネルギーの概念は動物も植物も細菌も無生物もまったく同じ。 植物は光エネルギーを使用はするが、それは(光エネルギー)+NDAP+ → NADPH の産生 に。結局、それから ADP→ATP へ。最終的には反応 E となる。 標準エネルギー変化がプラスかマイナスかで説明すべき。実際の反応は、標準自由エネルギー 変化ではなく、 (実際の反応に関与する成分の濃度を考慮した状態、つまり)自由エネルギー変化 で決まるのだが、大まかには標準状態の正負で判別できる(例外: 標準自由エネルギー変化が 小さな正の値をもつ反応であれば、反応に関与する成分の濃度に大きな偏りがあれば、標準自由 エネルギー変化が正だとしても、その反応は起きうる。つまり、自由エネルギー変化は負になり える)。 問題 4 以下は平田雅人先生の特別講義内容からの出題である.(2 点x4=8 点) 平均 5 点(63%) 問 1 細胞膜を作る主要成分化合物の構造を図に示す.この化合物を構成する A~D までの 成分は何か.(ただし例として A は解答済) <A ><B><C><---------------D---------------> A (イノシトール,セリン,コリン,エタノールアミンの4種類) B ( 基本 ) C ( 基本 ) 2 D ( 問2 (Q&A/Web より)真核生物の細胞膜には下の図のようにコレステロールが含まれて 「脂質」は正しいとはいえぬ。全体がリン”脂質”なのだから。) いる.コレステロール含量の多い細胞膜はコレステロールが少ない細胞膜に比べて どのような性質を示すか. 特別講義の次の週に回覧した Q&A や WebClass に記述済。よく見ていた人はできた 答 はず。コレステロールは原核生物にはないが、真核生物の細胞膜には普遍的に含まれる成分 である。過剰になると血管が詰まるので問題となる。非常に硬直な分子である。不飽和脂肪 酸の脂肪酸部分にできた膜の隙間に入ると細胞膜を硬化させる(試験問題の図参照) 。 余談だが、よく言われる「善玉」、「悪玉」コレステロールとは、コレステロールそのもの ではなく、それを運搬する血中リポタンパク質(HDL、LDL)のこと。コレステロールとい う物質は一種類だけ。なぜ善玉、悪玉なのか、それ以上は各自学習せよ。 問題 5 【3 章 章末問題/過去問】タンパク質 A はタンパク質 B と結合して複合体 AB をつ くる.細胞の中で A,B,AB の濃度がそれぞれ 1μM(10 -6 M)であって,かつ平衡状態 であるとする.以下の問いに答えよ.解答には表 1 を参考にせよ.(3 点x3=9 点) 平均 8 点(89%)。 (何度も)過去問。教科書問題でもある。9 割近い正解率なのでこれができ ない人はつらい。 問1 A+B→AB 問2 ここで,もし A,B,AB はそれぞれ 10 nM(10 の反応の平衡定数を計算せよ. 答 -8 M)で平衡状態にあるとしたら 平衡定数はいくらになるか. 答 3 問3 問2の条件で同じ割合(1:1:1)で 表1 AB 複合体が存在するためには,そして それがもしもすべて水素結合によるとす れば、問1のときに比べて AB 複合体には 水素結合が何個余分に存在することになる か. 1 個の水素結合の結合強度は約 1 kcal/mol に 相当する. 答 3 理解必須 結合エネルギーと平衡定数 自由エネルギー変化の関係を理解しよう。 問題 6 以下のタンパク質はどの細胞器官に送られるだろうか.以下の図を参考にせよ. (2 点x 4=8 点) 平均 4.3 点(53%)過去に類似問題。 A 小胞体への輸送シグナル配列を N 末端に,核への輸送配列を中央部分にもつ. 答 細胞外または細胞膜。 まず、小胞体に行くことは行くのだが、そこにとどまれない。結局、細胞外へ行く。 (ただし、膜 に係留される疎水性領域を持つ場合は細胞膜タンパク質になる)。 実は話はより複雑。小胞タンパク質のすべてが、C 末の KDEL シグナルを持っているわけでは ない。そういうものはどうして小胞体にとどまれるのかはわかっていない。別のシグナルがある のかもしれない。しかし、たぶん(KDEL シグナルを有する)小胞体タンパク質と結合している のだろうと思われる。 氏名 B 答 ミトコンドリア移行シグナルを N 末端に,小胞体に保留するシグナルを中央部分にもつ. ミトコンドリア C 小胞体に保留するシグナルだ けを C 末端にもつ. 答 細胞質 4 D どんなシグナルも持たない. 答 問題 7 細胞質 グルコースからピルビン酸が生成するまでの解糖系反応を示す.以下の問いに答えよ. 段階 5 以降の反応で C3 化合物になることに留意せよ.(3点x2=6点)平均 3.5 点(59%) 問1 全体で何分子の ATP が増えるか,または減るか?(ただし産生あるいは減少した NADH に由来する分は考慮しなくてよい.) ほぼできている 減少という答を書いた人は重大な問題あり。解糖系の本質を理解していないことになる。 実はこの後に2(NADH)→2(NAD+)となる反応があって、嫌気的解糖系が完結する。だから」 NADH からの ATP の産生は考慮せずに解糖系といえば ATP が( 解で OK.。 (ただし好気的条件では 上の答 )できる、という理 1NADH あたり、 (3ではなく、ここでは)2ATP ができる ので、グルコース1分子より、(上の答え)+4 の ATP ができることになる。ついでに覚えよう。 問2 反応全体の標準自由エネルギー変化を求めよ. スクロースを作る問題 3 の応用編。 5 (単純に足して)-8.5 kcal(/mol)という答。標準自由エネルギーの基本を知ってはいるが、本当 には身についていない。1 個 150 円のりんごを 3 個買っても、150 円といっているに同じ。 -15.7 kcal 惜しい! C3 反応はx2 とするまではよいのだが、反応4で生じた C3 化合物の うち、反応5では、ジヒドロキシアセトンリン酸についてだけ起こればよい。だから、反応5は x2にしないのだ。 -17.5 kcal 数人正解。よくできましたね。 なお、単位は kcal/mol だが、/mol は自明のこととして kca のみでもよい。仕事量なので J、 kJ を使う教科書もある。 問題 8 (Essential 問題 5-1213 より) 2枚の電子顕微鏡 写真は2種類の細胞の核である.この写真から,どちらの細胞 がさかんに遺伝子を転写しているかを判断し,その理由を述べ よ.(10 点) 出題範囲や問題には全く影響なかったが,この問題は Essential 問題 5-13 と同じ問題である.訂正します. さて 皆さんの解答であるが,もう少し出来ることを期待して いたが、出来た学生とそうでない集団とに分かれてしまった. この写真は細胞の核の写真であり,細胞自体の写真ではないこ と(B の細胞でよく見えるが、ミトコンドリアは円の外側に見え る)、密度の高い部分と低い部分での DNA の状態を理解すると解 ける問題.逆に覚えていたり,全く知らなかったりする人が予 想以上に多かった.Essential 細胞生物学の 5-13 の解答を参照 のこと. 問題 9 (Essential 問題 8-2 より) [ ]の中に適切な語を下の語句より選び解答欄に 記入せよ.同じ語句を何度用いてもよい. (1 点 x10=10 点) 細菌内で増殖するあるウィルスには,2通りの複製方法がある.プロファージ状態となって,ウ ィルス DNA が[ 1 ]の染色体に組み込まれ,細菌のゲノムとともに複製されて世代から世代へ と受け継がれていく方式と,溶菌反応によって,ウィルス DNA が細菌の染色体とは別個に細胞内 6 で何回も[ 2 ]を繰り返す状態とである.後者の場合,できた[ 3 ]DNA からウィルス外 被タンパクがつくられ,複製したウィルス DNA を包み込んで新しいウィルス粒子を多数つくると ともに細胞を破壊し,外に出る.どちらの状態をとるかは,ウィルスが指令する cI と cro という 2種類の遺伝子調節タンパクによって制御されている.プロファージ状態では cI が発現し,溶菌 状態では cro が発現する.cI は,cro を指令する遺伝子の[ 4 ]であり,cro の方は cI を指 令する遺伝子のリプレッサーになっている.プロファージ状態のウィルスをもった細菌に短時間 紫外線を照射し,cI が分解されたとしよう.cro を指令する遺伝子のリプレッサーである[ 5 が分解されると, [ 6 ]の発現を抑えていたものがなくなるため,このウィルスは[ 7 態になる.紫外線照射を止めても,いったん[ 8 ]が発現すると,それが[ 9 ] ]状 ]の発現を 抑えるので,[ 10 ]状態には戻れないのである. 語句 リプレッサー 紫外線 cI プロモーター 溶菌 プロファージ 複製 破壊 ウイルス 解答欄 (1) 細菌 cro アクチベーター オペレーター 分裂 細菌 (2) ミトコンドリア 複製 (4) リプレッサー (5) cI (7) 溶菌 (8) cro (10) プロファージ (3) (6) (9) ウイルス cro cI (2)に分裂と書いた人が多かったが,点数が1点であることと,複製という言葉があるので× にした.その他置き換えても無理を言えば意味が通るものもない訳ではないが,より適切な 言葉が語句に存在するので,模範解答以外は全て×とした.それでも,この問題は予想通り 正解率が高かった. 題 10 次の文で正しいものには○,誤っているものには×を記せ. (計 12 点) 平均点 8 点.a は問題 11 のコドン表を見れば正解できる.b, c は 7 章の内容とも関連のある (やや応用)問題.d, e, f は章末問題 7-7 からの出題である.特に問題 f の内容,及び用 語の示すことを理解すること. a( )でたらめな DNA 配列では,平均して約 20 コドンごとに終止コドンが現れる. b( ○ )抗生物質耐性遺伝子は水平伝搬によって細菌間を移動する. c( ○ )相同な DNA 領域上の反復配列間の不等交差によって遺伝子重複が起こる. d( )ある遺伝子の mRNA を合成するには DNA 二本鎖のどちらを鋳型にしても良い. e( )mRNA に ATTGACCCGGTCA という配列が存在することがある. f( )定常状態の細胞に含まれるタンパク質の量は,それぞれのタンパク質の合成速度, 触媒活性,分解速度によって決まる. 7 問題 11 遺伝暗号に関する次の文を読み,問いに答えよ.(6 点+4 点=10 点) 平均点 5 点.問題(しかも日本語!)を読むところであきらめてはいけない.教科書 p.246,247, 図 7-25 からの出題である.問題 a については,教科書 p.248-255 参照. ニーレンバーグは,大腸菌細胞の破砕液を遠心分離し,遠心によって得られた (ア)上清に放 射性アミノ酸を加えると,放射能標識されたタンパク質が合成されることを見いだした.こ の上清を用いて,ポリ-U, ポリ-A とポリ-C がそれぞ れアミノ酸 Phe, Lys, Pro を指定することが明らかに なった.しかし,(イ)ポリ-UUC のような混合ヌクレオチ ドからは有益な情報は得られるものの,どのコドンが どのアミノ酸を指定するのかは曖昧であった. a 下線部(ア)に含まれるタンパク質合成に関与する酵 素,細胞内構造,およびタンパク質因子をそれぞれ挙 げよ. 酵素 細胞内構造 タンパク質因子 b 下線部(イ)について.その理由を簡潔に記せ. 問題 12 真核細胞における mRNA の成熟過程について説明せよ.(5 点) 平均点 4 点.解答は教科書 p.258 他参照.スプライシングだけでも高率で配点したが,真核 細胞,原核細胞,キャップ形成,ポリアデニル化についても十分に理解すること. 答 8 問題 13 ( 以下のフローシートは肝細胞が食物からエネルギーを得るしくみの概略である. )の中に適当な用語を入れよ.該当するものがない場合は空欄とせよ.(0.5x21=10.5 点) 小麦粉でんぷん コラーゲン (糖質) (タンパク質) ↓ (a (b ) (c ) (e — ↓ ) ペプシン (f ) (h マルターゼ、 キモトリプシン イソマルターゼ ペプチダーゼ類 (i 単糖も可) ) ←小腸の消化酵素 リパーゼ ↓ グルコース ←胃内の消化酵素 ↓ トリプシン ) ↓ ) — ↓ 膵アミラーゼ )←口腔内の消化酵素 — ↓ ↓ (j ↓ — ↓ (g (脂質) ↓ 唾液アミラーゼ) (d オリーブオイル ↓ (k アミノ酸) (l 脂肪酸 、グリセロール)←小腸から吸収され 一部 MG モノアシルグリセロール ↓ (m ↓ 解糖系) (n る時の分子形態 ↓ ) (o 脱アミノ反応 糖新生 )←細胞質での反応 脂肪酸のアシル化 グリセロールは解糖系 系,経路処理 機構(ミトコンドリアへ入る ための準備過程) ↓ (p ↓ ピルビン酸 ) (q ↓ アミノ酸によって異なる ) アセチル CoA も可 (r ピルビン酸 アシルカルニチン)←ミトコンドリアに入 る時の分子形態 脂肪酸でも可 アセチル CoA キャリア (キャリアがあればそれは何か) =カルニチン オキザロ酢酸 α—ケトグルタール酸 スクシニル CoA フマル酸 ↓ (s ↓ クエン酸回路) (t 電子伝達系 ↓ クエン酸回路) (u 電子伝達系 β—酸化 ) ←ミトコンドリア内の処理 クエン酸回路 機構, 回路,反応系(プ ロトンポンプまでの過程 電子伝達系 A T P ( エ ネ ル ギ ー 産 生 ) 三大エネルギー源から ATP 産生までの概略を示したものである。健常者の正常な生活環境の場 合と飢餓(絶食)状態の場合、糖尿病など内科系の疾患のある場合では、3つの割合が変化しま す。 9 食物も単独でシンプルなものばかりではありませんので実際にはかなり複雑になります。また これらのルートは相互に蜜に関係し、[糖新生]を介して柔軟に対応できるようになっています。 採点に当たっては、たくさん項目、選択肢がある場合はどれか1つ記載があれば正解としてい ます。消化酵素はたくさんありますが医療系の国家試験レベルのものしか取り上げていませんの で、しっかりと理解してください。 ****************************************************************** 生化学と生化学実験合否は 1 週間以内に成績掲示板に掲示.答案は,合否掲示後,1 週間以 内に講座(根本)にて開示.持ち帰り不可.ただし借用のうえコピー可.採点ミス等があれ ば,発表後1週間は訂正可.要再試者答案は,持ち帰り用コピーを用意しておく予定.解説 (あるいはヒント)は Web UP 予定. ************************************************************************* 生化学授業(本年度,あるいは将来)に関連する要望,意見,感想を書いてください. けっこうコメントありました。参考にいたします。ありがとうございました。20090728 以上 WebClass 過去問に掲示 10
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