公共経済学

16. 年金1
16.1
日本の公的年金制度
16.2 重複世代モデル
16.3 積立方式
16.4 賦課方式
16.5
補論*:国庫負担方式と国債による積立方式
16.1
日本の公的年金制度
日本における公的年金制度の体系と加入員数(万人)平成 21 年 3 月末現在
国民年
金基金
(65)
H20,3,31
厚生
年金
基金
確定給
適格
付企業
退職
年金
年金
厚生年金保険
(3444)
確定拠出
年金(企
業型)
職域部分
共済年金
(451)
H20,3,31
自営業者等
第 1 号被保険者
(2001)
国民年金(基礎年金)
第 2 号被保険者の
民間サラリーマン
被扶養配偶者
第 3 号被保険者
第 2 号被保険者
(1044)
(3895)
(6940)
(出所)厚生労働省年金局・年金財政ホームページ
公務員等
15.2 重複世代モデル
各世代は 2 期間(青年期と老年期)生きるとする。
第t世代=t期の期首から t+1 期の期末まで生きる世代
ct1 :第t世代の青年期(=t期)の消費量
ct 2 :第t世代の老年期(=t+1 期)の消費量
Lt :第t世代の人口
Yt :第t世代の青年期における労働所得(老年期の労働所得はゼロ)
s t :第t世代の青年期における私的な貯蓄
r :利子率(一定)
bt :第 t 世代の一人当たり年金負担額(保険料)
 :一人当たり年金給付額(受取額)
期
世代
1
2
3
4
1
Y1 c11 b1 s1
2

3
4
5
c12
Y2 c21 b2 s 2

c22
Y3 c31 b3 s3

c32
Y4 c41 b4 s 4

c42
第 t 世代の給付を第 t 世代の保険料(の運用資産)で賄う割合に依存して、第 t 世代の公的年
金の「方式」は異なる。
第 t 世代の公的年金は「積立方式」=その割合が 100%
第 t 世代の公的年金は「賦課方式」=その割合が 0%
第 t 世代からある方式の公的年金を導入(に移行)
=第 t 世代以降の世代の給付をその方式で賄う公的年金
本章では第 1 世代から何らかの方式の公的年金が導入(することが第 1 期にアナウンス)さ
れたとする。
第 t 世代の青年期と老年期の予算制約式は次のように求められる。
ct1  Yt  st  bt
ct 2  (1  r )st  
:青年期の予算制約式
(16-1)
:老年期の予算制約式
(16-2)
16.3 積立方式
公的年金はある世代への年金給付の財源を
① その世代が積み立てた保険料
② 次の世代に賦課する(負担させる)保険料
で賄うことになる。
第 1 世代から(年金の給付を開始するとともに、1 世代から保険料の徴収を開始する)
積立方式の年金制度を導入したとする。
第 t 世代の一人あたり年金負担額(積立金)bt は運用されて t+1 期には元
利合計が (1  r)bt になる。
積立方式の公的年金とは、各期において公的な年金債務残高(支払を約束
した年金給付総額)と積立金残高が均衡することを要請する方式である。
したがって、t+1 期(の期首)の公的な年金債務残高(t+1 期に支払を約
束している年金給付総額)と積立金残高が均衡するためには
[年金債務残高=積立金残高]
(16-3)
 Lt  (1  r )bt Lt
が成立しなければならない。
すなわち、t 期の保険料 bt と給付額  に、
bt 

1 r
 Lt  (1  r )bt Lt (16  3)
  (1  r)bt
(16-4)
という関係が成立しているときに年金債務と積立金が均衡する。
第 1 世代から(給付対象者となる)積立方式の年金制度が導入されて、
それが継続される場合は(16-3)または(16-4)の関係が t  1, 2, に対して
成立することになる。
(16-1)、(16-2)、(16-4)より第 t 世代の 2 期間(青年期と老年期)を通じた
予算制約式を、 bt を用いずに表すと
c t1 
ct 2
 Yt
1 r
bt 

1 r
である。
ct1  Yt 
(16  4)
ct 2  
 bt
1 r
(16-5)
ct 2  (1  r )st   (16  2)
ct1  Yt  st  bt (16 1)
(問題 16-1)第 t 世代の 2 期間を通じた予算制約式(16-5)を図示しなさい。また、
最適消費点 (ct*1 , ct*2 ) とその点を通る無差別曲線を図示しなさい。さらに、
最適な私的貯蓄と公的貯蓄の和 st*  bt を図示しなさい。
ct 2
ct1 
ct 2
 Yt
1 r
ct*2
1 r
ct*1
Yt
st*  bt
ct1
(問題 16-2)公的年金制度を拡充(  あるいは bt を増加)しても、私的な貯蓄と公的な貯
蓄の和 st*  bt が変化しないことを示しなさい。また、 bt を bt だけ増加させた
とき、最適な私的貯蓄 st* の増分 st* は bt を用いてどのように表せるだろうか。
ct1  Yt  st  bt
(16-1)
bt 「 btの増分」
st* 「(
btに対応した) st*の増分」
ct*1  Yt  st*  bt
問題 16-1より (ct*1 , ct*2 ) は
st*  Yt  ct*1  bt
st*  bt
 あるいは bt には依存しない。
st*  st*  Yt  ct*1  (bt  bt )
(16-5)より各世代の最適な消費パターン (ct*1 , ct*2 ) は年金給付額 (すなわち年金
積立額 bt )に依存しない。
したがって、積立方式の公的年金制度の導入は個人の効用水準にも何ら影響し
ないことになる。
また、 bt を増加させることによる公的な年金制度の充実は、最適な私的貯蓄 st* をその
増分と同額だけ減少させる。
st*  bt
換言すれば、積立方式による公的年金の拡大によって私的貯蓄と公的貯蓄の和 st*  bt
は変化しない。
16.4 賦課方式
公的年金はある世代への年金給付の財源を
① その世代が積み立てた保険料
② 次の世代に賦課する(負担させる)保険料
で賄うことになる。
第 1 世代から(年金給付を開始するとともに、第 2 世代から保険料の徴収を開始す
る)賦課方式の公的年金を導入したとする。
賦課方式の公的年金とは、各期の年金の財政収支が均衡する、すなわち支出(年金
給付総額)と収入(保険料総額)が均衡することを要請する方式である。
Lt =t+1 期における第 t 世代に対する年金給付総額
bt 1 Lt 1 =t+1 期における第 t+1 世代の保険料総額
したがって、t+1 期の公的年金の財政収支が均衡するためには
[支出=収入]
(16-6)
Lt  bt 1 Lt 1
が成立する必要がある。
人口成長率が一定の値 n であるとする( n  1 )
。すなわち、
Lt 1  (1  n) Lt
(16-7)
である。
したがって、賦課方式の公的年金の財政収支が均衡するのは、(16-6)と
(16-7)より bt 1 を  と n を用いて表すと、
bt 1 

1 n
Lt  bt 1 (1  n) Lt
Lt  bt 1Lt 1 (16  6)
(16-8)
の関係が成立するときである。
第 1 世代から(給付対象者となる)賦課方式の公的年金制度が導入され、それが継
続される場合は、(16-6)あるいは(16-8)の関係が t  1, 2, に関して成立することに
なる。なお、 b1  0 である。
【第 2 世代以降の各世代の予算制約式】
(16-1)、(16-2)、(16-8)より第t世代( t  1, 2, )の2期間を通じた予算制約式を、
bt を用いずに表わすと
c
 (n  r )
ct1  t 2  Yt 
1 r
(1  r )(1  n)
ct1 
ct 2
b (n  r )
(16-9)
 Yt  t
1 r
1 r
が成立する。
ct1 
ct1  Yt  st  bt
ct 2  (1  r )st  
bt 

1 n
(16-1)
(16-2)
(16-8)
ct 2


 Yt 

1 r
1 r 1 n
ct1  Yt 
ct 2  
c 

 bt  Yt  t 2

1 r
1 r 1 n
(問題 16-3)第 t 世代の 2 期間を通じた予算制約式(16-9)を図示しなさい。また、
最適消費点 (ct*1 , ct*2 ) とその点を通る無差別曲線を図示しなさい。
ct 2
ct1 
ct 2
 (n  r )
 Yt 
1 r
(1  r )(1  n)
ct*2
1 r
ct*1
Yt 
 (n  r )
(1  r )(1  n)
ct1
(問題 16-4)n  r と n  r のそれぞれのケースにおいて、賦課方式の公的年金の拡充( 
あるいは bt を増加)が、第 2 世代以降の世代の消費パターンと、それらの世代の
効用水準にどのような影響を与えるかを検討しなさい。また、 n  r のケースに
おいて、bt が bt だけ増加( bt  0 )したときの最適な私的貯蓄 st* の増分を s t*
とおけば、 bt + st*  0 であることを示しなさい。なお、各期の消費財が正常財
(=上級財)であるとする。
ct 2
  (1  n)bt  0
ct*2
ct*1
Yt 
 (n  r )
(1  r )(1  n)
ct1
(問題 16-4)n  r と n  r のそれぞれのケースにおいて、賦課方式の公的年金の拡充( 
あるいは bt を増加)が、第 2 世代以降の世代の消費パターンと、それらの世代の
効用水準にどのような影響を与えるかを検討しなさい。また、 n  r のケースに
おいて、bt が bt だけ増加( bt  0 )したときの最適な私的貯蓄 st* の増分を s t*
とおけば、 bt + st*  0 であることを示しなさい。なお、各期の消費財が正常財
(=上級財)であるとする。
ct 2
  (1  n)bt  0
ct*2
ct*1
Yt 
 (n  r )
(1  r )(1  n)
ct1
(問題 16-4)n  r と n  r のそれぞれのケースにおいて、賦課方式の公的年金の拡充( 
あるいは bt を増加)が、第 2 世代以降の世代の消費パターンと、それらの世代の
効用水準にどのような影響を与えるかを検討しなさい。また、 n  r のケースに
おいて、bt が bt だけ増加( bt  0 )したときの最適な私的貯蓄 st* の増分を s t*
とおけば、 bt + st*  0 であることを示しなさい。なお、各期の消費財が正常財
(=上級財)であるとする。
ct*1  0
ct 2
ct*1  st*  bt
bt  st*  0
ct*2
 st*  bt
1 r
ct*1
・Y Y 
st*  bt
t
t
 (n  r )
(1  r )(1  n)
ct1
ct1  Yt  st  bt
【第1世代の予算制約式】
第 1 世代の 1 期の予算制約式は
c11  Y1  s1
(16-10)
であり、2 期の予算制約式は(15-2)に t  1 を代入したものであるので、
c12  (1  r )s1  
(16-11)
である。
したがって、第 1 世代の 2 期間を通じた予算制約式は
c11 
となる。
c12

 Y1 
1 r
1 r
(16-12)
t  2, 3,
(問題 16-5)賦課方式の公的年金の拡充(  あるいは bt の増加)が、第 1 世代の消費点
*
*
(c11
, c12
) と、その世代の効用水準にどのような影響を与えるかを検討しなさい。
なお、各期の消費財が正常財(=上級財)であるとする。
c22
c11 
c12

 Y1 
1 r
1 r

*
c11
0
c11  Y1  s1
*
c11
 s1*
*
c12

s1*  0
1 r
*
c11
Y1
b1  0
Y1 

1 r
c11
s1*  b1  0
問題 15-2 より積立方式の公的年金の拡充は、私的貯蓄と公的貯蓄の和を変化させない。
しかし、問題 15-4 と問題 15-5 より、 n  r ならば賦課方式の公的年金の拡充は私的貯蓄と
公的貯蓄の和を減少させることになる。
16.5
補論*:国庫負担方式と国債による積立方式
年金の給付は全額国庫負担で賄うとともに、その国庫負担の財源は全て同じ期の
(次の世代に対する)労働所得税で賄うとする。
第 t 世代の 1 人あたりの労働所得税を Tt と置けば、世代 t の青年期と老年期の予算
制約式は、それぞれ
ct1  Yt  st  Tt
ct 2  (1  r )st  
となる( t  2, 3, )
。
T1  0 であり、 t  1 期の財政収支の均衡条件が
( t  2, 3, )
Lt  Tt 1 Lt 1
(16-13)
(16-14)
(16-15)
なので、人口の成長率が n であることを考慮すれば、
Tt 1 
である。

1 n
( t  2, 3, )
(16-16)
(問題 16-6) (16-13)、(16-14)、(16-16)より(16-9)が成立することを示しなさい。
ct1  Yt  st  Tt (16  3)
ct 2  (1  r )st   (16  4)
ct1  Yt 
  ct 2
1 r
ct1  Yt 
ct1 
Tt 1 
 Tt
  ct 2
1 r


1 n
(16  6)

1 n
ct 2
 (n  r )
 Yt 
(16  9)
1 r
(1  r )(1  n)
問題 16-6 より、
「賦課方式の年金制度」と「全額国庫負担の年金制度+労働所得税」は各世
代に与える影響は同じであることになる。
労働所得税と(満期が 1 期の)国債発行を組み合わせることにより、
(部分的な国庫負担を
伴う)積立方式が実質的に賦課方式と同等になることを説明しよう。
年金国債=年金給付財源調達のために発行される国債
議論の簡単化のため、 r  n のケースに議論を限定する。
Tt =第 t 世代の(1 人あたりの)労働所得税
bt =第 t 世代の(1 人あたりの)国債発行額(=国債購入額=年金積立額)
第 1 世代の年金給付  は全額国庫負担で賄う。すなわち、 T1  b1  0 である。
第 2 世代以降の第 t 世代の労働所得税 Tt と国債発行額(=購入額) bt は、
Tt 
bt 
  ( r  n)
(1  n)  (1  r )

1 r
( t  2, 3, )
( t  2, 3, )
(16-17)
(16-18)
であるとする。
(16-18)より第 2 世代以降の各世代は、フェアな年金に対応するだけの積立はしてい
る。そして、第 2 世代以降の青年期と老年期の予算制約式はそれぞれ、
c1t  Yt  st  bt  Tt
ct 2  (1  r )(st  bt )
である。
(16-19)
(16-20)
(問題 16-7) (16-17)と(16-18)より、 t  1 期の年金収支の均衡条件、
Lt  Tt 1 Lt 1  bt Lt 1
(16-19)
が成立することを示しなさい。
Lt 1  (1  n) Lt
Lt  Tt 1Lt 1  bt Lt 1
Tt 
  Tt 1 (1  n)  bt (1  n)
  ( r  n)
(1  n)  (1  r )
Tt 1 (1  n)  bt (1  n) 
bt 
 ( r  n)
(1  n)(1  r )

1 r
(1  n) 

1 r
(1  n) 
 (r  n)  (1  n)
1 r

1 r
 
(問題 16-8) (16-17)、(16-19)、(16-20)より、第 2 世代以降の第 t 世代の 2 期間を
通じた予算制約式が(16-9)と一致することを示しなさい。
c1t  Yt  st  bt  Tt
c1t  Yt 
ct 2  (1  r )(st  bt )
c2 t
 Tt
1 r
Tt 
c1t  Yt 
ct1 
  ( r  n)
(1  n)  (1  r )
c2t
 ( r  n)

1  r (1  n)(1  r )
ct 2
 (n  r )
 Yt 
(16  9)
1 r
(1  r )(1  n)
16. 年金1
16.1
日本の公的年金制度
16.2 重複世代モデル
16.3 積立方式
16.4 賦課方式
16.5
補論*:国庫負担方式と国債による積立方式