FX Weekly 平成 27(2015)年 1 月 9 日 GLOBAL MARKETS RESEARCH チーフアナリスト 内田 稔 三菱東京 UFJ 銀行 A member of MUFG, a global financial group Table of contents 1 今週のトピックス 2 来週の相場見通し 3 来週の経済指標・イベント 4 マーケットカレンダー 1. 今週のトピックス (1) 国内生産回帰と企業の声 チーフアナリスト 内田 稔 (2) 原油価格急落のバブル破裂の側面 シニアマーケットエコノミスト 鈴木 敏之 2. 来週の相場見通し (1) ドル円:上下とも決め手欠き、しばらく膠着か 予想レンジ 118.00 ~ 121.00 (2) ユーロ:ECB による国債買入導入期待が高まる 予想レンジ 対ドル: 1.1650 ~ 1.1900 対円: 138.50 ~ 142.50 (3) 豪ドル:次回 RBA 理事会に向けて様子見ムード続く 予想レンジ 対ドル: 0.8000 ~ 0.8300 対円: 95.00 ~ 99.00 (4) 人民元:現水準を中心としたレンジ推移を予想 予想レンジ 1 FX Weekly | 平成 27(2015)年 1 月 9 日 対ドル: 6.1950 ~ 6.2350 対円: 19.00 ~ 19.50 (1) 国内生産回帰と企業の声 大幅に値下がりした日 本円 10 月 31 日の日銀による追加緩和によって、市場では強力な円の 先安観が醸成されている。一部では、日銀が物価安定目標達成のた め、意図的に円を押し下げているとの指摘もきかれるほどだ。12 月以降は円安は概ね一服しているが、それでも幅広い通貨に対して 円安が進んでおり、ドル円相場で言えば、追加緩和発表前の 109 円 台と比べ、ちょうど 10 円ものドル高円安水準で推移している。 円安へのけん制 こうした円安に対し、その恩恵を受けやすいとされる大企業・製 造業を多く含む日本経済団体連合会(経団連)の榊原会長でさえ、 121 円台まで急騰したドル円を念頭に安定した為替相場の重要性や、 政府による政策的な目配りの必要性を訴えている。円安への警戒が 広がる理由は様々だが、期待されたほど輸出数量が伸びていないこ とが大きいのだろう。2007 年以降、円高対応として、多くの製造 業が海外生産比率を高めた結果だ。それだけに輸入原材料のコスト 上昇といった円安の負の面に注目が集まりやすい。しかし、ここに きて、一部の製造業が国内生産比率を高める可能性に言及した報道 が目立ち始めている。2007 年末と安倍政権が発足した 2012 年末と を比較すると、製造業から失われた雇用は約 170 万人にも上る。今 後、製造業の国内生産比率が高まれば、国内の雇用増を通じ、景気 や物価に対して、上向きの圧力となることが期待される。そうなれ ば、円安に対する評価も今とは違ったものとなってこよう。もっと も、当方に寄せられる数多くの製造業を中心とする企業の声を集約 すると、国内生産比率を高めるためには、以下の通り、少なからぬ ハードルがあり、一筋縄ではいかないようだ。 ① 国際的にみて高い 電気料金 多くの企業が、国内生産比率を高める際の懸念事項に挙がるのが、 米国の 2 倍以上ともされる割高な日本の電気料金だ(第 1 図)。加 えて、円安の影響で原燃料の輸入価格が上昇し、さらに電気料金が 上昇した面もある。仮に、電気料金の高さが製造業の国内生産回帰 を阻む一因だとすれば、日銀の量的・質的金融緩和の負の効果が、 思わぬところで現れたことになる。 第 1 図: 電気料金の国際比較(2012 年、産業用) (セント/KWH) 25 20 税額 本体価格 19.4 1.3968 14.9 15 13.4 0.4154 11.6 4.8872 1.7748 10 18.0032 6.7 12.9846 5 9.8252 10.0128 フランス ドイツ 0 日本 (資料)資源エネルギー庁 2 今週のトピックス | 平成 27(2015)年 1 月 9 日 アメリカ 英国 ② 人材不足 次いで、企業から多く寄せられる声が、人材不足だ。足元、完全 失業率は 1997 年以来となる 3.5%まで低下するなど、労働市場の改 善が続いている(第 2 図)。しかし、この 3.5%は日銀黒田総裁が 構造的失業率とする水準。即ち、これ以上の失業率低下は容易には 進まないということだ。企業の声として多いのが、好条件を提示し ても、求める人材が見つからないという、企業と求職者間のミス マッチである。今のままでは、日本の労働市場が、製造業の国内生 産回帰の流れに対応できない可能性が高い。 第 2 図:日本の完全失業率(季節調整済) (%) 6.0 5.5 5.0 4.5 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 (資料)総務省データより、、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 3 08 10 12 14 (年) ③ 潜在的な円高回帰 への恐怖 次に多いのが、潜在的な円高への警戒である。2014 年 12 月短観 (回答期間 11 月 12 日~12 月 12 日、期間中の円最安値は 12 月 8 日 の 121 円 85 銭)でさえ、2014 年度下期の大企業・製造業の想定為 替レートは 104 円 04 銭だ。過去、何度もドル円相場の急落(円の 急騰)を目の当たりにしてきただけに、こうした警戒が完全に解か れる可能性は極めて低いようだ。円安局面でも輸出が伸びないこと は、裏を返せば円高になって輸出が落ち込むダメージを最小限に抑 えることが可能になったということだ。つまり、今の日本の製造業 はそれだけ、為替変動リスクに対する耐性を高めたことになる。 ④ 地産池消という新 しいスタンダード 海外生産比率が高まってから相応の期間が経過しており、今では サプライチェーンのほか、物流ネットワークなど、様々な網の目が 既に海外生産を前提として構築されているようだ。加えて、国内外 での生産設備を維持するだけの体力を有する大企業に比べ、中堅・ 中小企業の多くは、生産拠点を海外に移転する際、国内の生産設備 を解消したケースも少なくないという。このため、為替レートが円 安になったというだけで、国内生産回帰とはなりにくいようだ。さ らに、新興国でも消費者のニーズが徐々に多様化するなか、単なる 日本からの輸出による商品の売り切りから、商品のアフターケアや それを担う人材育成の必要性、安定した域内物流網の構築などを考 今週のトピックス | 平成 27(2015)年 1 月 9 日 慮すれば、やはり「地産地消」或いは、「地産地商」がスタンダー ドとなりつつあるようだ。 海外生産メリットも低 下 とは言え、中国を始め多くの新興国では、人件費が上昇し、海外 生産のメリットが低下しているのも事実。加えて、アジア通貨に対 する円安が進んだ結果、海外で生産した中間財を日本に輸入するコ ストもここ数年で跳ね上がっている(第 3 図)。そもそも海外生産 には、技術流出、日本と異なる労務慣行、治安など様々なリスクも 付きまとう。割高の電気料金や人材不足が徐々に解消する場合、製 造業の国内生産回帰の流れが本格化する可能性が高まろう。いずれ にせよ、今後ともこうした日本の製造業の動向は、日本の景気や雇 用、物価の行方を占ううえで、引き続き注目すべき問題となろう。 尚、国内生産比率が高まり輸出が増加し、原油市況の低位安定に よって、輸入額も減少すれば日本の貿易収支の黒字化が視界に入る。 単純に考えれば円高圧力となるが、雇用増を通じたデフレ脱却が実 現するなら、極端な円高トレンドへと逆戻りする可能性は低いだろ う。 第 3 図人民元の対円相場 (円) 22 20 18 16 14 12 10 07 08 09 10 11 12 13 (資料)Bloomberg データより、、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 14 チーフアナリスト 4 今週のトピックス | 平成 27(2015)年 1 月 9 日 15 (年) 内田 稔 (2) 原油価格急落のバブル破裂の側面 原油価格の急落をみて、インフレ率の低下が予想されても、米国 の金融政策が正常化という利上げに動きだす意向が、堅固であるこ とが、1 月 7 日に発表された先般の FOMC の議事要旨で一段と明ら かになった。原油価格の下落は米国には、減税と同じ効果があり、 その需要刺激によって、生産能力の余剰(スラック)が小さくなり、 インフレ率を押し上げる動きになるはずというのが、その主張であ る。その主張には、金融政策を政策金利の変更でとれる通常型に戻 したいという意向も反映されているとされる。ここで注意を要する のは、原油価格の下落の経済への影響について、Fed の主張が確認 できるまで時間を要することであろう。この原油価格の下落には、 バブルの破裂の様相があるからである。 ① 昨今の原油価格低下の性格 原油価格の下落にはバ ブル破裂の様相 バブルの価格の動きは、上昇はエスカレーター、下降はエレベー ターといわれる特徴がある。1990 年にかけての日本の株価指数も、 IT バブルといわれたナスダック指数も、そして近年では米国の住 宅価格にも、そうした動きが観察される。原油価格も、共通すると ころがある。 第 1 図: 原油価格(WTI) 第 2 図: S&P Case Shiller 住宅価格指数 160 220 140 200 120 180 100 160 80 140 60 120 40 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 (年) (資料)Bloomberg 収録のデータより、、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリ サーチ作成 100 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 (年) (資料)S&P のデータより、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成 この原油価格下落の動きにバブルの破裂をみるとするならば、関 連する経済部門(国、産業)に、バブル破裂型の経済的悪影響への 警戒をすべきであろう。住宅バブルが破裂したときに、「住宅価格 は下がったので、住宅が安く買えることになったから、超大型の減 税と同じ効果がある」とは言っていなかったはずである。 5 今週のトピックス | 平成 27(2015)年 1 月 9 日 バブル破裂の場合の悪 影響は、投資の抑制、 金融コストの上昇、バ ランスシートの調整に よる経済不振の持続 バブル破裂の経済的悪影響は、次のように整理できる。第一は、 関連投資が萎縮することである。供給能力が過剰によることが露呈 したことで、採算が悪化する見通しになり投資需要は抑制される。 第二に、負債に投資資金を求めていた場合、その返済が滞り、金融 面に悪影響が出る。信用スプレッドが拡大するなどして、資金調達 コストが上がれば、それは、他の国、セクターに波及する。第三に、 その借り手が、手取りの収入の減る中で、採算のあわなくなった投 資の資金の返済をすることによりバランスシート調整を迫られる。 これは、支出を抑制させる。昨今では、こうした調整が、イノベー ションを実際のビジネスに活かす投資を抑制するために、経済の生 産性(TFP:Total Factor Productivity)の上昇を妨げ、経済の潜在成 長率を押し下げるという説明もなされるようになっている。 原油価格がこれだけ急激に下がると、こうした問題が、石油収入 に依存する国、地域、産業には及びだすことには、注意を向けなけ ればならない。例えば、米国の雇用者全体に占めるエネルギー産業 の従事者は小さな数字であるが、原油価格の上昇に促されて増えて きたことは現実である。石油産業に調整が起きれば、雇用などへの 影響は耳目を集めるであろう。 エネルギー産業では雇 用調整も見込まれる ただし、エネルギー産 業の雇用規模は大きく ない 第 3 図: 原油価格上昇が先導した石油関連雇用の増加 (ドル/バーレル) 160 (前年同月比、%) 15 140 10 120 5 100 0 80 60 -5 40 -10 20 0 -15 88 90 92 94 96 98 原油価格〈左目盛〉 00 02 04 06 08 10 12 米国石油関連雇用〈右目盛〉 14 (年) (資料)米労働省、OPEC のデータより、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成 注意を要するのは、原 油価格の低下がドル高 をもたらす経路 今、厄介なことは、金融市場の動きが激しくなっていることであ る。雇用などマクロ経済レベルの影響は、米国経済全体でみれば、 大きくはないと言っても、金融市場が反応すると、それではすまな いかも知れない。たちどころに経済全体に影響が及ぶこともありえ るので、監視が必要になる。そこで注目が要るのが、ドル相場にな る。 ② ドル高の影響に注目要 原油価格上昇はドル安、原油価格下落はドル高という関係は安定 している。 6 今週のトピックス | 平成 27(2015)年 1 月 9 日 第 4 図:原油価格とドルの実質実効為替相場指数 (ドル) 80 (ドル/バーレル) 140 120 90 100 100 80 110 60 120 40 130 20 0 140 00 01 02 03 04 05 06 07 原油価格〈左目盛〉 08 09 10 11 12 13 14 (年) ドルの実質実効為替相場指数〈右目盛〉 (資料)BIS,OPEC のデータより、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成 原油価格が下落することが、ドル上昇をもたらすとなると、経済 へのドル高の影響をみておくべきである。ドルの実質実効為替相場 でみると、米国の鉱工業生産に影響が見える。原油価格上昇がドル 高をもたらし、それが、米国の生産活動に影響が出てくることに監 視が要る。今の局面では、欧州中央銀行が量的緩和を進めることに よるドル高が加わることもみておかなければならない。 第 5 図: ドル相場の動きと米国の生産活動 (%) 15 -15 ドル安 ↑ 10 -10 5 -5 0 0 -5 5 -10 10 -15 15 -20 20 95 96 97 98 99 00 01 02 03 鉱工業生産 前年同月比〈左目盛〉 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 (年) ドルの実質実効為替相場指数 前年同月比〈右目盛〉 (資料)FRB,BIS のデータより、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成 Fed は 利 上 げ を し て も、引き締めはしそう にない 今、Fed は、金融政策の正常化として利上げに進むことについて は、強い意向を持っている。しかし、このところの原油価格の下落 にバブル破裂の要素があり、それが、金融市場を通じて米国経済に 影響を及ぼす経路を勘案すると、少なくとも当初は、小さな利上げ しかしないという見方ができよう。利上げをしても、金融緩和の状 態が続くということを 12 月 17 日の記者会見で、イエレン議長が 言っていることは、注意しておくべきである。 シニアマーケットエコノミスト 7 今週のトピックス | 平成 27(2015)年 1 月 9 日 鈴木 敏之 (1) ドル円:上下とも決め手欠き、しばらく膠着か 東京時間での取引初日となった 5 日、ドル円は 120.42 で寄り付 いた。その後、一旦 120.65 の週間高値を記録したものの、ドル円 は次第に軟化した。年末から年始にかけ、海外市場では軒並み株式 相場が軟調に推移するやや波乱の幕開けとなっており、市場のリス ク回避姿勢が強まった。原油先物相場も軟調に推移し、WTI 原油先 物相場が 2009 年以来初めて 50 ドルを割り込むと、ロシアルーブル を筆頭に産油国通貨も軟調に推移。独政府がギリシャのユーロ離脱 を容認するといった独誌の観測報道も加わり、市場のセンチメント は悪化した(第 1 図)。こうした中、為替市場では円の買戻しが活 発化し、6 日から 7 日にかけ、ドル円は 118.05 の安値を記録するな ど、下値不安が意識された。もっとも、原油先物相場が下げ渋ると、 市場のリスク回避姿勢も徐々に和らいだ。総じて良好な米国の雇用 関連指標を受け、週末の雇用統計への期待が高まると、米国の主要 な株価指数も年初来の下げ幅を概ね取り戻す急反発をみせた。ドル 円相場も、118 円台を割り込まなかったことから、かえって底堅さ を確認する形になったとも言える。週末にかけて、ドル円は 119 円 台後半へと反発し、米国の雇用統計を迎える見込みだ(1 月 9 日正 午のドル円スポット相場)。 今週のレビュー 第 1 図: VIX 指数(米 S&P500 指数のボラティリティ指数) 第 2 図: 今週のドル円相場の値動き (円) 121.0 (%) 28 ↑円安 26 24 120.0 22 20 18 16 119.0 14 12 10 14/10 ↓円高 14/11 15/01(年/月) 14/12 118.0 1/5 1/6 1/7 1/8 1/9 (月/日) (資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 来週の見通し 8 (資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 今週は、ドル円の底堅さを確認した一方、上値も重かったと言え る。ドルの名目実効相場が、2005 年の高値更新を目前に控える堅 調ぶりをみせている通り、年明け以降も為替市場ではドル高が続い ている(第 3 図)。こうしたドル買いの強さを勘案すれば、ドル円 も昨年 12 月高値の 121 円台後半を視界にとらえてもいいはずだ。 しかし、本稿執筆時点でも、ドル円は概ね 119 円台半ばで推移して いる。この上値の重さをもたらしている要因は、日米金利差拡大の 鈍さだろう。既に市場は米国第 3 四半期の前期比年率換算でみた 5%成長や、11 月の 30 万人を超える非農業部門雇用者増をみてい るうえ、利上げ開始についても、概ね織り込み済みとなりつつある。 来週の相場見通し | 平成 27(2015)年 1 月 9 日 日銀の追加緩和と合わせ、既に昨年 12 月上旬にかけ、一旦上値を 試し終えた感がある。一段のドル円上昇には、実際の金利差拡大が 欠かせないと言えよう。ただ、原油価格の低下を受け、グローバル なディスインフレが強く意識されている。正常化(利上げ)が見込 まれる米国であっても、2 年債利回りは概ね 0.6%程度にとどまり、 10 年債利回りも一時は 2%を割り込んだ(第 4 図)。 第 3 図: ドルの名目実効相場(ドル指数) 第 4 図: 米国債の利回り(2 年と 10 年) 130 (ドル高) (%) 3.0 2年 10年 120 2.5 110 2.0 100 1.5 90 1.0 80 0.5 70 (ドル安) 0.0 60 00 02 04 06 08 10 12 14(年) (資料)Inter Continental Exchange より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリ サーチ作成 14/10 14/11 14/12 15/01 (年/月) (資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 日本でも期待インフレ率が急低下し、予想実質金利(=名目金利 -期待インフレ率)が上昇。株安と円高圧力になっている可能性す らあるだろう。無論、欧州中央銀行(ECB)による国債買い入れを 伴う量的緩和策開始への期待から、ユーロ安に牽引され、相対的な ドル人気は当面の間、続く可能性が高い。雇用統計が予想を上回る 場合、一時的に 120 円台に乗せる場面もあるだろう。ただ、金利差 の拡大がみられない間は、ドル円の一段の上値追いも容易ではない だろう。これらを勘案すると、来週のドル円相場は均してみれば、 119 円台を中心としたやや膠着感ある相場となる可能性が高いと予 想する。 尚、原油先物相場が下げ止まったものの反発も鈍い。ギリシャ総 選挙(1 月 25 日)が近づくに連れ、今週みられたような観測報道 やヘッドラインが飛び交う可能性もあるだろう。一時的にせよ、市 場のリスク回避姿勢が高まる場面には、引き続き警戒が必要だ。 予想レンジ ドル円:118.00 ~ 121.00 チーフアナリスト 9 来週の相場見通し | 平成 27(2015)年 1 月 9 日 内田 稔 (2) ユーロ:ECB による国債買入導入期待が高まる 今週のレビュー 今週のユーロドル相場は、ユーロ圏 12 月消費者物価指数(HICP) の前年比マイナス化により下落した(第 1 図)。 第 1 図: 今週の為替相場推移 (ドル) 1.205 ↑ユーロ高 1.200 1.195 1.190 1.185 1.180 ↓ユーロ安 1.175 1/5 1/6 1/7 1/8 1/9 (月/日) (資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 週初にユーロドルは 1.19 半ば付近で寄り付いた。ECB による追 加緩和期待が高まる中、5 日には、独 12 月消費者物価指数が原油 価格下落から前年比+0.1%まで低下したことや、ギリシャ政局不安 を材料にしたユーロ売り仕掛けから、ユーロドルは 1.1887 まで下 落した。7 日のユーロ圏 12 月消費者物価指数が 2009 年 10 月以来と なる前年比▲0.2%に低下したことから、ECB による追加緩和期待 が一段と強まり、8 日に、ユーロドルは 2005 年 12 月以来の安値と なる 1.1754 まで低下した。 第 2 表: 相場に影響した主な経済指標 発表日 経済指標名 結果 市場予想 前回 1/5 独 12 月消費者物価指数(前月比) +0.1% +0.2% +0.5% 1/7 ユーロ圏 12 月消費者物価指数(前年比) ▲0.2% ▲0.1% +0.3% (資料) Bloombeg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 来週の見通し 来週は、ユーロ圏 11 月鉱工業生産(1/14)、ユーロ圏 11 月貿易 収支(1/15)等の経済指標が発表される。 ユーロ圏 11 月小売売上高は前月比で増加し(前月比+0.6%、10 月同+0.6%)、ユーロ圏景気の持ち直しを示す結果となった。来週 発表される経済指標についても、ユーロ安と原油安を受けて良好な 結果なることが期待される。 しかし、ユーロ圏 12 月 HICP は、コア HICP が景気の持ち直しを 受けて前年比+0.8%(11 月同+0.7%)と概ね横這いであった一方、 HICP は原油価格下落を受けて低下圧力が強まり、前年比▲0.2%と なった。消費者物価の前年比マイナス転化を受けて、1 月 ECB 理事 会で国債買入導入を発表するとの期待が一段と高まっている。 従って、来週のユーロドルは下値を試す展開と予測する。 予想レンジ ユーロドル:1.1650 ~ 1.1900 ユーロ円:138.50 ~ 142.50 アナリスト 10 来週の相場見通し | 平成 27(2015)年 1 月 9 日 天達 泰章 (3) 豪ドル:次回 RBA 理事会に向けて様子見ムード続く 今週のレビューと 来週の見通し 今週の豪ドルは 0.806 近辺で寄り付いた。6 日に発表された 11 月 の豪州貿易収支は、貿易赤字が 9.25 億豪ドルと市場予想(16.0 億 ドル)と比べて赤字幅が縮小したことから豪ドルは反発。週間高値 となる 0.815 近辺まで上昇する場面がみられた。その後は豪ドルが 上昇幅を縮小して推移するなか、7 日に発表された 12 月の米 ADP 雇用統計が市場予想を上回る結果であったため、豪ドルは 0.80 台 前半へと反落した。しかし、8 日に発表された 11 月の豪州住宅建 設許可件数が前月比 7.5%増加と市場予想(3.0%減少)を大きく上 回ったことも相俟って、豪ドルは 0.81 台を回復し、同水準での値 動きが続いている。 (9 日正午のスポット相場:0.8142-0.8143) 第 1 図: 今週の為替相場推移 (ドル) 0.820 ↑豪ドル高 0.815 0.810 0.805 ↓豪ドル安 0.800 1/5 1/6 1/7 1/8 1/9 (月/日) (資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 今週発表された経済指標の内容を受けて、豪ドル相場はその都度 上下したものの、総じて小幅な値動きに留まっている。来週は 15 日に 12 月の豪州雇用統計が発表される。失業率は予想 6.3%と高止 まりが懸念されるが、RBA も「失業率が低下するにはしばらくか かる可能性がある」と指摘するとおり、市場で織り込み済であろう。 よって、豪ドル相場への影響も限定的と予想する。 これまでは原油価格急落を受けて、産油国通貨と並んで豪ドルも 下落してきた。ただ、豪州の輸出に占める鉱物燃料(原油、ガス) のシェアは約 1 割に過ぎず、原油だけでみればそのシェアは更に低 下する。このため、依然として原油価格の軟調な値動きは続いてい るが、足もとの豪ドルは底堅い。これまで、原油価格の下落やリス クオフといった市場のテーマが資源国通貨である豪ドルを押し下げ てきたが、原油相場の下落による豪ドル相場への影響は徐々に落ち 着こう。加えて、今月は RBA 理事会が開催されず、次回(2 月 3 日開催)に向けて様子見ムードの展開が続くとみられ、来週の豪ド ルは横ばい圏にて推移しよう。 予想レンジ 対ドル:0.8000 ~ 0.8300 対円:95.00 ~ 99.00 リサーチアシスタント 11 来週の相場見通し | 平成 27(2015)年 1 月 9 日 福島 由貴 (4) 人民元:現水準を中心としたレンジ推移を予想 今後のレビューと 来週の見通し 今週の人民元は 6.21 台半ばで寄り付いた。中国人民銀行は対ド ル基準値を 6.12 台前半から 6.13 台へと元安方向へ設定しているが、 実勢相場は 6.22 挟みの横ばい推移が続いた。また、年末に上昇傾 向にあった短期金融市場は季節要因の剥落により、落ち着きを取り 戻している。一時 11 ヶ月ぶりに 6%台を示現した SHIBOR1 ヶ月物 は 4%台後半へ低下し、7 日物レポ金利も 3%台で推移している。 第 1 図: 人民元相場の推移 6.30 (元) 6.25 6.20 6.15 6.10 対ドル基準値 6.05 一日の変動許容制限 6.00 5.95 11/1 12/1 1/1 (資料) Reuters、Bloomberg より三菱東京 UFJ 銀行とグローバルマーケットリサーチ作成 1 日に発表された 12 月の製造業 PMI(50.1)は、生産(52.5→52.2) や新規受注(50.9→50.4)など、主要項目の鈍化が見られるなか、1 年半ぶり低水準になるなど、景気の鈍化傾向が続いている。そのた め、12 月の消費者物価指数も前年比+1.5%と低インフレが続いてい る。11 月(同+1.4%)からは上昇したが、食料品・エネルギーを除 く物価上昇率は前年比+1.3%と 11 月から横ばいとなっており、食料 品価格(前年比+2.3%→同+2.9%)の上昇が総合指数を押し上げた 格好だ。 こうしたなか、関係者の話として中国政府が 7 兆元(約 134 兆円) のインフラ投資案件を加速させると報じられた。報道に関して政府 はコメントを発表していないが、国家発展改革委員会は民間投資を 呼び込むための包括プロジェクトを推進していると述べる一方、景 気促進のために財政支出を拡大する計画はないとの考えを示してい る。 今週の対ドル基準値はやや元安に推移したが、急激な元安は中国 からの資本流出に繋がる可能性もあることから、政府は積極的な元 安誘導はとらないと見られる。対ドル基準値が継続的に元安方向へ 設定されるとは見込みがたく、現水準での安定的な推移となろう。 実勢相場も現水準を中心としたレンジ推移を予想する。 予想レンジ ドル人民元:6.1950 ~ 6.2350 人民元円:19.00 ~ 19.50 アナリスト 12 来週の相場見通し | 平成 27(2015)年 1 月 9 日 関谷 菜摘 来週の主な経済指標 12 日 (月) 13 日 (火) 14 日 (水) 15 日 (木) 16 日 (金) 17 日 (土) 日 日 日 日 中 米 ユ 米 米 米 日 豪 豪 ユ 米 米 米 米 ユ 米 米 米 米 米 東京市場休場 経常収支(11 月・億円) 景気ウォッチャー調査-現状(12 月) 景気ウォッチャー調査-先行き(12 月) 貿易収支(12 月・億ドル) 財政収支(12 月・億ドル) 鉱工業生産(前月比、11 月) 輸入物価指数(前年比、12 月) 小売売上高(前月比、12 月) 企業在庫(前月比、11 月) 機械受注(前月比、11 月) 雇用者数変化(12 月・万人) 失業率(12 月) 貿易収支(季調済、11 月・億ユーロ) 新規失業保険申請件数(1/10・万件) 生産者物価指数(前月比、12 月) ニューヨーク連銀景況指数(1 月) フィラデルフィア連銀景気動向指数(1 月) 消費者物価指数(前年比、12 月確定コア) 消費者物価指数(前年比、12 月) 鉱工業生産(前月比、12 月) 設備稼働率(12 月) ミシガン大消費者信頼感指数(1 月速報) 証券投資収支(11 月、億ドル) 18:00 21:50 3:10 22:50 米 ユ 米 米 米 日 ユ 米 米 米 ロックハート・アトランタ連銀総裁講演 ノボトニー・オーストリア中銀総討論会 コチャラコタ・ミネアポリス連銀総裁講演 プロッサー・フィラデルフィア連銀総裁講演 地区連銀経済報告 黒田・日銀総裁挨拶(支店長会議) コスタ・ポルトガル中銀総裁講演 コチャラコタ・ミネアポリス連銀総裁講演 ブラード・セントルイス連銀総裁講演 ロックハート・アトランタ連銀総裁講演 3:00 19:00 3:00 12:45 19:35 3:00 18:30 米 ユ 米 日 ユ 米 ユ 3 年債入札 3 年債入札(イタリア) 10 年債入札 30 年債入札 10 年債入札(ドイツ) 30 年債入札 国債入札(スペイン) 8:50 14:00 14:00 4:00 19:00 22:30 22:30 0:00 8:50 9:30 9:30 19:00 22:30 22:30 22:30 0:00 19:00 22:30 23:15 23:15 0:00 6:00 中央銀行関連 12 日 (月) 13 日 (火) 14 日 (水) 15 日 (木) 16 日 (金) 17 日 (土) 2:40 2:00 7:00 22:00 4:00 その他 12 日(月) 13 日(火) 14 日(水) 15 日(木) 16 日(金) ※市場予想は Bloomberg 調査中央値 時刻は日本時間 *印は作成日(1/9)現在で未確定のもの 13 来週の経済指標・イベント | 平成 27(2015)年 1 月 9 日 予想 前回 1,395 44.0 8,334 41.5 44.0 544.8 ▲ 568 0.1% ▲ 2.3% 0.7% 0.2% ▲ 6.4% 4.27 6.3% 194 29.4 ▲ 0.2% ▲ 3.58 24.3 0.8% 1.3% 1.3% 80.1% 93.6 ▲ 14 490.0 240 0.3% 0.2% 4.6% 0.50 6.3% ▲ 0.4% 5.00 20.0 0.8% 0.7% 0.0% 80.0% 94.1 マーケットカレンダー 月 火 2015/1/12 水 13 木 14 米/財政収支(12 月)* 米/地区連銀経済報告 日/国際収支速報(11 月) 小売売上(12 月) 対外対内証券売買契約 輸出入物価指数(12 月) 状況(12 月) 企業在庫(11 月) 景気ウォッチャー調査(12 月) ユーロ圏/鉱工業生産(11 月) 米・アトランタ連銀総裁講演 米・3 年債入札 東京市場休場 米・ミネアポリス連銀総裁講演 米・10 年債入札 19 ユーロ圏/経常収支(11 月) 米・大統領一般教書演説 26 米・ミネアポリス連銀総裁講演 米・セントルイス連銀総裁講演 米・アトランタ連銀総裁講演 (17 日) 米・フィラデルフィア連銀総裁講演 米・30 年債入札 日・黒田日銀総裁挨拶 20 21 世界経済フォーラム(~24 日) 27 16 米/NY 連銀景況指数(1 月) 米/消費者物価指数(12 月) 生産者物価指数(12 月) 設備稼働率(12 月) フィラデルフィア連銀景況 鉱工業生産(12 月) 指数(1 月) ミシガン大消費者信頼感 ユーロ圏/貿易収支(11 月) 指数速報(1 月) 日/機械受注(11 月) 証券投資収支(11 月) 豪/雇用統計(12 月) ユーロ圏/消費者物価指数 確報(12 月) 独/ZEW 景況指数(1 月) 米/住宅着工件数(12 月) 日/日銀金融政策決定会合 建設許可件数(12 月) (~21 日) 日/日銀金融政策決定会合 中/GDP(4Q) 日銀総裁定例会見 固定資産投資 (都市部、12 月) 小売売上(12 月) 鉱工業生産(12 月) 米市場休場 金 15 22 米/中古住宅販売(12 月) 景気先行指数(12 月) ユーロ圏/製造業 PMI 速報 米・10 年 TIPS 債入札 ギリシャ総選挙(25 日) 28 独/Ifo 景況指数(1 月) 米/FOMC(~28 日) 米/FOMC 日/日銀金融政策決定会合 耐久財受注(12 月) 豪/消費者物価指数(4Q) 議事要旨(12/18、19 分) ケース・シラー住宅価格 貿易収支(12 月) 指数(11 月) 新築住宅販売(12 月) 23 米/FHFA 住宅価格指数(11 月) ユーロ圏/ECB 理事会 ECB 総裁定例会見 日/日銀金融経済月報 (1 月) サービス業 PMI 速報(1 月) 29 30 ユーロ圏/マネーサプライ M3 米/GDP 速報(4Q) (12 月) シカゴ PM 景況指数(1 月) 欧州委員会景況指数(1 月) ユーロ圏/失業率(12 月) 消費者物価指数速報(1 月) 日/完全失業率(12 月) 家計調査(12 月) 消費者物価指数 CB 消費者信頼感指数(1 月) (東京都区部 1 月、全国 12 月) 鉱工業生産速報(12 月) 住宅着工件数(12 月) 米・2 年債入札 EU 経済・財務相理事会 ユーロ圏財務相会合 米・5 年債入札 2/2 米/個人所得・消費支出(12 月) 建設支出(12 月) 3 米/製造業受注指数(12 月) 米・7 年債入札 4 5 6 米/労働生産性速報(4Q) 米/雇用統計(1 月) 貿易収支(12 月) 消費者信用残高(12 月) 自動車販売(1 月)* ISM 非製造業景気指数(1 月) ユーロ圏/生産者物価指数 ユーロ圏/小売売上(12 月) 英/MPC(BOE 金融政策委員会) 日/景気動向指数速報(12 月) (12 月) 英/MPC 豪/RBA 理事会 (BOE 金融政策委員会、~5 日) ISM 製造業景気指数(1 月) 中/製造業 PMI(1 月、1 日) 米/ADP 雇用統計(1 月) 米・ミネアポリス連銀総裁講演 9 10 中/貿易収支(1 月、8 日) 米/卸売在庫・売上(12 月) 日/国際収支速報(12 月) 中/消費者物価指数(1 月) 対外対内証券売買契約 生産者物価指数(1 月) 状況(1 月) マネーサプライ M2(1 月)* 貿易収支(1 月) 11 12 米/財政収支(1 月) 英/インフレーションレポート 米/小売売上(1 月) 企業在庫(12 月) ユーロ圏/鉱工業生産(12 月) 日/機械受注(12 月) 豪/雇用統計(1 月) 米・10 年債入札 東京市場休場 米・30 年債入札 EU 首脳会議(~13 日) 景気ウォッチャー調査(1 月) G20 財務相・中央銀行総裁会議 (~10 日) 米・3 年債入札 *印は作成日(1/8)現在で日程が未確定のもの 14 マーケットカレンダー | 平成 27(2015)年 1 月 9 日 13 米/輸出入物価指数(1 月) ユーロ圏/GDP 速報(4Q) 貿易収支(12 月) 照会先:三菱東京 UFJ 銀行 市場企画部 グローバルマーケットリサーチ チーフアナリスト 内田 稔 当資料は一般的な情報提供のみを目的として作成されたものであり、特定のお客様のニーズ、財務状況又は投資対象に対応することを意図しておりませ ん。また、当資料は、適用法令上許容される範囲内でのみ利用可能であり、当資料の頒布を制約する法令が存在する地域の方によって利用されることを意 図しておりません。当資料内のいかなる情報又は意見も、預金、有価証券、デリバティブ取引その他の金融商品の売買、投資、保有などを勧誘又は推奨す るものではありません。 当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、当行はその正確性、適時性、適切性又は完全性を表明又は保証するものではなく、 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