抗CCP抗体陰性RAの診断とマネジメント

抗CCP抗体陰性RAの
診断とマネジメント
大
村
浩一郎
るRA新分類基準では、早期にRAの診断をつ
1)
測定が保険適用になって約 年が過ぎた。対照
%︶からRAの診断には欠かせないツールと
なった。一方、その感度は早期RAでは ∼
2010年のアメリカリウマチ学会︵ACR︶
/ヨーロッパリウマチ学会︵EULAR︶によ
慮する。
P抗体陰性であった場合の診断にはしばしば苦
%程度とされ、特に関節炎の発症早期で抗CC
50
であった場合には 関節以上に所見がないとR
けられるように改訂がされたのだが、抗CCP
関節リウマチ︵RA︶の特異自己抗体として、
抗環状化シトルリン化ペプチド︵CCP︶抗体
抗体とリウマトイド因子︵RF︶がともに陰性
はじめに
RA 領域
群の取り方にもよるが、その高い特異度︵ ∼
90
て診断が困難になってしまった。
Aとは診断できないことになっており、かえっ
11
まずは関節炎か関節症かの鑑別が基本である。
多関節炎の鑑別診断
うポイントをまとめてみた。
抗CCP抗体陰性の関節炎に対して、どのよ
うな点に注意すれば正しい診断に至れるかとい
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①関節リウマチの鑑別診断
(http://www.ryumachi-jp.com/info/news120115.html「鑑別疾患難易度別リスト」より)
関節腫脹のない関節痛︵更年期関節症など︶か
どうかを検討する。視診、触診による関節腫脹
に疑問があれば、関節エコーやMRIにより確
認する。関節炎であった場合に鑑別する疾患は
多いが、
日本リウマチ学会のホームページ︵ http://
︶に
www.ryumachi-jp.com/info/news120115.html
鑑別すべき疾患のリストが難易度別に示されて
いるので参照されたい︵表①︶
。このリストに
入っている疾患はほとんどが、通常抗CCP抗
体陰性である疾患ばかりである。これらの疾患
が鑑別できれば、おそらく抗CCP抗体陰性関
節炎の8割以上が何らかの疾患に分類できるこ
とになると予想する。リウマチ専門医でもこれ
らの疾患をすべてきちんと鑑別できているか疑
問はあるが、表②に示すようなたったの 項目
を忘れないことで、かなりの診断の見落としや
誤診が防げると考えている。
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1 .レイノー現象
2 .口腔乾燥・ドライアイ・口腔内アフタ
3 .運動で改善する腰背部痛
4 .腸炎の既往
〈身体所見〉
1 .皮疹(乾癬、毛嚢炎、掌蹠膿疱症、爪周囲紅斑 etc)
2 .手指皮膚硬化
3 .肺底部のラ音
〈検査所見〉
1 .抗核抗体
3 .X-P(仙腸関節、頸椎・腰椎)
2 .抗 ARS 抗体(間質性肺炎疑うとき)
(筆者作成)
おいて検索を進めていく。RAでレイノー現象
シェーグレン症候群を疑う。他覚的な陽性所見
もしくはガムテスト︶があれば、抗SS A抗
︵乾燥性角結膜炎所見の確認とサクソンテスト
のX線、MRIも考慮する。場合によりHLA
B の有無を確認する。
−
の有無を確認し、必要に応じて腰椎、頸椎など
腸関節のX線、MRI、CTなどで仙腸関節炎
反応性関節炎を含む︶を示唆する。積極的に仙
運動で改善する腰背部痛は、脊椎関節炎︵強
直性脊椎炎、乾癬性関節炎、腸炎関連関節炎、
結節性紅斑の既往などの問診を続ける。
チェット病を考えて、陰部潰瘍やブドウ膜炎、
慮する。再発性口腔内アフタ︵の既往︶はベー
体などの自己抗体の検索、口唇唾液腺生検を考
−
腸炎の既往というのは、反応性関節炎の前症
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問診での注意事項
〈問診事項〉
を伴うことは極めて稀である。
レイノー現象があれば、全身性エリテマトー
デス︵SLE︶
、強皮症などの膠原病を念頭に
ドライアイ︵目がコロコロするなど︶
、ドラ
イマウス︵のどが渇くとも︶の症状があれば、
②抗 CCP 抗体陰性 RA 鑑別に有用な最低限の情報
で寛解状態にある抗CCP抗体陰性RA患者に
という点を含んでいる。私自身、生物学的製剤
節炎としてのクローン病、潰瘍性大腸炎の既往
状としての感染性腸炎という点と、腸炎関連関
十分に検索を進める必要がある。
を除いて、
を伴った関節炎は rheumatoid vasculitis
まずはRA以外の疾患である可能性が高いため、
A︶の測定や生検を行う。いずれにしても皮疹
陽性に出れば、まず強皮症に間違いない。
とレイノー現象もしくは抗セントロメア抗体が
ず指で皮膚をつまんで確認する。手指皮膚硬化
関節以遠の皮膚硬化のみのことが多いため、必
手指の皮膚硬化も意外と見逃しがちである。
あとでよく聞くと、潰瘍性大腸炎の既往があっ
限局型の強皮症の場合は近位指節間︵PIP︶
たといったケースを2例経験している。
身体所見での注意事項
皮疹の有無を爪を含めてしっかり見ることが
重要である。乾癬、掌蹠膿疱症の皮疹を見逃さ
爪周囲紅斑はSLE、皮膚筋炎などの膠原病を
併の関節炎は自己免疫疾患に伴う関節炎と考え
の有無を確認していただきたい。間質性肺炎合
ないことである。爪の点状陥凹や足底の掌蹠膿
肺の聴診は欠かさないでほしい。せめて背部
の有無だけでも確認し、
の肺底部の fine crackle
疱症はあっても患者が訴えないことが多い。毛
嚢炎がベーチェット病の症状であることもある。 もし聴取できたらX線もしくはCTで肺線維症
示唆する。関節炎発症早期の皮疹であれば、パ
て、検索を進めていく。
検査所見での注意事項
ルボB ウイルス感染に伴うレース様網目状紅
斑や風疹ウイルス感染に伴う全身性散在性皮疹
を念頭におく。紫斑や深掘れ皮膚潰瘍の場合は
血管炎を想定し、抗好中球細胞質抗体︵ANC 血液検査において抗核抗体を初診時に忘れな
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法︵結果が 倍、 倍などの倍数で返ってくる︶
いようにしたい。抗核抗体検査は間接蛍光抗体
質性肺炎でも %程度に陽性となる。PM/D
体であるが、PM/DMだけでなく、特発性間
型もわかるので標準的方法である。抗核抗体は
返ってくる︶があるが、間接蛍光抗体法が染色
に間質性肺炎を伴い、関節炎合併が多い。さら
ARS抗体症候群と呼ばれるが、ほぼ100%
0倍以上であれば何らかの自己免疫の病態があ
報告が複数みられるため、治療法選択の際にも
は強皮症など︶
。
群、 nucleolar type
次に間質性肺炎を合併しているときには、必
ず抗ARS抗体測定を忘れないようにしておき
場合は積極的に脊椎関節炎を疑う。なお、血液
ことがあるが、特に若い患者で病変がみられた
多発性筋炎・皮膚筋炎︵PM/DM︶の特異抗
抗体を同時に測定しているもので、もともとは
つかのアミノアシルtRNA合成酵素に対する
には有用ではなく、ガラクトース欠損RF︵C
MP3︶は非特異的マーカーでありRAの診断
検査でマトリックスメタロプロテアーゼ3︵M
仙腸関節病変はRAや加齢に伴っても出てくる
IまたはCTで仙腸関節炎の有無を確認する。
1抗体を含むいく
は強皮症かシェーグレン症候
crete speckled type
腰背部痛のある場合には必ず仙腸関節︵でき
シェーグレン症候群など︶を積極的に疑う。ま
れば2方向︶
、脊椎︵最低腰椎、できれば頸椎、
た、
染色型から疾患が推定できることもある︵
dis胸椎も︶のX線検査を行い、必要な場合はMR
りもむしろRA以外の膠原病︵SLE、強皮症、 注意が必要と考えられる。
ると考える。特に640倍以上であればRAよ
使用して筋炎の誘発、間質性肺炎の急性増悪の
に、抗ARS抗体陽性関節炎にTNF阻害剤を
Mを伴わない抗ARS抗体陽性患者の場合は抗
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健常者でも %前後で弱陽性になるため、16
とELISA法︵結果が ・1のような数値で
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たい。抗ARS抗体は抗
Jo
−
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ARF︶もRF陰性の場合はほとんど陰性であ
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とがある。それでも分類できなかった関節炎は
たら、案外この旧分類のほうが診断に役立つこ
準を参照されたい。発症後6週間以上たってい
前述のようにして鑑別を行っても診断に至ら
ない場合には、1987年のACR改訂分類基
疾患活動性のみで治療を選択するようになって
ャートになっているが、2015年ACRガイ
場合には比較的軽めの治療が選ばれるフローチ
は予後不良因子と考えて、抗CCP抗体陰性の
マチ学会の診療ガイドラインでは抗CCP抗体
り、役に立たない。
抗CCP抗体陰性であってもRAと診断した
場合には、通常のRAと同様に治療を行う。2
未分類関節炎︵ undifferentiated arthritisUA︶
として取り扱われることになる。
013年EULAR勧告、2014年日本リウ
3)
化する患者がみられる。逆に抗CCP抗体陰性
る。時折、この亜集団から抗CCP抗体が陽転
慎重に鑑別が必要であるが、基本的には抗C
CP抗体陽性患者に準じて考えてよいと思われ
抗CCP抗体陰性RF陽性患者のとらえ方
応じたしっかりした治療を行うという方針でよ
づき患者とよく話し合いつつ関節炎の活動性に
の予測はできないことから、T2Tの原則に基
の中にも骨破壊が強く進行する患者はおり、そ
性RAは陽性RAよりも骨破壊が弱い傾向にあ
ることは間違いないが、抗CCP抗体陰性RA
RF陰性関節炎から抗CCP抗体が陽転化する
いと思われる。
いる。集団としてみたときに、抗CCP抗体陰
ドラインでは抗CCP抗体の有無にかかわらず、
4)
ことは稀である。
6)
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5)
2)
おわりに
表②に示す問診、診察、検査所見を抗CCP
抗体陰性関節炎の場合には欠かさないようにす
ることで、自信を持って十分他疾患を除外した
と言えるようになると思う。そのほかで頻度の
高い病態ではリウマチ性多発筋痛症と変形性関
節症の除外は重要であるが、基本事項として
項目の注意事項には含めなかったが、意外と鑑
別が困難であることも少なくない。
本総説が何かの役に立てば幸いである。
︵京都大学大学院医学研究科
内科学講座
臨床免疫学
准教授︶
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10
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2)