RAの日常診療における 関節エコーの実践 澤 向 範 文 理学所見の取り方も医師によってばらつきが多 い。関節エコーは滑膜炎の存在を画像所見とし て客観的に描出可能であり、診断の後押しをし てくれる、非常に有用なツールである。 に対する説明にも非常に説得力のある、有用な RA診断における関節エコーの役割と鑑別診 断における有用性、構造的寛解を目指した治療 情報である。明らかに関節腫脹はあるが圧痛を における有用性、さらに最近の話題と展望につ 関節エコーの役割とその標準化 RAの診断における 認めない関節、その逆の関節痛を訴えるが腫脹 迷うことがある。腫脹も圧痛も炎症所見も揃っ すべき滑膜炎が存在するか、理学所見だけでは いて紹介する。 ていれば、滑膜炎の存在の推測は容易だが、日 していない関節がある場合に、そこに治療強化 常診療ではそれらが揃わない場合が多い。また RAの診断において、日常診療では2010 CLINICIAN Ê16 NO. 652 (967) 49 選択する。その際に客観的な画像所見は、患者 関節リウマチ︵RA︶の日常診療において、 リウマチ医は総合的にRAを診断し、治療法を はじめに RA 領域 る。実臨床でもスコアリングでの 点満点中、 のことながら偽陽性・偽陰性の症例も存在し得 も以前のRA診断基準より優れているが、当然 いられる。この分類基準はその感度・特異度と R/EULAR︶の関節リウマチ分類基準が用 年米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会︵AC 価が困難、患者費用負担の問題も大きい。無侵 が長いなど簡便さに欠け、複数の部位の関節評 ない。MRIでは、大型装置が必要で検査時間 しか捉えられず、早期リウマチの評価には向か であり、基本的に骨破壊が進行してからの変化 査としては、単純X線では滑膜炎の描出は困難 点の場合、判断に迷う場合がある。例えば、明 RAと分類されるボーダーラインである5∼6 ーは、関節リウマチの日常診療において非常に 滑膜炎を、低コストで評価可能である関節エコ 襲で、簡便に、リアルタイムに、多くの関節の 重要なツールである。 カ所あり らかに手指・手関節の腫脹圧痛が ︵3点︶ 、理学所見上は典型的なRAの関節炎を 疑うが、血清反応︵リウマトイド因子[RF] 多くの有用性を持つ関節エコーであるが、術 者による所見の取り方のばらつきや、客観的に 性︵0点︶で、強い炎症所見︵1点︶ 、罹患期 問題点があった。そこで2010年1月、日本 滑膜炎の程度を表現する基準がなかったという /シトルリン化ペプチド[CCP]抗体︶が陰 間が6週以上︵1点︶は認める計5点の場合な 臨床的にはRAと診断して治療していきたい。 本独自の﹃リウマチ診療のための関節エコー撮 ︵小池隆夫委員長︶が設立され、翌年2月に日 どである。この場合、分類基準を満たさないが、 リウマチ学会関節リウマチ超音波標準化委員会 このような際に、関節エコーにて典型的な滑膜 拠を与えてくれるものである。その他の画像検 炎の所見があれば、臨床的にRAと診断する根 によって誰もが同じような撮像法で関節や腱、 像法ガイドライン﹄が策定された。この標準化 1) 50 CLINICIAN Ê16 NO. 652 (968) 10 10 ①関節エコーによる RA の滑膜所見のスコア化(R-MP2:縦断像) 滑膜肥厚半定量スコア 滑膜血流シグナル半定量スコア 䜾䝺䞊䝗㻜 Ⅼ≧䛾䝅䜾䝘䝹 㦵⾲㠃䛷స䜛┤⥺䜢㉸䛘䛺䛔 䝅䜾䝘䝹䛾⠊ᅖ䛜 ⫧ཌ⭷䛾༙ศ௨ୗ 㦵⾲㠃䛷స䜛┤⥺䜢㉸䛘䜛䛜 㛵⠇ໟ䜢ᢲ䛧ୖ䛢䜛✺ฟ䛺䛧 䝅䜾䝘䝹䛾⠊ᅖ䛜 ⫧ཌ⭷䛾༙ศ௨ୖ 㛵⠇ໟ䜢ᢲ䛧ୖ䛢䜛✺ฟ䛒䜚 異常血流などを描出することが可能と なった。滑膜所見に対する分類スコア ︵図①︶も提示されたことで、関節の 理学所見、特に炎症所見に対する共通 した判断が可能となり、臨床所見の傍 証となり得る有用性が示された。 2) 3) 鑑別すべき他疾患による関節炎では、 例えば痛風では時に関節内骨軟骨上や ある。 RAに特徴的な骨びらんも検出可能で その部位に認める血流シグナルであり、 な所見は、充実性滑膜肥厚︵増殖︶と 疾患であるが、関節エコー上の典型的 ることがある。RAは滑膜炎を呈する 日常診療においては、鑑別の難しい 単関節の関節炎を呈する症例に遭遇す 関節炎の鑑別診断における 関節エコーの有用性 (文献12より) MP:Metacarpophalangeal (969) CLINICIAN Ê16 NO. 652 51 䝅䜾䝘䝹䛺䛧 ⭷⫧ཌ䛺䛧 䜾䝺䞊䝗㻝 䜾䝺䞊䝗㻞 䜾䝺䞊䝗㻟 ②痛風、偽痛風のエコー画像 痛風 (足趾第1 MTP 関節) (文献12より) C 腱、腱付着部などに尿酸ナトリウム塩結晶沈着 を認め、特に関節周囲の組織に血流シグナルを 確認すること、関節腔内では活動性RAより比 較的軽微な異常血流シグナルをみることが多い。 また、偽痛風の多くは大腿骨の硝子軟骨内にピ ロリン酸カルシウム結晶沈着をみることが特徴 リオンは関節や腱の近傍に好発する嚢胞性の腫 また、リウマチ結節とガングリオンは触診や 形成部位にて多くは鑑別可能であるが、ガング 的であり、その診断には苦慮しない︵図②︶ 。 4) 日常診療において、RA疾患活動性の指標に 構造的寛解を目指す際の関節エコーの有用性 有用なツールである。 見を描出することができ、関節炎の鑑別診断に ように関節エコーは関節炎の鑑別に特徴的な所 ルがみられるという特徴がある︵図③︶ 。この 充実性病変で、RAの活動性に伴い血流シグナ 瘤で血流はみられない。リウマチ結節は皮下の 5) 52 CLINICIAN Ê16 NO. 652 (970) B ᇶ⠇㦵 ୰㊊㦵 A 偽痛風(膝 大腿骨硝子軟骨) A)痛風結晶沈着:関節内に尿酸結晶を点 状高エコーとして認める。 B)痛風滑膜炎:関節内異常血流と周囲に 血流シグナルを認める。 C)偽痛風:大腿骨軟骨内に高輝度の結晶 沈着を認める。 MTP:Metatarsophalangeal ⭣㦵 ③リウマチ結節、ガングリオンのエコー画像 リウマチ結節(肘 尺骨近位部) はDAS︵ Disease Activity Score ︶ やSDA らに生物学的製剤使用後、8週間以内に %以 私どもは、関節滑膜内の血流が持続的に陽性 であれば、関節破壊が確実に進行すること、さ ある。 めには残存滑膜炎をいかに評価するかが重要で た状態︶の乖離である。構造的寛解を目指すた 寛解と構造的寛解︵関節破壊の進行が抑えられ 骨破壊が進行する場合がある。いわゆる臨床的 していても滑膜炎が残存している場合があり、 満たすことである。しかし、臨床的寛解を満た ︶などが用 I︵ Simplified Disease Activity Index いられ、治療目標はこれらの臨床的寛解基準を 28 上の血流改善を罹患関節に認めなければ、当該 70 関節の破壊は進行することを報告した。このよ うに血流シグナルの存在はRAの予後予測とも なり得ることから、RAの構造的寛解を目指し た治療では罹患関節のエコー上の血流シグナル の消失を治療目標の一つとすべきである。 (971) CLINICIAN Ê16 NO. 652 53 ᇶ⠇㦵 ୰ᡭ㦵 㻳㻿 6) (文献12より) C A)リウマチ結節:楕円形に隆起 した低エコーの腫瘤を認める。 B)リウマチ結節:結節内部に血 流シグナルを認める。 C)ガングリオン:嚢胞性腫瘤で 内部血流シグナルを認めない。 GS:グレースケール PD:パワードプラ ᒅ➽⭝ B ᳇ 㻼㻰 A 㻳㻿 ガングリオン(手指掌側屈筋腱近傍) 最近の話題と展望 る。 あり、RA病態の予後予測にもなり得ることか RAの治療経過において、血流シグナルの持 2014年5月に﹃リウマチ診療のための関 続陽性と関節破壊︵びらん形成︶には関連性が 節エコー評価ガイドライン﹄が日本リウマチ学 会から発刊され、関節滑膜炎、腱鞘滑膜炎など の重症度分類、さらに撮像時のピットフォール、 ら、臨床的評価とともにエコー所見を経時的に になっている。 が可能となり、その治療評価に応用されるよう で、関節エコー検査で経時的な所見を得ること た。関節エコーガイドラインが提唱されたこと 検査の課題も徐々に解決されるようになってき 機種間格差の是正なども提示され、関節エコー 種間格差を解消することも課題である。 ーブの劣化を加えた誤差調整、画像描出での機 の標準化と研修により術者、施設間格差、プロ 化を目的とした検討も必要である。またこれら 価関節部位についても焦点を絞り、検査の簡略 記録しておく必要がある。今後は関節エコー評 6) 9) なったカラードプラ︵CD︶法、高精細のカラー 膜炎の描出から骨びらんなどのRA予後判定を 準化の検討とともに、最新技術による詳細な滑 ︵北海道内科リウマチ科病院 リウマチ膠原病センター センター長︶ Superb Micro- 可能にできるかなど、RA診療における関節エ コーの応用とさらなる研究開発が期待される。 細な異常血流を検出することが可能となってい ︵SMI︶法などのソフトが vascular Imaging 種々搭載され、画像描出感度の改良とともに微 低流速の血流を描出可能にした ドプラ︵ADF︶法、さらに他法により微細で 将来的には、関節エコー所見を組み入れたR 最新のエコー装置には、従来からのパワードプ A診断および寛解基準の策定、また検査関節標 ラ︵PD︶法のみならず、低流速も検出可能と 10) 11) 54 CLINICIAN Ê16 NO. 652 (972) 8) 7) 文献 日本リウマチ学会 関節リウマチ超音波標準化委員 会編 リウマチ診療のための関節エコー撮像法ガイ ドライン 第1版、羊土社、東京︵2011︶ Wakefield RJ, et al : Musculoskeletal ultrasound including definitions for ultrasonographic pathology. 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Rheumatology (Oxford), 53 (9), 1608-1612 (2014) 48 Naredo E, et al : Validity, reproducibility, and responsiveness of a twelve-joint simplified power doppler ultrasonographic assessment of joint inflammation in rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum, 59 (4), 515-522 (2008) Backhaus M, et al : Evaluation of a novel 7-joint ultrasound score in daily rheumatologic practice : A pilot project. Arthritis Care & Research, 61 (9), 11941201 (2009) 谷村一秀 関節エコー画像診断の進歩、臨床リウマ チ、 ︵1︶ 、7∼ ︵2016︶ 15 (973) CLINICIAN Ê16 NO. 652 55 joint damage in patients with rheumatoid arthritis : Potential utility of power doppler sonography in clinical practice. Arthritis Care Res, 63 (9), 12471253 (2011) 28 19 8) 9) 10) 11) 12) 1) 2) 3) 4) 5) 6)
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