乾癬性関節炎

乾癬性関節炎
はじめに︱乾癬の4つの治療と
6つの生物学的製剤の登場
森
田
明
理
乾癬性関節炎に承認された薬剤は6種類となっ
た︵2016年8月︶
。
NFα 阻害薬の2薬剤が承認を受け使用可能と
げた。本邦においても、2010年1月に抗T
療とは、現状では、外用︵ステロイド・ビタミ
考慮すべきことが非常に多い。乾癬の4つの治
はどのようにすべきか、治療を行うにあたって
乾癬の治療の基軸となる4つの治療、すなわ
生物学的製剤の臨床試験から、新たな乾癬の
ち外用・内服・光線療法・生物学的製剤の選択
免疫病態が明らかになるなど、急速に進歩を遂
p
/
、内服︵シクロスポリン・エトレチナート︶
、
ン ︶
17 23
抗IL
光線療法︵PUVA・ナローバンドUVB︶
、生
よび関節症性乾癬に対して承認された。さらに、 物学的製剤である。
抗体が、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬お
D3
12
−
なり、2011年1月には、抗IL
A
−
抗体が、さらに2014年 月抗IL
12
皮疹︵局面型乾癬︶が限局で軽症の場合は、
受容体抗体の開発・承認にむけられ、
ステロイドやビタミン を中心とした外用療法
17
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Ps 領域
−
現在、本邦で尋常性乾癬︵局面型乾癬︶および
D3
40
た光線療法としてPUVA︵PUVAバス︶や
てシクロスポリンやエトレチナートの投与、ま
コントロールが難しい場合には、全身療法とし
から開始し、皮疹の範囲の拡大や外用療法では
は関連性があると考えられる。
たことから、皮疹面積と乾癬性関節炎の発症に
面積が広いほど乾癬性関節炎の発症率が高かっ
患者を対象とした調査では、皮疹︵局面型乾癬︶
全性と有効性からビタミン の外用を軽症から
ナローバンドUVBを用いている。外用は、安
乾癬性関節炎においては、アキレス腱や足底
部の痛みや腫れ、臀部や腰部の痛み︵炎症性腰
1)
08 エキシマライト︶は、部分的でありなが
方で新たに登場したターゲット型光線療法︵3
重症まで、広く使用することが基本であり、一
屑︵頭部乾癬︶などの症状が認められ、早期診
凹や爪甲剥離︵爪乾癬︶
、被髪頭部の紅斑・鱗
痛︶
、指炎・朝のこわばり、さらには爪の点状陥
D3
性関節炎については、早期に使用することが推
︵内服・光線︶と同様の選択基準であり、乾癬
での使用指針では、生物学的製剤は、全身療法
UVBを考慮することになると思われる。本邦
することから、広範囲であれば、ナローバンド
らも、難治な部位︵肘、膝、手指など︶に使用
立したものはないが、末梢関節では超音波検査、
断や病勢・予後予測のバイオマーカーとして確
めることが重要である。乾癬性関節炎の早期診
乾癬性関節炎の徴候を見逃さず、早期診断に努
識することが少ないため、問診時にこのような
断のきっかけとなる。患者はこれらの症状を意
体軸関節ではMRI検査が早期発見に役立つ可
乾癬性関節炎の6つのドメイン
積の小さい症例もあるため、病態をよく理解し
い乾癬性関節炎では、診断が難しく、皮疹の面
能性がある。特に、局面型乾癬皮疹が先行しな
過去に乾癬または乾癬性関節炎と診断された
奨されている。
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nm
①乾癬性関節炎の6つのドメイン
2
ᣦ⅖
஝Ⓞ⓶⑈
5
4
ᮎᲈ㛵⠇⅖
なければならない。
乾癬性関節炎と診断された場合は、CPDAI
れらが複雑に絡まって病態を形成する︵図①︶
。
爪病変、乾癬皮疹の6つのドメインがあり、こ
乾癬性関節炎の病態には、末梢関節炎、脊椎
関節炎︵体軸性関節炎︶
、付着部炎、指趾炎、
(筆者提供画像)
乾癬性関節炎の分類としては、 Moll and Wright
による分類が有名であり、5型からなっている。
乾癬性関節炎の分類と診断基準
することが考えられている。
合した上で、適切な薬剤を選択して治療を開始
イン︵爪病変をのぞく︶のそれぞれの評価を総
︶
︵表
︵ Composite Psoriatic Disease Activity Index
②︶を用いて乾癬性関節炎の病態の5つのドメ
2)
この分類が現在も汎用されているが、分類が困
難だったり、オーバーラップすることなど、問
題が出てきた。簡便なCASPARの診断基準
が登場した。この基準の中には、爪病変の項目
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3)
4)
ዲⓎ㒊఩
1
⬨᳝㛵⠇⅖
䠄య㍈ᛶ㛵⠇⅖䠅
3
6
௜╔㒊⅖
∎⑓ኚ
② CPDAI(Composite Psoriatic Disease Activity Index)
評価の指標
スコアの範囲
末梢関節炎
腫脹関節(66関節)
疼痛関節(68関節)
66/68
HAQ-DI
0∼3
PASI
0 ∼72
DLQI
0 ∼30
Leeds enthesitis score
( 6 カ所)
0∼6
皮疹
付着部炎
0∼3
0 ∼20
HAQ-DI
0∼3
BASDAI
0 ∼10
ASQol
0 ∼18
指炎
HAQ-DI
Digit score
脊椎病変
や骨びらんと骨化を伴う
juxta-articular new bone
が記載されている。これらの所見は、乾
formation
癬性関節炎に特徴的な所見である。診断には、
皮膚科医とリウマチ医の連携が重要である。
乾癬性関節炎の治療目標
︵ Minimal Disease ActivityMDA︶
乾癬性関節炎のマネジメントにおいては明確
な治療目標の設定も重要であり、 Coates
らのM
DAという基準が簡便で用いられている。MD
・マネジメントに取り組む必要がある。
科医とリウマチ医が共通認識を持ち診断・治療
いて、エビデンスに基づく推奨に従って、皮膚
成と判断する︵表③︶
。このようなツールを用
のうち5項目が基準値を満たしていれば目標達
患者による全身評価、HAQ 、圧痛付着部数︶
節数、PASI/BSA、患者による疼痛評価、
Aでは、7つの評価項目︵圧痛関節数、腫脹関
5)
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疾患項目
(文献 2 より)
とが報告されており、さらに関節炎を放置する
と不可逆的な関節破壊が進行するため、早期の
︶
、臀裂・肛門
周囲︵ハザード比 2・ ︶の皮疹、爪の形成
果、頭皮︵ハザード比 3・
89
癬性関節炎の有意なリスク上昇につながること
異常︵ハザード比 2・ ︶があることが、乾
93 35
であるPASI 、PASI100の達成や、
生物学的製剤の登場によって、今まで容易で
はなかった高い効果として、局面型乾癬の指標
おわりに
が明らかとなった。
6)
ためにも、早い段階での生物学的製剤の導入は、
関節炎を起こさない︵関節破壊を起こさない︶
となった。早期乾癬という概念はまだないが、
DLQI︵QOLの指標︶寛解が、可能な目標
90
• HAQ ≦ 0.5
PASI:psoriasis area and severity index、BSA:body surface area、
VAS:visual analogue scale、HAQ:health assessment questionnaire
(文献 5 より)
• 圧痛付着部数≦ 1
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皮疹と症状から考えた乾癬治療
• 患者による全身評価 VAS ≦20
段階で発見し、進行を抑制することが重要であ
• 患者による疼痛評価 VAS ≦15
乾癬性関節炎では身体的機能が障害されるこ
とから、乾癬単独発症に比べ日常生活に大きく
• PASI ≦ 1 または BSA ≦ 3
る。乾癬性関節炎の臨床的な予測因子を調べる
• 腫脹関節数≦ 1
影響を及ぼす。また、乾癬性関節炎には虚血性
• 圧痛関節数≦ 1
ため、1、
593例について追跡調査をした結
以下の 7 項目中 5 項目を満たす場合、MDA に分類する
心疾患のリスク上昇や、死亡率の増加が伴うこ
③乾癬性関節炎の治療目標 Minimal Disease Activity(MDA)基準
皮疹と症状から考え、今後重要になると思われ
る。さらに、全身療法となる光線、内服、生物
学的製剤をどのように選択していくか、またど
の時点で光線や内服から生物学的製剤にスイッ
チするか、すなわちトランジションも今後の大
きな課題と思われる。タイトコントロール、タ
イムマネジメント︵早期乾癬︶
、トランジショ
ンという〝3つのT〟が、乾癬治療の重要なフ
ァクターとなろう。
︵名古屋市立大学大学院医学研究科
加齢・環境皮膚科学
教授︶
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