萃恋 ID:98351

萃恋
もつ鍋
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︻あらすじ︼
伊吹萃香の物語、ただそれだけ。
※超不定期更新※更新するかも分からない※まだ山の四天王では
ない※熊童子、虎熊童子は居ない。
目 次 後悔 ││││││││││││││││││││││││││
1
後悔
萃香は思い出す、
一人の人間のことを
満月が来るたびに思い出す。
ある一つの後悔と共に........
満月が映える夜、
伊吹萃香は一人で飲んでいた。
月を見ながら何を思うのか、
それは萃香にしか分からない。
﹁そこに隠れてる奴、出てきな。﹂
月を見ながら萃香は言い放つ、
後ろを向かず、だがしっかりと。
萃香の後ろの草むらがガサガサと揺れ、
藍色の着物を着た男が出てきた。
﹁へぇ、どんな妖怪かと思ったら
まさか人間だとはね。﹂
こりゃ驚いた、まったく驚いた様子の無い
声色で萃香は言い、何の用だい、と聞いた。
﹁声がしたから、だから来たんだけど、
居たのは鬼だけだったからさ。﹂
﹁鬼は嫌いかい。﹂
一向に振り向かず会話を続ける、
しかし、目の前に鬼が居るのに
嫌いと答える阿呆はそうそう居ないと思うが。
これは試しているのだろう、
面と向かって話をするかどうか、
ただの夢として無かったことにするかどうか。
﹁嫌いではないよ、少し怖いけど。﹂
1
彼はそう言い、萃香が振り向く。
だが少しムッとした表情で。
﹁鬼は嘘が嫌いだよ。﹂
それに少し微笑んで
彼は萃香の前に腰掛ける。
﹁やっぱり綺麗だ、
後ろ姿も良かったけど、
前から見る方が断然良い。﹂
その言葉に萃香は少し顔をうつむかせ、
彼の名前を聞く。
やまのありとも
﹁名前は。﹂
﹂
﹁山野有明、近くの村に住んでるよ。
それで君の名前は
﹁伊吹萃香、しがない鬼だよ。﹂
﹁そっか、萃香ね。じゃあまたね萃香。﹂
そう言って有明は立ち上がり、手を振りながら
去っていった、そして萃香も小さく手を振り返す。
一人残された萃香は
﹁私が綺麗ねぇ、変わってるんだねぇ......﹂
そう虚空に呟き、消えて行った。
ある一室で
星熊勇儀と茨木華扇は向かい合っていた、
そして合わせたように言い出す。
〝萃香の様子が最近おかしい〟
二人はその言葉に頷き合い、
勇儀だけがその部屋を出ていった。
伊吹萃香は物憂げにある方向を見つめていた、
2
?
すると後ろから声がかかる。
﹁よっ、萃香何してるんだ。﹂
勇儀の言葉を萃香は無視をする、
いや、気付いていないようだった。
それにたいして勇儀は萃香の体を揺らし、
おーい、と声をかけた。
それに萃香がビクッと反応し、
ばつの悪そうな表情で何でもないよと言った。
﹂
勇儀は村の方向をチラッと見ると
にやっとして萃香へ
﹁お前、さては男だな
爆弾を投下した。
﹁そ、そんなわけないだろ。﹂
その言葉に萃香は
しどろもどろになりながら答える。
良い玩具を見つけたとばかりに勇儀が
にやっと笑い、
﹁まぁ、鬼は強い奴に惹かれるからな。﹂
そう言って部屋を出ていった。
その数分後萃香は配下の鬼達に
質問攻めにされたのだが、面倒臭くなって
殴り飛ばしていった。
鈴虫が響く夜萃香はあの場所へ向かっていた、
有明に出会った場所へ。
﹁やっぱりいないか﹂
﹁やっぱりいた。﹂
3
?
萃香が言うと同時に後ろから声がした。
萃香はゆっくり振り返りその人物を確認する。
﹁やぁ、一昨日ぶりかな。﹂
微笑みながら萃香に話しかける。
萃香は内心急に現れた有明に焦っていたが
それをおくびにも出さず答える。
﹁何か用かい。﹂
﹁一緒に飲もうと思って、
ほら、お酒も持ってきたし。﹂
そう言って鬼殺しと書かれた酒を掲げた。
とくとくとく、盃に酒を注ぐ音だけが聞こえる。
不意に萃香が話しかける。
﹁本当は鬼が嫌いだろ。﹂
4
﹁嫌いではないよ、苦手かもしれないけど。﹂
その言葉に萃香はムッとして
どっちでも同じだい、
と少し睨むように言った。
﹂
﹁そうだね、じゃあちょっと話をしようか。﹂
﹁何の話をするんだい
その日はいつもと変わらない日でした、
友達と笑いあっていました。
こんな日々がずっと続くと信じて、
その少年は元気に楽しく暮らしていました。
ある村に一人の少年が居ました。
まぁ、今から大体二十年前くらい、
そう言って彼は話始める。
﹁ちょっとした少年の話だよ⋮⋮⋮⋮
酒を注ぎ終わり、萃香と有明は初めて目を合わせた。
?
ちょっと変わったところと言えば
鳥が飛んでいないことでした。
、そう言う知らせ、
今思えばそれが知らせだったのかもしれません。
危険だぞ
何か危険なことが起こるという知らせ。
しかし少年は何も気にすることなく
その日も元気に遊んでいました。
そしてついにその日の夜がやって来たのです。
少年は寝ていたところを叩き起こされ、
母親に連れ出されました。
するとさっきまで少年のいた家に
大きな岩が降って来たのです。
少年は困惑していました、
何でこんなことになっているんだろうと、
母親が少年に言いました。
﹁早く逃げなさい。﹂
その言葉通りに少年は駆け出しました。
なぜ駆け出したのか分からないのですが、
少年はただひたすら走りました。
村の近くには山があるのですが、
その山道を上る途中で少年は
不思議な光景を見ました。
大きな鬼がいたのです、
天を貫いて月にまで届きそうな、
大きな、大きな鬼がそこにいたのです。
少年はその鬼のことを格好いいと思いました、
凄まじいと、強いと、思ったのです。
かくして少年はその鬼に憧れたのでした。﹂
めでたし、めでたしと言った有明に萃香は近付き、
胡座をかいていた有明の中心のくぼみに座り
上を見上げ悲しそうな有明の顔を見る。
5
!
﹁そんな悲しそうな顔をするなよぉ、
鬼ってのはそう言う種族なんだ。
力を求めて、闘いを求めて、酒も求める、
それが鬼っていう種族だなんだよ。﹂
その言葉に悲しそうに有明は笑い、
そうだね、と言った。
﹁それにどんなに大きくなっても
月なんかに届きやしないよ。﹂
﹁やっぱり貴女だ。﹂
と言う間抜けな声をだし、
そう言って後ろから抱き締める。
萃香はへっ
有明はやっと見つけた、と言った。
二人は少しの間そのままじっとしていた。
﹁さっきはごめんね、
ちょっと取り乱しちゃって。﹂
有明はハハハと笑う、もっとも乾いた笑いたが。
なぜなら有明の目の前には明らかに
﹂
不機嫌な雰囲気をまとった萃香が居る。
﹁えーっと、ごめんね
﹂
?
だからそんなにも照れていると。﹂
そう言うのが初めてだったと、
耳元でささやかれたり、
﹁後ろから抱き締められたり、
また萃香がピクッと反応する。
﹁あんなことされたの初めてだったの
﹂
その言葉に萃香がピクッと反応する。
﹁えーと、もしかして照れてる
そこに有明が恐る恐ると言った体で
何故か疑問系で言う有明を黙殺する萃香。
?
?
6
?
萃香はもう反応せず、代わりと言ったように
阿呆
馬鹿
!
ひとしきり罵声を浴びせた後、
萃香はそのまま帰っていった。
﹂
残された有明は
﹁そうかなぁ
﹂
キッと睨みどこからか取り出した瓢箪を投げつけた。
変態
﹁変人
!
〟
?
﹂
萃香が着いたとき有明はもうそこにいた。
その場所へ歩いていった。
幾度か立ち止まりながら萃香は
ただの飲み仲間だ、うん、そうだ。﹂
﹁いやいやいや、そんなのじゃあない、
残っていた、〟いつ連れてくるんだ
萃香の頭の中には勇儀の言った言葉が
萃香は迷っていた、行くかどうかを、
屋敷を出た少し後のところで
今度は能力で霧になりやり過ごした。
また質問攻めにされるのだが、
そして屋敷に入っていった。
﹁抱き締められるなんてお熱いねぇ。﹂
萃香を出迎え、開口一番に
萃香が屋敷に戻るとにやにやした勇儀が
萃香に言われたことを真剣に考えていた。
?
!
!
えっと、えっと、間抜け
鈍感
!
﹁待たせたかい
?
7
!
そう萃香が聞くと、
﹁待ってないよ。﹂
そう答える。
他愛ない会話を数度したあと、
萃香はその場に腰かけた。
﹂
﹁あぁ、そうだ萃香の話をしてよ。﹂
﹁私の話かい
二人は隣り合って座り、萃香は話始めた。
﹁そうだね、じゃあ勇儀と華扇の話をしようか、
勇儀は真っ直ぐな馬鹿で、
華扇は真面目な馬鹿なんだよ。
どっちも馬鹿なんだね。
そりゃあ鬼ってのは学がないからね、
小細工だとか、そんなもんは
踏み潰しながら進むんだ。
私が勇儀と会ったのは今から
大体百年前くらいかな、
今日みたいに月夜が綺麗な日でさ、
﹂
その場に居るのは二人の鬼ただそれだけ、
他の妖怪も、鳥も、虫でさえも
その場にはいない、そして一人の鬼が
萃香に話しかける。
﹂
﹁お前さんが私に勝負を挑みに来た鬼かい
﹁そうだよ、見てわかんない
?
﹁怪力乱神だからな。﹂
﹁へぇ、鬼一番の力と言うだけはあるね。﹂
力の激突、その後に萃香が吹っ飛び、着地。
互いの拳を相手の拳に打ちつける。
それを合図に二人はぶつかり、
﹁いや、余りにもちんちくりんだったからさ。﹂
?
8
?
﹂
けど、萃香はそう言いながら拳を握りしめ、
﹁応用が利かない。﹂
もう一度ぶつかり合う、
今度は勇儀が飛ぶ、
勇儀は受け身を取れず地面を転がり
仰向けになる、そして、
﹁ハハハハハハッいやー参った、
﹂
まさか私が飛ばされるなんてね。﹂
﹁初めての経験かい
﹁あぁ、だからな詫びるよ、
お前を見くびっていた、すまない。
でも、これで終わりじゃあないんだろう
﹂
﹁もちろん、だから本気出せよ。﹂
﹁当たり前だろッ
そう言って勇儀は萃香を殴りつけたが、
霧となった萃香の体を通り抜ける。
そして勇儀の顔に蹴りが入るも
勇儀はその場に踏みとどまり
萃香の顔を殴り地面を陥没させる、
まだ夜は明けない。
明星がさしこむ朝に決着はついた、
﹂
﹁あいにく、差し出せるものと言えば
﹁あぁ、お前の敗けだよ。﹂
そのそばに萃香は立っている。
そう言うのは勇儀、
﹁かー、負けた。﹂
周りを穴だらけにし、山を崩した戦いの決着が。
?
?
この首くらいしか無いぜ
?
9
!
と勇儀が声を出すと
﹁よし、お前は今日から私達の仲間だ。﹂
は
周りからぞろぞろと鬼が集まってきた。
そこに居る鬼は十や二十では足りない、
その光景がいっそう勇儀を不思議にさせる。
鬼は群れない、群れるのは弱いやつだけ、
勇儀はそう思っていた。
﹁一緒に伝説を作ろう、鬼の伝説を。﹂
そう言って萃香は勇儀に手を伸ばす、
﹂
勇儀はその手を迷いなく取った。
﹁おもしれぇ
その方向を萃香が見ると竜巻が上がる、
すると突風が吹く、萃香はその風が妖力で出来ていることを察知し
萃香は一人で待っていた、来るはずの有明を待っていた。
何時もと変わらないある日、
それを言わずに去っていく。
たまに有明が何か言おうとするが
色々な話をした、笑って泣いて、
それから萃香と有明は毎日会った、
萃香もそれに手を降り返す。
じゃあねぇーといって手を振った、
﹁そろそろお開きかな、でも面白かったよ。﹂
萃香が語っている間にもう夜が開けている。
産み出していきました。﹂
こうして鬼達はどんどん伝説を
!
萃香は走り出した、あそこにいるであろう彼の元へ......
10
?
有明は萃香に恋をしていた、
顔を合わせた日からずっと恋をしていた。
今日こそは伝えようと、決心し家を出た途端
風の刃が飛んできた。
それを身を翻すことで回避し、
風が飛んできた方向を見るとそこには
黒い翼を携えた天狗、烏天狗がいた。
有明の周りには白い狼の耳がついた白狼天狗がいた。
有明は目にも止まらぬ速さで白狼天狗に突撃し腰に差さった刀を
奪い取る、
そしてその白狼天狗を袈裟がけにする。
間髪入れずその近くにいた天狗の首を切り落とす、
そのことにやっと理解が追いついた天狗達が一斉に攻撃をする。
だが当たらぬ、妖怪がたかが人間に攻撃を当てられない、
その事実が酷く天狗の誇りを傷つける。
自棄になって攻撃を当てようとすればするほど、
当たらない、何度攻撃しようとかすりもしない。
そしてついに地面の天狗を倒し、
空の天狗に手をかける。
その天狗の首が切り落とされ、
その体を足場にしてある天狗に襲いかかる。
すると有明は叩きつけられる、
そして突風が吹き抜け、竜巻が有明を襲う。
静寂の後、その天狗に恭しく一人の天狗が近付き
﹁流石です、大天狗様。﹂
大天狗と呼ばれた天狗はふん、と鼻を鳴らし、
他愛ないと答えた。
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すると大天狗はその天狗を掴み、
目の前に現れた有明に放り投げた。
その天狗は一刀両断され、
有明はその隙を突かれ風の刃が横腹を切り裂く。
有明は落ちていき着地をするが崩れ、
刀を支えにして膝立ちになり横腹からは血がとめどなく溢れてい
る。
その場に大天狗が降り立ち、
ふっ、と笑って有明に話しかける。
﹁猿芝居が上手だな、安心しろ油断はせん。﹂
その言葉に有明は諦めたのか刀を横に倒し、
正座になる、そして
﹁一つ良いですか、伊吹萃香という鬼に伝えて欲しいことが。﹂
顔を伏せたまま言った、
その言葉に大天狗が無言で肯定する。
ざっ、とその場に一人の鬼が現れた。
少女のような容姿をして、
その姿たは裏腹に頭から二本の角が伸びていた。
大天狗はその少女に向き合い、
貴様が伊吹萃香か、
と断定するように言った。
萃香は無言で拳を握りしめる。
そして一瞬で接敵、
大天狗を地面に殴りつける。
地割れが起き、土煙が上がり、
晴れたときには首のない大天狗と
その傍らに萃香と有明がいた。
その光景に烏天狗達は逃げだそうと飛び立つが
目の前に現れた鬼に叩き落とされる。
﹁鬼から逃げれると思うなよ。﹂
逃げ出す天狗に鬼が口々に言う。
12
そして頭を踏み潰し、脳が撒き散らされ
体を引き千切り、臓腑が飛び出す。
まさに地獄絵図、圧倒的なる暴力。
そして一人残らず殺した後去って行った、
残ったのは死体と萃香と有明の二人だけ。
﹁じゃあ行こうか。﹂
そう言って歩き出す、その行動に萃香が
﹁怪我してるだろう。﹂
血に濡れた腹を見ながら言った。
﹁大丈夫だから、行こう。﹂
有明の顔で何かを悟ったのか
萃香はゆっくりと歩き出した。
13
二人は隣り合って座り、
酒を飲んでいた、すると急に有明が萃香の膝に倒れる、
横向きに倒れ込み話しはじめる。
﹁ねぇ、萃香........僕は君みたいになりたかった。﹂
﹁でもなれなかった..........﹂
萃香は有明の言葉を無言で聞く。
﹁君の隣に........立ちたかった。﹂
﹁でも.....無理だった.....﹂
﹁そんなことはないよ。﹂
萃香が有明の独白に答える。
﹁君と......一緒に居たかった。﹂
﹂
﹁でも.....もう無理だ。﹂
﹁無理なんかじゃない
﹁もう......目も見えないし、耳も聞こえないし、
萃香が叫ぶが有明は怯むことなく話続ける。
!
鼻も利かないけど.....君の存在は分かる。﹂
萃香はもう何も言わない。
﹁ねぇ.......萃...香...﹂
そのまま有明は喋らなくなった。
﹁なんだい、ねぇ、ねぇ、
目を開けてよ、何時もみたいにさぁ....
萃香って言って笑ってよ、もっと一緒に居ようよ。﹂
ぽたぽたと涙が流れ落ちる、
﹁お願いだから、目を開けてよ、
冷たく.....ならないでよ..逝かないでよ......﹂
その場には萃香の泣く声と鈴虫の声だけが響いていた。
伊吹萃香は思い出す、
満月になるたびに思い出す。
彼のことを自分の後悔を......
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