NZドル相場は一進一退の展開に ~利下げ期待も残るなか

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Asia Trends
マクロ経済分析レポート
NZドル相場は一進一退の展開に
~利下げ期待も残るなか、こう着相場が続く可能性も予想される~
発表日:2016年10月18日(火)
第一生命経済研究所 経済調査部
担当 主席エコノミスト 西濵
徹(03-5221-4522)
(要旨)
 足下の世界経済には不透明感がくすぶる一方、ニュージーランドでは乳製品価格の底打ちが景気を下支え
している。物価安定やそれに伴う金利低下が個人消費を押し上げるなか、移民流入を背景とする旺盛な不
動産需要も景気を押し上げるなど、堅調な内需が景気拡大を促している。足下では雇用にも底堅さがうか
がえるなか、長期に亘る金融緩和も追い風に同国経済は堅調な拡大を続ける可能性は高いと見込まれる。
 他方、足下では不動産市況が高止まりする懸念がある一方、雇用の需給の「ゆるみ」などを理由とするディ
スインフレ懸念がくすぶる。さらに、国際金融市場の落ち着きを理由に過去数ヶ月は通貨NZドル高基調
が強まるなど、当局の意図に反する動きも続く。不動産融資規制強化によるインフレ下振れも懸念される
なか、中銀は追加利下げに踏み切る可能性は高く、NZドル相場は引き続き一進一退の展開が続こう。
 足下の世界経済を巡っては、中国の景気減速などが重石となるなかで勢いを欠く展開が続いている一方、主要
国を中心とする量的金融緩和政策を背景とする世界的な「カネ余り」に加え、産油国による減算合意に向けた
動きなども重なり、国際商品市況は底堅い展開をみせている。こうしたなか、長期に亘って主力の輸出財であ
る乳製品価格の低迷が景気の足かせとなってきたニュージーランドにおいては、年明け以降乳製品の国際価格
に底入れの動きが出ていることを反映して足下では堅調
図 1 実質 GDP 成長率(前期比年率)の推移
な景気拡大が続いている。4-6月期の実質GDP成長
率は前期比年率+3.5%と前期(同+3.4%)からわずか
に加速して4四半期連続で3%を上回る伸びで推移して
おり、原油安の長期化に伴うインフレ圧力の後退に加え、
昨年半ば以降の断続的な利下げも追い風に個人消費を中
心とする内需が景気をけん引している。さらに、足下で
過去最低水準となっている政策金利は、旺盛な移民の流
入を背景とする不動産需要を見越した投資を後押しして
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
おり、この動きに伴って固定資本投資も押し上げられている。また、政府によるインフラ投資を重点化する動
きは固定資本投資の伸びを後押ししているほか、政府消費の拡大にも繋がっており、結果的に全般的な内需拡
大が経済成長をけん引する状況が続いている。他方、低迷状態が続いてきた外需についても、ここ数ヶ月にお
ける乳製品価格の上昇にみられるように世界的な需要の底入れを反映して底打ちの動きがみられ、純輸出の成
長率寄与度はプラスに転じている。分野別の成長率についても、国際商品市況の低迷長期化の影響で鉱業部門
の生産は依然として低迷しているものの、農業部門を中心に生産拡大の動きがみられるほか、通貨NZドル安
に伴う輸出競争力の向上に伴い主力の輸出財である木製品関連を中心とする製造業の生産にも底打ち感が出て
いる。また、上述のような不動産投資の活況を反映して建設部門の生産は旺盛な推移をみせている上、旺盛な
内需や国際金融市場が落ち着きを取り戻すなかでサービス業についても幅広く生産拡大が続くなど、全般的に
景気は拡大基調を強めている。その後の外需については一進一退の展開となるなど不透明な状況が続いている
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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一方、引き続き移民の流入は堅調な推移をみせているほ
図 2 雇用環境の推移
か、不動産需要についても世界金融危機前の水準で推移
するなど旺盛な展開をみせており、内需については力強
い推移が続いている。また、足下の失業率は依然として
世界金融危機前の水準を大きく下回る展開が続くなど回
復途上にあるものの、直近では雇用の拡大ペースが加速
している上、失業率そのものも低下基調を強めるなど改
善する動きが続いている。こうしたことから、直近にお
いても内需を取り巻く環境は景気の堅調さを後押しして
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
いるとみられることから、資源国などを中心に景気の芳しくない状況に陥る国が少なくないなか、ニュージー
ランド経済についてはそうした国々とは大きく異なる展開が続いていると捉えることが出来よう。
 他方、足下においては内需を中心に堅調な景気拡大が続いているにも拘らず、同国においても他の国々と同様
にディスインフレが懸念される状況に直面している。7-9月のインフレ率は前年同期比+0.2%と前期(同+
0.4%)から減速して再びゼロが意識される展開となっており、前期比も+0.17%と前期(同+0.42%)から
上昇ペースが鈍化している。生鮮品を中心とする食料品価格に上昇圧力が掛かっている一方、原油安の長期化
などによりエネルギー価格は低下しているほか、輸送コストの低下が消費財価格の下振れ圧力に繋がる動きが
みられるなど、生活必需品を巡る物価動向はまちまち
図 3 インフレ率の推移
の動きをみせている。他方、食料品とエネルギーを除
いたコアインフレ率は前年同期比+1.1%と前期(同+
1.0%)からわずかに加速しており、前期比も+0.25%
と前期(同+0.00%)から上昇ペースが加速するなど、
物価上昇圧力が高まりつつある兆しもうかがえる。た
だし、足下における物価上昇は過去数年に亘る通貨N
Zドル安の進展に伴う輸入インフレ圧力が影響してい
るとみられるほか、活況を呈している不動産価格の上
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
昇がインフレ圧力の押し上げに繋がっている一方、サービス物価は下落基調に歯止めが掛かっておらず、非貿
易財の物価も全般的に上昇しにくい展開が続いている。不動産市況については直近で伸びが再び加速する動き
はみられるものの、当局は今月から不動産融資に対する規制強化の動きを強めており、早晩その影響が表出す
ることが予想される。他方、上述のように足下の雇用環境は改善する動きがみられるものの、賃金の上昇ペー
スは抑えられるなど需給の「ゆるみ」が残っているものと見込まれ、このことが物価上昇圧力の高まりにくい
一因になっていると考えられる。なお、足下では産油国間における減産合意の見通しなどを反映して原油相場
は上昇基調を強める動きがみられることから、下落が続いているエネルギー価格や輸送コスト関連が上昇に転
じる可能性は高いと予想される一方、年明け以降上昇基調を強めてきた乳製品の国際価格は足下で頭打ちして
おり、関連産業を中心に雇用の需給を巡るゆるみが解消に向かうかは不透明である。こうしたことから、先行
きについてインフレ率は加速に転じる可能性はあるものの、準備銀(中銀)が定める目標(2±1%)の中央
値に向かって上昇基調を強めていくかは不透明なところが少なくないと判断出来る。さらに、足下の政策金利
は過去最低水準となるなどかつてない金融緩和を実施しているにも拘らず、過去数ヶ月に亘って国際金融市場
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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が落ち着きを取り戻すなか、投資家による利回りを求め
図 4 NZ ドル相場(対米ドル、日本円)の推移
る動きを反映して通貨NZドル相場は底堅い展開をみせ
ている。準備銀は過去数回の利下げ決定に際して、この
ところのNZドル高をけん制する姿勢をみせてきたこと
を勘案すれば、こうした動きは当局にとって「望ましく
ない」との見方に繋がってもおかしくはない。こうした
ことから、先行きについてもディスインフレ懸念を理由
に追加的な利下げに踏み切る可能性は残っていると見込
まれ、結果として当面のNZドル相場の上値が抑えられ
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
る展開が続くと予想される。その一方、年末に向けては米国による利上げ実施時期が近付くとみられるなか、
米ドル高が再び意識される場面となることも考えられることから、下値についても底堅い展開となることが予
想され、NZドル相場は当面一進一退の展開が続くことになると見込まれる。
以
上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。