2014 年 5 月 30 日 ストラテジストコラム(第 193 号)-ヘッジファンドは怖くない!- 大和住銀投信投資顧問 チーフ・ストラテジスト 門司 総一郎 昨年秋から年末にかけて日本株は大幅上昇、円は下落しましたが、今年に入ってからは逆に株安、円高となりま したが、この動きの背後にはマクロ・ヘッジファンドがあったといわれます。今回のストラテジストコラムは、マ クロ・ヘッジファンド(以下、マクロ)を取り上げます。 マクロの動きを知る指標として NT 倍率が用いられることがあります。マクロが日本株を売買する場合は、個別 銘柄でなく日経平均の先物を用いることが多いため、TOPIX よりも日経平均の変動の方が大きくなります。したが って、NT 倍率が大きく上下していれば、マクロが活発に売買していると考えることができます。昨年秋から今年初 めにかけても、NT 倍率は大きく上昇した後低下しました。 TOPXとドル円( 日次) N T倍率の推移( 日次、倍) 106 12.8 104 12.6 1250 102 12.4 1200 100 12.2 1150 98 12.0 96 11.8 13年10月 1350 TOPIX(左) ドル円(右、円) 1300 1100 13年10月 出所:Bloomberg 14年1月 14年4月 NT倍率 14年1月 14年4月 出所:Bloomberg しかし、その後 NT 倍率の変動は小さくなり、過去 1 ヵ月はほぼ横ばいです。マクロの動きが鈍くなっているよ うに見えます。 4 月 12 日付週刊ダイヤモンドは他市場と比べた日本株の変動の高さについて「暴走 日本株!」と題する特集を 組みました。その中でマクロは日本株の変動を増幅する原因の 1 つとして挙げられています。その記事が昨年末に かけての株価上昇の張本人として指摘したのが、ブレバン・ハワードという英国のマクロです。 昨年 12 月 25 日付の日経電子版にもブレバン・ハワードに関する記事があります。この記事によればブレバン・ ハワードは運用資産 400 億ドル、世界第 3 位のヘッジファンドとのことです。また昨年末にかけて日本株を買い上 げたマクロとして、ブレバン・ハワードの他に米国のチューダーとカクストンを挙げています。 2003 年に運用を開始したブレバン・ハワードは「年間ベースでは一度も運用成績がマイナスになったことがない」 (日経電子版)とのことですが、 「今年は運用にかなり苦戦」(同)、そこで米金融緩和の縮小を見越して「ユーロ売り・ ドル買いや円売り・ドル買い。そして円売りと連動性が非常に高い日経平均先物や同オプションの買い」(同)を 11 本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したものです。 情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点における当社の判断に基づくも ので、今後予告なしに変更されることがあります。投資に関する最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。 1 月初めから仕掛けたとのことです。この賭けは「大当たり」(同)で、年初来のリターンも「2.1%まで持ち直した」(同) とされています。 こう聞くとマクロはやりたい放題のようですが、そうでもないようです。4 月 7 日付のブルームバーグのニュー スは、複数のマクロの今年 1-3 月のリターンがマイナスになったと伝えていますが。その中にはブレバン・ハワー ドの BH マクロ・ファンド(-2.8%)やチューダーのチューダーBVI グローバルファンド(-3.2%)も含まれます。昨年末 にかけて成功したドルに対する円、豪ドル、ブラジルレアルなどの売り、日本株の買いなどが裏目に出たようです。 米通貨先物の円買い/売りポジショ ン( 週次、千枚) H F R グロー バルヘッジフ ァンド指数( 月次) 250 1500 200 150 ネット 買い持ち 売り持ち 1400 全体 マクロ 100 1300 50 1200 0 -50 1100 -100 -150 12/7/3 13/1/1 13/7/2 13/12/31 出所:Bloomberg、非商業部門、ネットは(買い枚数-売り枚数) 1000 2006年 2008年 2010年 2012年 2014年 出所:Bloomberg マクロの運用の不振は最近始まったことではありません。ヘッジファンドの調査会社ヘッジファンド・リサーチ (HFR)が各ヘッジファンドの運用成績を集計したヘッジファンド指数を見るとヘッジファンド全体の指数は 2009 年 以降上昇基調にありますが、マクロの運用成績を示す指数は逆に下落を続けています。 2007 年から 08 年にかけて、投資家がヘッジファンドを解約しようとしても流動性の問題から解約できない、基 準価格もわからないことが問題になりました。その中でマクロは個別銘柄でなく、先物や上場投資信託(ETF)で運用 しているため流動性の問題が小さいため、解約や基準価格の算出が容易でした。 リーマン・ショック後はマクロに大量の資金が流入しますが、その結果資金規模が膨らみ、運用難に苦しみます。 買えば上がるものの売ることができず、売れば下がるものの買い戻すことができない状況に陥ります。最近は逆に 運用成績不振のマクロから資金が流出しつつある模様です。BofA メリルリンチ証券は昨年 10-12 月に 133 億ドルが マクロから流出したと推計しています。 こうしたリターンの悪化や運用資産の減少により、マクロの動きが鈍くなったと考えています。米国の通貨先物 取引では今年に入ってネット円売りポジションが縮小、直近では 5.4 万枚とアベノミクス相場が始まった 2012 年 11 月の水準まで減少しました。これについてもマクロが追加緩和による円安観測を撤回し、円売りポジションを解 消したためと見る向きがあります。 本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したものです。 情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点における当社の判断に基づくも ので、今後予告なしに変更されることがあります。投資に関する最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。 2 マクロの動きが鈍くなっていることは活発化することはないと見ていますが、これが市場に与える影響としては 下記のようなものが考えられます。 まず市場のボラティリティの低下です。最近は日本だけでなく世界的に金融市場のボラティリティが低下してい ます。足元は極端に低すぎると思いますが、大きく上昇することはしばらくないと考えています。 また日経電子版の記事にあるように、マクロは追加緩和観測を材料に日本株買いと円売りをしかける傾向がある といわれています。したがって最近追加緩和見送りが悪材料とならなくなってきたことや、 「円安=日本株高」の傾 向が薄らいだのはマクロの影響低下が一因であり、こうした状況はしばらく続くと考えています。 以上 参考文献 ストラテジストコラム 137 号「マクロヘッジファンドは池の中のクジラ」(2012 年 6 月 21 日) http://www.daiwasbi.co.jp/column/strategist/pdf/120621.pdf ストラテジストコラム 140 号「マクロヘッジファンドは池の中のクジラ(続編)」(2012 年 8 月 23 日) http://www.daiwasbi.co.jp/column/strategist/pdf/120824.pdf 本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したものです。 情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点における当社の判断に基づくも ので、今後予告なしに変更されることがあります。投資に関する最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。 3
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