成長戦略のここに注目-「観光立国 2.0」

2016 年 3 月 14 日
第 62 号
成長戦略のここに注目-「観光立国 2.0」
大和住銀投信投資顧問
部長
経済調査部
門司 総一郎
相変わらず株式市場で成長戦略に期待する声はほとんど聞かれませんが、当コラムでは、成長戦略
は着実に進展しつつあり、景気や企業業績、株式市場にも好影響を及ぼしていると考えています。今
回からしばらく、そうした成長戦略の進捗について見て行きますが、初回は観光立国を取り上げます。
訪日外国人の推移( 暦年、100万人)
外国人消費支出額の推移( 暦年、10億円)
25
4000
20
3000
2500
13.4
15
8.6
2028
2000
10.4
10
3477
3500
19.7
8.4
1500
6.2
1417
1149
1000
5
1085
814
500
0
0
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2010
2011
2012
2013
2014
2015
出所:観光庁、日本政府観光局より大和住銀投信投資顧問作成
観光立国は成長戦略の中で、もっとも進展著しい分野の 1 つです。2015 年の訪日外国人数は前年比
47%増の 1974 万人。
「2020 年に 2000 万人」の目標は前倒しでの達成確実と見られています。また 2015
年の外国人旅行消費支出額は前年比 72%増の 3.4 兆円、個人消費の約 1%に相当する金額です。株式市
場でも昨年は百貨店や JR などが外国人観光客増加の恩恵を受ける「インバウンド」銘柄としてが脚光
を浴びました。
中国経済の不透明感や足元の円高などから先行きに慎重な見方もありますが、2019 年のラグビーワ
ールドカップや 2020 年の東京五輪など今後ビッグ・イベントを控えていること、また民泊の推進や地
方空港の国際線使用料引き下げなど政府が観光立国関連の新たな施策を打ち出していることなどから、
一時的に伸び悩むことはあっても基調としての外国人観光客増はまだまだ続くと見ています。
むしろ観光立国に関して注目すべき点は、外国人観光客増の影響が小売や鉄道など直接外国人観光
客増の恩恵を受ける分野や企業だけに止まらず、設備投資に波及し始めたことです。
目立つのはホテルなど旅行関係施設への投資です。第二次安倍晋三内閣が発足した 2012 年は 836 万
人に過ぎなかった訪日外国人数はわずか 3 年で 1974 万人まで増加しました。当然ホテル不足が問題に
なります。既に多くのホテルが新設、あるいは立て直しなどにより拡張されていますが、マリオット・
インターナショナルやスターウッドなどの世界的な大手ホテル・チェーンが日本での事業拡張を予定
本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したもので
す。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成
者の判断に基づくもので、今後予告なしに変更されることがあり、また当社の他の従業員の見解と異なることがあります。投資に関す
る最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。
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市場のここに注目!
2016 年 3 月 14 日
するなど、ホテルへの投資はまだまだ続く見通しです。
観光バスも不足しています。この需要に応えるため、日野自動車などは大型観光バスの増産を開始
しましたが、それだけに止まらず生産能力の増強も検討中です。最近の事故で観光バスは安全性の向
上も求められていますが、この観点からも旺盛なバス需要は続くと思われます。
旅行関連施設への設備投資
外国人消費関連の設備投資
企業など
企業など
内容
マリオット・インター 森トラストとのFC契約などを通じて、2020年までに日本
ナショナル(米) での施設を倍増させる予定。
花王
山形に紙おむつ工場を新設。輸出及び国内市場向け
日本のホテルを3年以内に現行の18軒から5割増加の予
スターウッド(米) 定。
資生堂
400億円を投資して、国内では27年ぶりとなる茨木市
で稼働。中・高価格帯の海外向け化粧品を生産。
春秋航空(中 日本に今後3-5年で200億円を投資。15-20カ所でホテル
国)
を開業する。
コーセー
17年までに群馬工場で基礎化粧品などを増産。
日野自動車
いすゞ自動車 大型観光バスの増産を開始。生産設備増強を検討。
三井化学
紙おむつ向け不織布などの生産能力を17年までに30%
引上げ。
旭化成
美容フェースマスク向け不織布などの生産能力を40%引上
げ。
地方空港
内容
新千歳ではターミナル・ビルの新設などを含む大規模整備
を検討。福岡などでも新滑走路検討などの動き。
出所:日本経済新聞、読売新聞などから大和住銀投信投資顧問作成
「爆買い」といわれる外国人消費も設備投資に波及しつつあります。花王や大王製紙は紙おむつの
工場を新設。資生堂は国内では 27 年ぶりとなる新工場を立ち上げました。
今までインバウンドといえば百貨店や JR など外国人の旅行や買い物など直接恩恵を受ける企業が対
象でした。しかし、今後はこうした設備投資への波及効果なども含めて恩恵を受ける企業が広義のイ
ンバウンド銘柄として注目されるべきでしょう。
また昨年 10-12 月の実質設備投資はエコノミストの予想に反して前期比 1.5%のプラス成長となりま
した。これには上述のホテルなど、インバウンド関連の投資も貢献したと思われます。このようにマ
クロ面でも観光立国の効果は大きくなってきています。
今までの観光立国を小売や鉄道など直接恩恵を受ける産業、企業を中心とした「観光立国 1.0」とす
れば、現在は設備投資などを通じて直接は関係ない産業や企業にも恩恵が及ぶ「観光立国 2.0」に移行
しつつある状況といえます。以上の分析を踏まえて、観光立国は成長戦略で最も進んでいる分野の 1
つであり、今後も進展が期待される分野と考えています。
以上
本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したもので
す。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成
者の判断に基づくもので、今後予告なしに変更されることがあり、また当社の他の従業員の見解と異なることがあります。投資に関す
る最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。
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