2016 年 8 ⽉ 10 ⽇ 第 73 号 通貨と株式市場-「通貨安=株⾼」は本当か?(その 5) 大和住銀投信投資顧問 経済調査部 部長 門司 総一郎 「『通貨安=株高』は本当か?」の第 5 回です。長くなってきたので、いったんここまでを振り返 って、その上で本題に入ります。 第 1 回と第 2 回では、日本では「通貨高=株安」ですが、世界的にはそうした国は日本・スイスな どわずかであり、「通貨高=株高」の国が圧倒的多数であることを紹介しました。 第 3 回では通貨と株式の関係が、高金利国では「通貨高=株高」、低金利国では「通貨高=株安」 になっていることについて、その理由が世界経済の動向や投資家のリスク許容度の変化への反応が、 株式では高金利国でも低金利国でも変わらないものの、通貨では低金利国と高金利国では異なること にあることを説明しました。 具体的には世界経済が好調な時には高金利国では「通貨高=株高」、低金利国では「通貨安=株高」。 景気が悪化する時には高金利国では「通貨安=株安」、低金利国では「通貨高=株安」になります。 第 4 回では為替レートが業績に与える影響について検討しました。一般に通貨高は業績にマイナス と考えられていますが、韓国や豪州では通貨高の時に利益が増加しています。これは通貨高のマイナ スよりも、世界経済好調のプラスの影響の方が大きいためです。 日本では世界経済が悪化する時に円高になるので、世界経済と通貨高の影響を区別できず、全て円 高のせいにする傾向がありますが、実際には世界経済の影響の方が大きいと考えています。 以上が第 1 回から第 4 回の内容ですが、ここからが本題です。本当はそうではないのに「日本株は 円高に弱い」との印象が定着している訳ですが、これはゆゆしき問題です。 例えば「日本株は世界経済の悪化に弱い」といわれても違和感を感じる人は少ないでしょう。どこ の国の株式でも同じだからです。しかし、「円高に弱い」と言われた場合はどうでしょう。円高・円 安の確率をそれぞれ 50%と考えると、2 回に 1 回は損失を被ることになります。そんな株式市場に魅力 を感じる投資家は少ないと思います。 実際、海外の投資家とミーティングをすると、「円安でしか上がらない日本株は買えない」といわ れることはしばしばです。日本人の間では常識なので疑問を感じないのでしょうが、「円高に弱い」 というレッテルは外国人投資家を遠ざける効果があります。 本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したもので す。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成 者の判断に基づくもので、今後予告なしに変更されることがあり、また当社の他の従業員の見解と異なることがあります。投資に関す る最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。 1 市場のここに注⽬! 2016 年 8 ⽉ 10 ⽇ 8月に入っ て 発表された主な 日本の経済指標 発表日 指標名 予想 8月1日 日経日本PMI製造業 7月分 8月2日 消費者態度指数 7月分 実績 42.0 - 前月 49.3 48.1 41.3 41.8 8月3日 日経日本PMIサービス業 7月分 50.4 49.4 8月5日 毎月勤労統計-現金給与総額(前年比) 6月分 0.3% 1.3% -0.1% 8月8日 景気ウォッチャー調査現状 7月分 42.5 45.1 41.2 8月10日 景気ウォッチャー調査先行き 7月分 42.0 47.1 41.5 8月10日 機械受注(前月比) 6月分 3.2% 8.3% -1.4% 8月10日 国内企業物価指数 (前年比) 7月分 -4.0% -3.9% -4.2% 出所:Bloomberg、予想はBloomberg集計のエコノミスト平均予想、-は予想なし 投資家の関心が為替レートや金融政策決定会合など通貨に関連するイベントに集中するあまり、そ の他の要因が無視されていることも問題です。8 月に入って発表されたほとんどの経済指標は前回対比 で改善あるいは予想を上回っていますが、株式市場には無視されているようです。7 月末から昨日まで 日経平均はわずか 1.2%しか上昇していません。東証株価指数(TOPIX)に至っては▲0.4%のマイナスです。 主要国の予想PE R ( 月次、倍) 18 16 独 日 米 英 14 12 10 13年1月 13年7月 14年1月 14年7月 15年1月 15年7月 16年1月 16年7月 外国人投資家を遠ざけていることや本来評価されるべき点が評価されていないことが、日本株のバ リュエーション低下につながっていると考えています。日米英独の予想 PER を比較すると、英米のそ れは上昇基調あるいは高止まりなのに対し、日独は低下しています。特に日本の予想 PER は昨年 5 月 末のピーク 16.0 倍から先月末の 13.3 倍まで▲16.9%低下しました。この間の TOPIX の下落率は▲21.0% ですが、そのかなりの部分は PER の低下によるものです。 この他に「円高に弱い日本株」のレッテルは安倍晋三政権の通貨政策にも誤った悪影響を与えてい ると考えています。次回はこの政策への影響について検討します。 以上 本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したもので す。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成 者の判断に基づくもので、今後予告なしに変更されることがあり、また当社の他の従業員の見解と異なることがあります。投資に関す る最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。 2
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