Brexit のここに注目-正念場を迎えた欧州の政治統合

2016 年 6 月 27 日
第 70 号
Brexit のここに注目-正念場を迎えた欧州の政治統合
大和住銀投信投資顧問
部長
経済調査部
門司 総一郎
6 月 23 日に行われた欧州連合(EU)からの離脱を問う英国の国民投票では離脱派が勝利。これを受け
て翌 24 日は世界的に株式が下落、ポンドが売られ、円やドルが買われました。今回の「政治と市場の
ここに注目」は前回に引き続き、英国の EU 離脱(Brexit)を取り上げます。
前回もお話ししましたが、英国経済の悪化だけが問題なら、Brexit は世界を揺るがすものではあり
ません。英国の GDP は世界全体の 3.9%に過ぎず、世界経済への影響は限られるからです。しかし、だ
からといってこの問題を軽視するのは間違いです。経済的な影響は小さいものの、政治的な影響は極
めて大きいと予想されるためです。
6月24日の主要株価指数騰落率
0%
-2%
-4%
-3.2%
-3.4%
-3.4%
-6%
-8%
-6.8%
-10%
-7.0%
-8.0%
-7.9%
-12%
-12.5%
-14%
-12.4%
-13.4%
-16%
英FTSE100 独DAX30
仏CAC40 伊FTSEMIB 西IBEX35
ポルトガル
PSI20
ギリシャ
ASE総合
スイスSMI
米ダウ
平均
日経平均
出所:ブルームバーグより大和住銀投信投資顧問作成
6 月 24 日の各国の株価指数の動きを見ると、英国の代表的な株価指数 FTSE100 の下落率は 3.2%、ス
イス、米国と並んで最低レベルです。一方、ギリシャの 13.4%を筆頭に EU に所属する国の下落率はい
ずれも大きくなっています。この点から見ると、市場が懸念しているのは英国の未来でなく、EU の未
来のように見えます。
英国だけでなく、加盟国の間では EU への不満が広まっています。前回紹介しましたが、調査会社イ
プソスが 5 月に公表したアンケート調査結果によれば、「自国でも国民投票を行うべき」との回答は
伊・仏で 50%超、独・スペインなどでも 40%を超えています。また伊・仏では「実施すれば離脱を選択」
との回答が 40%超です。英国以外に離脱する国がいつ出てもおかしくはありません。
本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したもので
す。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成
者の判断に基づくもので、今後予告なしに変更されることがあり、また当社の他の従業員の見解と異なることがあります。投資に関す
る最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。
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市場のここに注目!
2016 年 6 月 27 日
E U 残留・離脱を問う国民投票に関す る各国の世論
伊
仏
スウェーデン
ベルギー
ポーランド
独
スペイン
ハンガリー
自国でも実施すべし
58.0%
55.0%
43.0%
42.0%
41.0%
40.0%
40.0%
38.0%
実施すれば離脱を選択
48.0%
41.0%
39.0%
29.0%
22.0%
34.0%
26.0%
29.0%
出所:読売新聞、イプソス
EU への不満が募る中、各国で反 EU、あるいは EU に懐疑的な政党が勢力を伸ばしています。英国で
は反 EU を掲げる右派政党・英国独立党が 2014 年の EU 議会選挙で国内第 1 党になり、今回の国民投票
では離脱派を勝利に導きました。フランスでは反 EU や移民制限を唱える極右政党・国民戦線のマリー
ヌ・ルペン氏が有力な次期大統領候補です。
最近行われたイタリアの統一地方選挙では、緊縮財政に反対、EU 離脱も辞さないと主張する新興の
EU 懐疑派政党・五つ星運動の候補が、与党・民主党の候補を下してローマとトリノの市長選を制しま
した。来年に総選挙を控えるオランダでは移民排斥や反イスラムを掲げる極右政党・自由党が支持率
トップを走っています。
ここから来年秋にかけての 1 年間、欧州では総選挙、大統領選挙などの政治イベントが相次ぎます。
そしてその 1 つ 1 つが、親 EU 派と反 EU 派の決戦の場になると予想されます。独仏主導で進んできた
欧州の政治統合は正念場を迎えたといえます。
2016年から 17年にかけての欧州の注目政治イベント
時期
国
イベント名
備考
2016年 6月23日
6月26日
9月から10月上旬
英国
スペイン
ハンガリー
国民投票
総選挙
国民投票
EU離脱を問うもの、離脱派が勝利
ポデモスの連立政権参加の有無がポイント
EUによる難民割り当て計画の是非を問う
10月中
2017年 3月15日まで
4月23日
5月7日
6月中
秋ごろ
イタリア
オランダ
フランス
フランス
フランス
ドイツ
国民投票
総選挙
大統領選(第1回投票)
大統領選(第2回投票)
議会選
総選挙
憲法改正に関するもの、否決されればレンツィ首相は辞任の意向
国民戦線のルペン党首が当選すれば国民投票の可能性も
出所:野村証券、読売新聞より大和住銀投信投資顧問作成
英国の国民投票は親 EU 派と反 EU 派の対決の初戦に位置付けられるものですが、これを制したこと
で反 EU 派の意気は上がりました。これが Brexit の政治的な意味が大きいと考える理由です。
しかし、昨日行われたスペインの総選挙では事前予想に反して与党・国民党が議席を伸ばす一方、
反緊縮を掲げる EU 懐疑派政党ポデモスの議席は現状維持に止まりました。ここまでの親 EU 派と反 EU
派の対決は 1 勝 1 敗です。
来年秋のドイツの総選挙にかけてこの戦いは続き、市場もその行方に一喜一憂することになるでし
ょう。結果次第で 24 日のように市場に衝撃が走ることもあり得ます。当コラムでもこのテーマは今後
も随時取り上げる予定です。
以上
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す。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成
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