1/2 Asia Trends マクロ経済分析レポート トルコ中銀、新総裁の下でも圧力は不可避 ~新総裁の出だしは慎重姿勢も、大統領周辺は早くもご不満の様子~ 発表日:2016年4月21日(木) 第一生命経済研究所 経済調査部 担当 主席エコノミスト 西濵 徹(03-5221-4522) (要旨) 20日、トルコ中銀は定例の金融政策委員会を開催して主要政策金利を据え置く一方、短期金利の上限引き 下げによる金融緩和を決定した。今回はチェティンカヤ新総裁の下で開催される初の会合であり、大統領 周辺から利下げ圧力が強まるなかで国内外からの注目を集めた。利下げ幅は前回会合から拡大したが、会 合後の声明では慎重姿勢をみせ、市場はこの姿勢を好感したとみられる。他方、早くも大統領周辺からは さらなる利下げを求める動きが出ており、リラ相場は今後も中銀の姿勢が左右する展開が続くであろう。 《新総裁初の会合はコリドー縮小を一段と前進も慎重姿勢崩さず。他方、大統領周辺は早くも圧力を強める姿勢へ》 20 日、トルコ中銀は定例の金融政策委員会を開催して主要政策金利である1週間物レポ金利並びに短期金利 の下限に当たる翌日物借入金利をそれぞれ 7.50%、7.25%に据え置く一方、短期金利の上限に当たる翌日物 貸付金利を 50bp 引き下げて 10.00%とする決定を行っ 図 1 金融政策の推移 た。上限金利の引き下げは先月末に続き2会合連続では あるものの、その引き下げ幅は前回(25bp)から拡大す るなど一段の金融緩和に向けて大きく舵を切る格好とな った。足下の国際金融市場は年明け直後の混乱から落ち 着きを取り戻しており、流出圧力が強まった海外資金が 回帰するなかで通貨リラの対ドル為替レートは上昇基調 を強めているほか、株式指数は年明け以降2割以上も上 昇するなど活況を呈している。通貨リラが落ち着きを取 り戻していることを受けて、足下ではインフレ率もピー (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 図 2 リラ相場(対ドル)の推移 クアウトしており、ここ数年に亘って同行の悩みの種と なってきた物価安定に向けた道筋が立ちつつある様子が うかがえる。トルコ経済を巡っては、昨年の経済成長率 は前年比+4.0%と前年(同+3.0%)から伸びこそ加速 しているものの、依然として世界金融危機前後の景気拡 大局面に比べて勢いに乏しい展開が続くなか、このよう に外部環境が一段と変化していることを受けて同行は景 気下支えに動いたと捉えられる。ここ数ヶ月に亘って、 (出所)Thomson Reuters より第一生命経済研究所作成 大統領周辺からは国際金融市場を取り巻く環境が改善していることを受け、短期金利のコリドーの一段の縮小 (上限引き下げ)を通じた金融環境の改善を求める動きが出ており、前回会合ではバシュチュ前総裁の任期最 後となる会合であったことも重なり、上限金利の引き下げに動いたと考えられる。なお、今月 19 日に任期満 了を迎えたバシュチュ前総裁はOECD(経済協力開発機構)大使に転任するとともに、新総裁にはチェティ ンカヤ副総裁が昇任することが決定し、今会合はチェティンカヤ新総裁下で初の会合となった。同新総裁は 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判 断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一 生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2/2 2012 年から4年に亘り副総裁を務めており、元々は民間金融機関においてイスラム金融業務に携わるなど金 融業界でキャリアを築いてきたものの、現在 40 歳と前任のバシュチュ氏(49 歳)から大きく若返っている。 さらに、上述のように大統領周辺から中銀に対する様々な圧力が強まる状況が続いてきたなか、総裁人事の行 方は今後の金融政策の方向性を大きく変える可能性があることから、国内外から注目を集めてきた(詳細は1 日付レポート「トルコ中銀の「みせ球」で大統領周辺は納得するか」をご参照ください)。しかし、新総裁は 内部からの昇任となったことで、金融政策のスタンスは大きく変更される見通しは低いとみられるものの、大 統領周辺による圧力が政策運営に対して如何に影響するかを見定める動きが続いてきた。今回の決定に際して、 会合後に発表された声明文では「足下では世界経済を巡るボラティリティーは低下し続けており、金融市場を 取り巻く環境も改善している」とし、「こうした環境の改善を追い風に昨年8月に決定したロードマップに沿 った金融政策の簡素化に向けた取り組みを慎重に進める」との考えをみせている。今回の措置に対しては市場 において「前総裁に比べてハト派の可能性がある」との見方が出ている一方、早くも大統領周辺からは「投資 促進に向けた措置を打ち出すと予想したが期待はずれに終わった」などさらなる利下げを求める動きが活発化 する様子がうかがえる。こうした状況を勘案すれば、新総裁の下でも大統領周辺からは一段の金融緩和を求め る動きが強まることは必至とみられ、前総裁の頃と同様に同行がどのような態度を示すかによって、先行きの リラ相場の動向が左右される展開が続くと予想される。 以 上 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判 断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一 生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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