Economic Indicators 定例経済指標レポート

EU Trends
ECBにもテーパリング観測が浮上
発表日:2016年10月6日(木)
~超金融緩和時代は終わりを迎えるのか?~
第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 田中 理
03-5221-4527
◇ 突如降って沸いたECBのテーパリング観測に5日の国債市場は大きく反応した。記事の内容はごく
当たり前のことを言っているに過ぎず、テーパリングの開始時期を示唆するものではない。ただ、買
い入れ延長が検討されているタイミングで、テーパリングの議論が開始されたことには違和感がある。
◇ 1つの仮説としては、買い入れ延長時の大幅なルール変更に反対するECB内のタカ派メンバーが、
買い入れ延長とテーパリングを組み合わせることを提案した可能性がある。最近のECB高官の発言
は追加緩和に消極的な内容が目立つ。今回の観測記事も12月にも予想される買い入れ延長決定に向け、
トークダウンの一環とみることも出来る。
ECBによる資産買い入れの段階的な減額(テーパリング)が必要になるとの非公式のコンセンサスが
過去1ヶ月の間に政策担当者の間で形成されたとの5日付けBloomberg記事をきっかけに、欧州を中心に国
債利回りが上昇している。同記事の中で、匿名の複数のECB当局者の発言と思われる箇所を抜き出すと、
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量的緩和を終了する決定が下される際にはテーパリングが必要になる。
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月当たり100億ユーロずつのペースで減額する可能性がある(現在の買い入れは月額800億ユーロ)。
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現時点の終了期限である来年3月以降も、現行と同ペースの買い入れを継続する可能性も排除せず。
こうした発言は、ECB関係者の間で、量的緩和の終了時に買い入れを突然停止するのではなく、FR
B同様に買い入れを段階的に減額する方針で、意見がまとまりつつあることを示唆する。そのこと自体は
ごく当たり前のことを言っているに過ぎないし、テーパリングの開始時期について何かを物語るものでは
ない。現にこの関係者は、来年3月以降も現在と同額の買い入れ継続の可能性を排除していないとも発言
している。ただ、買い入れの強化や延長が検討されている最中だっただけに、予想外に早いタイミングで
テーパリングが開始されるのではないかとの不安が金融市場に広がっている。日銀による事実上のテーパ
リングが開始されたこともあり、ECBのテーパリング観測に過剰反応した面もあろう。
この手の観測記事が出てくるからには、ECB内部でテーパリングの議論が行なわれていることは間違
いないだろう。ECBは前回9月8日の理事会で、資産買い入れの円滑な実施のための検証作業を事務方
に指示したことを明らかにしている。“過去1ヶ月の間に”という前述のECB関係者の発言と付き合わ
せると、この検証作業の一環でテーパリングの議論が出てきた可能性がある。
そもそも、検証作業が必要になった背景には、英国民投票後に一段と加速した国債利回りの低下により、
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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ECBが資産買い入れ対象の下限の利回りに設定する預金ファシリティ金利(現在▲0.4%)を下回る利回
りの国債が増加し、このままの買い入れペースを継続すれば、現行ルールの下では買い入れ対象が不足す
る恐れが出てくることがあった。現行の買い入れプログラムは来年3月に一旦の終了期限を迎える(その
後も中期的な物価安定を確保するうえで必要な場合には継続する方針)。足許の物価を取り巻く環境に鑑
みれば、エネルギー価格の下落率縮小から消費者物価がようやく持ち直しつつあるとは言え、コア物価の
低迷が続いており、ECBがこのまま来年3月に買い入れを停止あるいは縮小することは困難との見方が
コンセンサスとなっている。買い入れを延長するとなれば、対象資産不足の問題はさらに深刻となる。
そこで、下限金利を撤廃する、1銘柄・1発行体当たりの買い入れ上限を緩和する、各国の国債購入割
合をECB資本金構成比から変更する、買い入れ対象資産を追加するなど、様々な方法が検討されている
訳だ。買い入れ延長を前提にした議論の中で、テーパリングの話が出てきたとなると、それはタカ派メン
バーからの提案だった可能性がある。ここからは推測になるが、買い入れを延長すれば、より大掛かりな
ルール変更が必要になる。これに反対するタカ派メンバーが、来年3月の買い入れ延長時にテーパリング
をセットにすることで、小規模なルール変更にとどめようとしていると考えることはできないだろうか。
タカ派メンバーの筆頭はドイツ出身の理事会メンバーな訳だが、ドイツは来年秋に連邦議会選挙を控えて
いる。ドイツ国内ではECBの大胆な金融緩和策が国債利回りの低下を通じて年金生活者の老後資金を脅
かしているとの批判が多い。ただ、今回のテーパリング観測に対する市場の反応をみると、こうしたタカ
派メンバーの主張(あくまで筆者の推測に過ぎないが)が理事会のコンセンサスを形成する可能性は今の
ところ低そうだ。本来、テーパリングは増額幅の縮小で、緩和縮小ではない筈だが、FRBがテーパリン
グを開始した時の経験からすると、市場の受け止め方は異なる。
もう1つの仮説は、今回の記事がECBサイドからのリークだったとのものだ。英国民投票後に高まっ
たECBの追加緩和期待はだいぶ後退したとは言え、来年3月に買い入れの終了期限を控えるなか、年内
(ECBスタッフ見通しが発表され、予測期間が1年延長される12月理事会が有力視)にも買い入れルー
ルの変更と買い入れの延長を決定するとの見方が支配的だ。12月の買い入れ延長に対する市場の反応を高
めるため、あらかじめトークダウンしておくことを考えたのかもしれない。さらなる利下げに消極的な最
近のECB高官の発言はこうした見方と整合的だ。
以上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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