英離脱手続き開始へのハードル ~議会対応が

EU Trends
英離脱手続き開始へのハードル
発表日:2016年10月12日(水)
~議会対応がやはり必要に~
第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 田中 理
03-5221-4527
◇ 英国政府は離脱手続きの開始に議会の投票は必要ないとの立場を採るが、投票を求める訴訟や議会審
議を求める議員からの動議を受け、議会審議を回避することは難しくなっている。国民投票で残留を
支持した議員の多くも、投票結果を尊重して離脱を受け入れる方針に傾いており、離脱を阻止するこ
とは難しいとの見方が大勢を占める。ただ、仮に議会投票が必要になった場合、離脱回避への期待が
高まる一方で、議会審議の難航や通告時期の遅れで、その後の協議への不安が広がる恐れがある。
ポンド相場は11日の欧米市場で一段と下落し、日本時間の先週金曜日早朝の「フラッシュ・クラッシュ」
時に付けた安値に迫る対ドルで1.20ドル台を記録した後、日本時間で12日の7時台に入ると1.22台に反発
している。単一市場へのアクセスよりも移民抑制を優先する「ハード・ブレクジット」に向かっていると
の懸念から、先週来、ポンドは大幅に売り込まれてきたが、メイ首相が離脱手続きを開始するか否かを議
会に諮る可能性を示唆したとの報道をきっかけに、買い戻しが入っている。
EU基本条約第50条に基づくEUからの離脱手続きは、英国政府がEU首脳会議に離脱の意思を通告し
た時点で正式に開始される。メイ首相は月初の保守党党大会の場で、来年3月末までに離脱の通告を行な
うことを示唆した。首相とその周辺は、離脱手続きを開始するか否かの判断は、国王からの負託に基づく
政府の専権事項で、議会の投票は必要ないとの立場を採っている。だが、政府のEU離脱計画に関する議
論を求める野党・労働党からの動議を受け、メイ首相はEU離脱を阻止したり、政府の交渉上の立場を弱
めないことを議会に求めたうえで、動議に応じる姿勢を表明したとされる(12日付けのブルームバーグの
記事)。議会が英国のEU離脱を阻止することは難しいにしても、単一市場へのアクセスを阻害しないよ
うに働きかけを強めることへの期待から、ハード・ブレクジットへの懸念がやや後退した。
なお、離脱手続きの開始に議会の投票が必要とする残留派の訴えを受け、現在裁判所の司法手続きが行
なわれている。今週中に予定されるロンドンの王立裁判所での審議を経て、12月には最高裁判所の判決が
下されると見られている。また、北アイルランドでも、政府の離脱方針に反対する訴訟が提起されている。
政府が年内の離脱通告を見送る方針を示唆してきた背景には、準備期間が必要なことに加えて、残留派の
不満を和らげるためにも、こうした訴訟の判決を待つ必要があったものと推測される。
今年6月の英国民投票では、定数650の下院議員のうち500名近くが残留を支持した。離脱手続きを開始
するか否かの判断を、残留派が多数を占める議会の投票に諮れば、離脱を阻止することも可能との見方も
ある。ただ、内閣および関係役職に就く100名近くの議員はメイ首相の方針に従う必要があり、残留派議員
の中にも首相自身がそうである様に、離脱が多数を占めた国民投票の結果を尊重し、離脱を受け入れる方
向に傾いている議員も多い。ロイター通信が下院議員(内閣の役職に就く議員を除く)を対象に行なった
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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アンケート調査によれば(調査時期は不明だが、該当の記事は11日付け)、57名の回答者のうち6割以上
の35名が正式な離脱手続きの開始を支持した。このうち、国民投票で離脱を支持した21名の全員が離脱手
続きの開始に賛成し、残留を支持した36名のうち4割近くの14名が賛成に回った。なお、回答者のうち保
守党議員は26名で、そのうち1名のみが離脱手続きの開始に反対した。仮に離脱手続きの開始に議会の投
票が必要になった場合には、離脱回避への期待が高まる一方で、議会審議の難航や通告時期の遅れで、そ
の後の協議への不安が広がる恐れがある。
以上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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