EU Trends スペイン政局:イグレシアスの新たな一手 発表日:2016年4月27日(水) ~再選挙でポデモス政権誕生も~ 第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 田中 理 03-5221-4527 ◇ 政権発足が難航するスペインでは6月末に再選挙を行なうことが確実な情勢。再選挙でも、国民党と 社会労働党の二大政党、ポデモスと市民の新興二政党が議席を分け合う構図は不変。ただ、ここにき てポデモスが別の左派政党との選挙協力を模索。その場合、社会労働党を抜き第2党に躍進し、左派 の最大勢力となる可能性が浮上。反緊縮色の強いポデモス主導の連立政権が誕生する恐れがある。 昨年12月20日に議会選挙が行なわれたスペインでは、最多議席を獲得した中道右派の「国民党(PP) <123議席>」を率いるラホイ現首相が国王からの組閣要請を固辞したことで、第2党で中道左派の「社会 労働党(PSOE)<90議席>」のサンチェス党首が首相候補に指名され、第4党で新興リベラル政党の「市 民(C’sまたはCiudadanos)<40議席>」と協力し、政権発足を目指してきた。だが、社会労働党と市民 の2党では、政権発足に必要な議会の過半数の信任票を確保できず、第3党で新興左派政党の「ポデモス (Podemos)<69議席>」に連立参加を呼びかけたが、協議は物別れに終わった。初回の信任投票から2ヶ 月以内に政権が発足できないことがほぼ確実な情勢で、憲法第99条に基づき、議会の解散・再選挙が行な われる公算が大きい。5月2日に最終確定し、6月26日の投票が有力視されている。 議会選挙後の世論調査によれば、党内の不協和音が表面化したポデモスが選挙時と比べてやや支持を落 とす一方、社会労働党との連立参加で存在感を示した市民と、共産党の流れを汲む「統一左翼(IU)< 2議席>が支持を伸ばしている。国民党はパナマ文書で現職閣僚が辞任し、複数の地方議員が収賄の罪に 問われるなどスキャンダルが相次ぐが、改選後も第1党の座を死守しそうだ。社会労働党は政権発足で十 分なリーダーシップを発揮できず、支持が伸び悩んでいる。再選挙が行なわれても、またもや二大政党と 新興二政党が票を分け合い、連立協議が難航する恐れがある。政権発足が再度難航した場合に状況を打開 する措置は特になく、「国王が首相候補を指名」→「候補者が政策綱領を発表」→「議会の信任投票」→ 「2ヵ月以内に信任されない」→「議会の解散・再選挙」というプロセスを延々と繰り返すことになる。 こうした膠着状態に一石を投じる動きが浮上している。党勢回復を狙うポデモスは、再選挙時に統一左 翼との選挙協力を模索している。世論調査によれば、両党が統一会派を結成した場合、社会労働党を抜き 第2党に躍進し、左派で最大勢力となる。スキャンダルまみれの国民党主導の政権に参加する政党が現れ ない場合(市民は少なくともラホイ首相の退陣を要求)、政権不在の長期化を憂慮した国王がポデモスの イグレシアス党首を首相候補に指名する可能性が出てこよう。政策面での不一致を理由に社会労働党と市 民の連立参加を拒否したポデモスだが、自らが連立協議を主導する立場となった場合、政策面での歩み寄 りを条件に、社会労働党や市民に連立参加を呼び掛けることが予想される。再選挙後のスペインにポデモ ス主導の連立政権が誕生する恐れがあり、財政運営やカタルーニャの独立運動への波紋が不安視される。 以上 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 1
© Copyright 2024 ExpyDoc