Economic Indicators 定例経済指標レポート

EU Trends
イタリアで新たな国民投票は回避へ
発表日:2017年1月12日(木)
~選挙制度改正の行方が選挙日程を左右~
第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 田中 理
03-5221-4527
◇ イタリアの憲法裁判所は、労働市場改革の中核部分の修正を求める国民投票の実施要求を拒否。投票
回避のために総選挙を前倒しで実施する可能性は遠退いた。選挙制度再改正の行方が総選挙の日程を
左右する。2月中旬に予定される憲法裁判所の違憲審査の結果を待って、議会審議が本格化しよう。
改正案が早期にまとまれば総選挙は年央に、難航すれば秋以降や2018年春にずれ込むことになる。
イタリアの憲法裁判所は11日、レンツィ前首相の労働市場改革(2015年労働法)に関連した国民投票の
実施要求を巡って、司法判断を下した。与党・民主党の支持母体でもある最大労組「労働総同盟(CGIL)」
は昨年、①不当解雇された労働者が復職する権利(労働法第18条)の再導入、②バウチャーによる時間給
の支払いを廃止、③公共調達に関連した契約労働者の保護強化―の3点を求めて国民投票の実施を提起。
投票の形式的な要件を満たす署名を集め、憲法裁判所に提出していた。憲法裁判所は②と③については国
民投票の実施を認めた一方で、①については実施要求を拒否した。
今回の決定により、投票は4月15日から6月15日の間に行われることになる。昨年12月の議会制度改正
の是非を問う国民投票の否決に続き、労働市場改革までもが投票で否決されれば、政権にとって大きな痛
手となる。野党勢は前回同様に国民投票を民主党政権の信任投票と位置づけ、攻撃材料に利用することが
予想される。イタリアの法律では、国民投票の実施予定日前後に総選挙が行なわれる場合、投票を1年延
期することができる。そのため、新たな国民投票の実施を回避するため、2018年春の議会任期満了を待た
ず、年央にも総選挙を前倒しで実施する可能性も一部で取り沙汰されていた。ただ、労働市場改革の根幹
をなし、政治的な打撃が大きい①の投票実施が回避されたことを受け、ジェンティローニ政権は②と③の
修正法案を議会に諮ることで、国民投票の実施を回避することを検討している。修正法案が議会を通れば、
国民投票を実施する必要はなくなる。投票回避のために、総選挙を前倒しする可能性は遠退いた。
これにより、総選挙のタイミングは、上下両院で異なる選挙制度の再改正の行方が鍵を握ることになる。
最多票を獲得した政党に過半数の議席を配分する下院の選挙制度の合憲性を巡って、憲法裁判所は24日に
審理を予定しており、2月中旬頃には判決が下されるとみられている。憲法裁判所の判決を待ったうえで、
選挙制度改正の議会審議が本格化することが予想される。新たな選挙制度が早期にまとまれば、イタリア
がホスト役を務めるローマ条約調印60周年記念式典(3月25日)やG7会合(5月26・27日)を終えた6
月初旬にも総選挙が行なわれる可能性がある。ただ、次期総選挙での獲得議席に直結する選挙制度改正は
各党の利害が複雑に絡み、難航する恐れがある。その場合、秋以降や2018年春の議会任期満了まで総選挙
が先送りされることも考えられる。
以上
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