EU Trends イタリアでまたも国民投票? 発表日:2016年12月15日(木) ~投票回避のために総選挙を前倒し~ 第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 田中 理 03-5221-4527 ◇ イタリアではジェンティローニ政権が正式に発足したが、新政権の支持率は低迷し、上院の議会基盤 も弱く、難しい政権運営を迫られそうだ。レンツィ前首相の労働市場改革の廃案を求める国民投票の 実施が憲法裁判所に提起され、来年央に投票が実施される可能性がある。首相復帰を目論むレンツィ 前首相は、投票延期につながる来年中の解散・総選挙を模索するとみられる。国民投票後の世論調査 は引き続き民主党と五つ星運動が肉薄している。今後、銀行救済での税金投入や選挙制度改革での強 行採決があれば、野党勢に政権批判の格好の材料を与える。 イタリアのジェンティローニ新政権は13・14日に上下両院の信任投票を経て正式に発足した。レンツィ 前政権を閣外から協力してきた中道右派政党「自由主義人民連合(18議席)」が、閣僚人事への不満から 投票直前に政権への支持を撤回し、上院の過半数確保が危ぶまれたが、信任が169票、不信任が99票、不 在・棄権が52票で信任された(表)。党派別の投票の内訳はまだ公表されていないが、報道によれば、ベ ルルスコーニ元首相が率いる中道右派政党「フォルツァ・イタリア(42議席)」などが反対票を投じたほ か、反体制派のポピュリスト政党「五つ星運動(35議席)」や右派ポピュリスト政党「北部同盟(12議 席)」が棄権した模様。前政権を支えた「民主党(114議席)」や「みんなの場所(29議席)」などの連立 与党の現有議席は162のため、旧野党勢の7議員が政権支持に回った計算となる。ただ、終身議員を除いた 上院の定数は320議席で、ジェンティローニ政権への支持は上院の過半数(161議席)を僅か数議席しか上 回っていない状況にある。現在の議会構成から連立与党が下院の過半数を確保することは容易だが、上院 の過半数確保は心許ない。議会制度改正の国民投票が否決されたことで、今後の立法作業はこれまで同様 に上下両院で全く同じ文言の法律を通さなければならない。上院の多数派工作に失敗すれば、政権運営は 行き詰まり、早期の解散・総選挙が必要となる。 (表)ジャンティローニ政権の信任投票 下院(12/13) 上院(12/14) 信任 368 169 不信任 105 99 棄権 157 52 定数 630 320 出所:イタリア上下院資料より第一生命経済研究所が作成 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 1 来年中の総選挙の可能性を高めるもう1つの出来事が、レンツィ前首相が2014年に実施した従業員の解 雇を容易にする労働市場改革に関連して、国民投票が実施される可能性が浮上していることだ。同改革に 反対している最大労組で、民主党の支持母体でもある「労働総同盟(CGIL)」は、関連法の廃案や修正の 是非を問う国民投票の実施を求める署名を集め、憲法裁判所に提出した。憲法裁判所は来年1月10日に訴 えを受理するかを判断するとされ、現地紙の報道によれば、受理される可能性が高い。憲法裁判所は国民 投票の実施要件を満たしているのかを確認した後、その日から60日以内に投票日を決めることを政府に要 請し、投票日の決定から50~70日以内の日曜日に投票が実施される。つまり、憲法裁判所が来年早々に投 票実施を決めれば、来年央にかけて再び国民投票が行われることになる。但し、国民投票の日程前後に総 選挙が行なわれる場合、投票は1年延期される。労働市場改革はレンツィ前首相の構造改革路線の中核を 成すもの。同改革が国民投票で否決されたとなると、次回総選挙後の首相復帰を目論むレンツィ前首相に とって痛手となる。来年央にも総選挙を実施することで、投票延期を模索する可能性がある。 解散・総選挙の時期は、来年1月24日に予定される下院の選挙制度に関する憲法裁判所の判断後、新た な選挙制度をまとめるのにどの位の時間を要するかによって変わってくる。来年3月にはローマ条約調印 60周年の記念行事、5月にG7会合がローマで予定され、何れもイタリア政府がホスト役を務める。こう した国際会議の日程に鑑みれば、総選挙は早くても6月頃と目される。選挙制度改革で早期に合意した場 合や、審議過程で政権運営が行き詰まれば、来年央にも総選挙が行なわれる可能性がある。議会審議が長 引けば秋以降にずれ込むことや、2018年3月の議会任期満了を待っての総選挙となる。 国民投票後に集計された世論調査では、民主党と五つ星運動が3割近くの支持で競っており、投票前か ら大きな変化は見られないが、一部の調査で五つ星運動がやや支持を伸ばしている。また、ジェンティロ ーニ新政権への支持は低調なものが目立つ。今後、年内の増資計画の実現が危ぶまれている大手行の救済 が必要になった場合、銀行救済での税金投入や個人への損失発生を材料に、野党勢は政権批判を繰り返す ことが予想される。上下両院の過半数をどうにか確保しているジェンティローニ政権は、五つ星運動に不 利な選挙制度改正案を議会で通すことも出来なくはない。だが、野党の猛反発を押し切っての強行採決と なれば、守旧派の保身行為と受け止められかねない。来年もイタリア政局から目が離せない。 以上 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2
© Copyright 2024 ExpyDoc