内外経済ウォッチ 米国 ~過度な悲観論払拭で利上げ警戒へ~ 経済調査部 主任エコノミスト 桂畑 過度な悲観論は払拭 誠治(かつらはた せいじ) ことが確認された。 米国の鉱業や製造業部門には、原油価格の下落に伴う 金融市場が足元で落ち着きを取り戻しつつある。米国 鉱業部門の需要の落ち込みのほか、 ドル高や新興国経済 経済への過度な悲観論が払拭されたほか、原油価格の下 減速による輸出の減少によって在庫調整圧力が残存して げ止まり、中国人民銀行が準備預金率を引き下げるなど いる。 しかし、雇用情勢は大きな影響を受けていない。家 中国政府による景気対策への期待、各国による政策実施 計部門への波及は限定的なものにとどまっており、所得 期待の高まり等を受けて、世界経済の失速懸念は後退し の増加、借入環境の改善、不動産価格の上昇などを背景 ている。このような状況のもとでリスクオンの動きが強ま に個人消費や住宅投資など国内需要主導で景気拡大を り、世界的に株価は下げ止まった。 続けている。 2月、3月初に公表された経済指標は予想を上回るもの が多かった。15年10-12月期の実質GDP成長率が前期 米利上げ観測の強まりで再びリスクオフへ? 経済成長や雇用情勢は、概ねFOMC参加者の予想の 費は1月に前月比+0.5%と加速した。2月分の統計では、 範囲内で推移している。このような中で、1月のPCEデフ ISM製造業景気指数が49.5 (1月48.2) と大幅に上昇し レータが前年同月比+1.3% (12月同+0.7%) 、PCEコア た。2月の雇用統計では、非農業部門雇用者数 (季節調整 デフレータが同+1.7% (12月同+1.5%) とインフレ率は 済み) は前月差+242千人 (1月同+172千人) と予想を大 FRBの目標である同+2%に向けて徐々に加速している。 幅に上回った。また、2月の失業率 (U3) は、4.918% (1月 それでも、現時点で市場は年内に1回程度の利上げを織 4.921%) と小幅低下し、08年2月 (4.879%) 以来の低水 り込んでいるだけである。今後急速に複数回の利上げ期 準を維持した。さらに、広義の失業率 (U6) も9.7% (前月 待が高まる可能性があり、そうなれば金融市場は米国の 9.9%) と低下した。以上のように、雇用が堅調な増加基調 金融引き締めを材料としたリスクオフの動きを強め、再び を維持したほか、失業率が低下、参加率、就業率が上昇す 不安定化することとなろう。FRBはこの影響を見極めなが るなど、量と質の両面で雇用情勢の改善が継続している ら慎重に政策金利の正常化を進めざるを得ない。 資料1 実質GDPの項目別寄与度 (前期比年率) (出所) 米商務省 内外経済ウォッチ 比年率+1%と予想に反して上方改定されたほか、個人消 資料2 雇用動向 (出所) 米労働省 第一生命経済研レポート 2016.04 6
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