日銀短観解説 2016 年 4 月 1 日 日銀短観(2016 年 3 月調査) 経済調査部主任エコノミスト 小西祐輔 企業業況は悪化するも、投資意欲は引き続き底堅い 03-3591-1294 [email protected] ○ 大企業の業況判断は、製造業、非製造業とも悪化。製造業では海外経済減速を受けた需給低迷等に より、総じて悪化。非製造業も建設、不動産等の一部業種除き悪化 ○ 2015年度の設備投資計画は大企業・製造業が高めの計画を維持したほか、中堅・中小企業が上積み。 2016年度計画についても発射台としては悪くない水準 ○ 総じてみると、海外経済の減速による景況感の下押しがみられるものの、投資意欲の後退にはつな がっていないことが確認される結果 大企業の業況判断は、一部業 日銀短観(2016年3月調査)では、大企業・製造業の業況判断DIが +6%Pt(12月調査+12%Pt)、大企業・非製造業が+22%Pt(12月調査 種を除いて低下 +25%Pt)といずれも悪化した。製造業では、新興国・資源国の減速を 受け、素材業種、加工業種ともに悪化した。中でも世界的な在庫過剰、 需要低迷が指摘される鉄鋼、化学の悪化幅が大きかった。非製造業につ いても、堅調な住宅着工等に支えられた建設、不動産の改善を除くと低 下した業種が多く、全体でも低下となった。ただし、非製造業の業況判 断については高い水準を維持している。 図表1 業況判断DI 2015年9月調査 (%Pt) 最近 2015年12月調査 先行き 最近 先行き 2016年3月調査 最近 (変化幅) 先行き (%Pt) (変化幅) 14 18 13 13 ▲ 5 11 ▲ 2 製造業 12 10 12 7 6 ▲ 6 3 ▲ 3 非製造業 25 19 25 18 22 ▲ 3 17 ▲ 5 12 9 14 8 12 ▲ 2 5 ▲ 7 ▲ 20 ▲ 30 中堅企業 製造業 10 0 5 4 5 0 5 0 ▲ 2 ▲ 7 17 13 19 12 17 ▲ 2 9 ▲ 8 3 0 3 ▲ 2 1 ▲ 2 ▲ 4 ▲ 5 製造業 0 ▲ 2 0 ▲ 4 ▲ 4 ▲ 4 ▲ 6 ▲ 2 非製造業 3 1 5 0 4 ▲ 1 ▲ 3 ▲ 7 非製造業 先行き 20 19 大企業 大企業非製造業 30 ▲ 10 大企業製造業 ▲ 40 ▲ 50 中小企業 (資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、 みずほ総合研究所作成 ▲ 60 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) (資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、 みずほ総合研究所作成 1 製造業の業況は、新興国減速 の影響から悪化 大企業・製造業の業況判断DIは 16 業種中 10 業種が悪化、4 業種が改 善、2 業種が横ばいだった。新興国減速による世界的な在庫過剰、需要低 迷が指摘される鉄鋼(±0%Pt→▲22%Pt)や化学(+20%Pt→+10%Pt) の低下幅が大きかった。また、加工業種も総じて悪化が目立ち、電気機 械(+3%Pt→▲7%Pt)は業況判断がマイナスとなった。 非製造業も悪化 大企業・非製造業の業況判断DIは12業種中7業種が悪化、5業種が改 善となり、全体では悪化となった。住宅着工等が堅調な建設、不動産な どが小幅に改善したほかは、個人消費の停滞が影響したとみられ、対個 人サービス(+32%Pt→+16%Pt)、宿泊飲食サービス(+32%Pt→ +22%Pt)などの悪化が目立った。 中小企業は、製造業の業況判断DIが▲4%Pt(12月調査:±0%Pt)、 非製造業が+4%Pt(12月調査:+5%Pt)といずれも低下した。中小企 業では大企業以上に素材業種の悪化が目立つ結果となった。 先行きは製造業・非製造業と もに悪化見通し 先行きについては、大企業・製造業が3%Pt悪化、非製造業が5%Pt悪 化となっている。製造業では海外経済減速が重石となったほか、在庫調 整が進まないことへの懸念があるようだ。また、年初から進んだ円高の 定着も、先行きの慎重姿勢の強まりに繋がったとみられる。 非製造業も悪化見通しとなっているが、業況判断DIの水準自体は引 き続き高い。詳細をみると、非製造業のDI悪化の主因は「さほど良く ない」と答えた企業が増加したためで、「悪い」との回答は増加してい ないため、先行きに対し過度に悲観的になっているわけではないようだ。 図表2 15年度 (前年度比、%) 6月計画 全規模 製造業 非製造業 大企業 製造業 非製造業 設備投資計画(土地含みソフトウェア除く) 9月計画 12月計画 16年度 実績見込 修正率 3月計画 3.4 6.4 7.8 8.0 0.2 ▲ 4.8 12.3 13.5 12.2 10.8 ▲ 1.3 ▲ 0.9 ▲ 1.0 2.9 5.6 6.7 1.0 ▲ 6.8 9.3 10.9 10.8 9.8 ▲ 0.9 ▲ 0.9 18.7 18.7 15.5 13.3 ▲ 1.9 3.1 4.7 7.2 8.5 8.1 ▲ 0.4 ▲ 2.9 中堅企業 2.1 2.2 4.8 5.3 0.5 ▲ 4.7 製造業 11.8 10.1 11.3 7.4 ▲ 3.5 5.1 ▲ 3.2 ▲ 2.0 1.3 4.2 2.9 ▲ 10.0 中小企業 非製造業 ▲ 15.7 ▲ 6.1 ▲ 0.2 3.9 4.1 ▲ 19.3 製造業 ▲ 9.9 ▲ 2.0 1.5 4.8 3.3 ▲ 22.0 ▲ 18.4 ▲ 7.9 ▲ 1.0 3.5 4.5 ▲ 18.0 (前年比、%) 10 2015年度 8 2012年度 6 4 2 2013年度 ▲2 ▲4 非製造業 (注)土地を含みソフトウェアを除くベース。 (資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、みずほ総合研究所 作成 2 2014年度 0 2016年度 ▲6 3月 6月 9月 12月 見込 実績 (注)全規模・全産業。土地を含みソフトウェアを除く。 (資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、 みずほ総合研究所作成 2015年度の収益見通しは下 方修正。16年度は減益の計画 2015年度の経常利益(全規模・全産業)は前年比+4.3%と12月調査か ら1.0%Pt下方修正された。非製造業が全体的に上方修正される一方、大 企業・製造業が大きく下方修正された。原油安によるコスト削減効果が 持続する一方で、新興国減速が輸出企業の業績を押し下げた様子が見て とれる。2016年度の経常利益は、全体では今年度計画比▲2.2%と業績拡 大の動きが一服すると見込まれている。 2015年度の設備投資計画は、 2015年度の設備投資計画(土地含みソフトウェア除く、全規模・全産 全規模・全産業で高水準を維 業)は前年比+8.0%(修正率+0.2%)と高い水準を維持した。大企業・ 持 製造業(前年比+13.3%)で高めの計画が維持されたほか、中堅・中小 企業も計画が上積みされるなど、企業の設備投資意欲の底堅さが確認で きる結果であった。2016年度計画に関しては、前年比▲4.8%となってい る。但し、3月時点では設備投資計画が定まっていない企業が多く、前年 度の3月時点の計画値が▲5.0%(2015年3月調査での2015年度の計画値) だったことを踏まえると、発射台としては悪くない水準と言えるだろう。 企業の人手不足感は、非製造 業で引き続き強い 雇用人員判断DIをみると、全体的に人手不足感が引き続き強く、特 に非製造業で不足超の度合いが高い。ただ、先行きをみると大企業・製 造業で▲1%Ptとなっており、大企業製造業では、業績の停滞の影響もあ り、徐々に雇用不足感は薄れていく模様である。 海外での製商品需給判断D Iが低下 海外での製商品需給判断DI(「需要超過」-「供給超過」)は、大 企業、中小企業ともに低下した。先行きDIは改善しているものの、足 元については世界経済の減速の影響を受けた格好である。 2016年度の想定為替レート 今回の短観では、海外経済減速の影響などから、企業業況には足踏み は実勢対比円安の水準。今後 がみられたが、設備投資計画は高めの伸びが維持された。業況改善が一 の業績下振れリスクも 服する中でも、これまで抑制してきた維持更新投資の顕在化が続くとみ られる。ただし、2016年度の大企業・製造業の想定為替レートは、117.46 円と足元の水準対比で円安に設定されている。足元の為替水準が持続す れば、企業業績が下振れるリスクや、それに伴い投資先送り姿勢が再び 高まるリスクを孕んでいるといえるだろう。 ●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに 基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 3
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