日銀短観解説 2015 年 4 月 1 日 日銀短観(2015 年 3 月調査) 経済調査部エコノミスト 坂中弥生 03-3591-1242 [email protected] ○ 大企業の業況判断は、製造業が横ばいとなったものの、非製造業が個人消費の回復などから改善。 内需の緩やかな回復が確認できる結果。 ○ 2014年度の設備投資計画は製造業が下方修正される一方、非製造業が上方修正。中小企業が例年の パターン通り上方修正されたほか、大企業では非製造業が投資計画を上積み。 ○ 原油安を受け、交易条件(販売価格判断DI-仕入価格判断DI)が中小企業においても大幅改善。 収益の押し上げを通して設備投資の増加や賃上げの拡大が期待される。 大企業の業況判断は製造 日銀短観(2015年3月調査)では、大企業・製造業の業況判断DIが+12% 業が横ばい、非製造業は Pt(12月調査比±0Pt)と12月調査から横ばいとなる一方、大企業・非製造 改善 業が+19%Pt(12月調査比+2Pt)と改善した。製造業は、円安が押し上げ 要因になる一方、新興国の減速などが意識され、全体としては横ばいにとど まった。非製造業は、小売の業況判断が大幅に改善するなど、内需の回復が 確認できる結果であった。先行きは、業況判断の水準自体が高いこともあっ て、小幅な低下の見通しとなっている。 図表1 業況判断DI (%Pt) 2014年12月調査 (%Pt) 最近 2015年3月調査 先行き 最近 30 (変化幅) 先行き (変化幅) 20 14 12 16 2 14 ▲ 2 10 製造業 12 9 12 0 10 ▲ 2 0 非製造業 17 16 19 2 17 ▲ 2 ▲ 10 9 5 10 1 7 ▲ 3 ▲ 20 7 1 4 ▲ 3 3 ▲ 1 ▲ 30 10 7 14 4 10 ▲ 4 3 ▲ 2 2 ▲ 1 0 ▲ 2 製造業 4 ▲ 3 1 ▲ 3 0 ▲ 1 非製造業 1 ▲ 2 3 2 ▲ 1 ▲ 4 大企業 中堅企業 製造業 非製造業 中小企業 (注)2014年12月調査の計数は、2015年3月の調査対象企業見直し後の新ベース。 (資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、みずほ総合研究所作成 1 先行き 大企業非製造業 大企業製造業 ▲ 40 ▲ 50 ▲ 60 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 (年) (注)2014年12月調査までは旧ベース、2015年3月調査は新ベース。 (資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、みずほ総合研 究所作成 製造業の業況は海外需要 大企業・製造業の業況判断DIは 16 業種中 7 業種が改善、5 業種が横ばい の弱さなどが意識され、 であった。自動車や電気機械などで、円安の追い風はあるものの、中国経済 横ばい の減速といった海外需要の弱さが意識されたとみられる。 非製造業は個人消費の回 復などを受けて改善 大企業・非製造業の業況判断DIは12業種中、4業種が改善、3業種が横ば いであった。不動産(+22%Pt→+33%Pt)、対個人サービス(+18%Pt →+27%Pt)、小売(▲2%Pt→+5%Pt)などが大幅に改善しており、個人 消費を中心に内需の回復が確認できる内容であった。 中小企業は、製造業の業況判断DIが+1%Pt(12月調査:+4%Pt)と悪 化した一方、非製造業が+3%Pt(12月調査:+1%Pt)と改善した。製造業 は、流通在庫が増加している素材業種(+3%Pt→▲4%Pt)の悪化幅が大き かった。非製造業は、小売(▲23%Pt→▲13%Pt)や不動産(±0%Pt→+7% Pt)などが改善した。 先行きは製造業・非製造 業とも小幅な低下 先行きについては、大企業・製造業が2Pt悪化、非製造業が2Pt悪化と、や や慎重な見方となっている。もっとも、非製造業は、業況判断DIの水準が 高い建設や不動産が押し下げたものの、小売は改善が続く見込みであり、個 人消費回復への期待がみられる。 2014年度の収益計画は上 2014年度の経常利益(全規模・全産業)は前年比+1.9%と12月調査から 方修正、2015年度は慎重 2.2%上方修正された。円安基調による輸出採算向上などを受け、製造業の な計画 修正幅が大きくなっている。一方、2015年度の経常利益(全規模・全産業) は前年比+0.6%と、非製造業を中心に慎重な計画となっている。 2014年度の設備投資計画 2014年度の設備投資計画(土地含みソフトウェア除く、全規模・全産業) は上方修正、2015年度は は前年比+4.4%(修正率+0.7%)と、小幅ながら上方修正された。製造業 非製造業がやや低め は大企業・中堅企業が下方修正されたものの、非製造業は規模にかかわらず 上方修正された。 2015年度の設備投資計画(土地含みソフトウェア除く、全規模・全産業) は前年比▲5.0%と2014年度の当初計画(同▲4.2%)をわずかに下回るスタ ートとなった。3月調査時点では計画が定まっていない企業が大半であるた め、今後上方修正される可能性が高い。比較的早期から計画が定まっている 大企業をみると、製造業が前年比+5.0%の高めの伸びとなっている一方、 非製造業が同▲4.1%と前年を下回った。非製造業では、2014年度の水準が 高いことや小売の出店一巡などが影響したとみられる。 仕入価格判断DIが大幅 に低下 仕入価格判断DI(「上昇」-「下落」)は、原油安などを受けて大企業・ 中小企業ともに低下した。特に素材業種では、大企業が▲18Pt、中小企業が ▲12Ptと大幅に低下した。販売価格判断DI(「上昇」-「下落」)は、製 造業では大企業が小幅に低下、中小企業が横ばいであったが、非製造業は大 2 企業・中小企業ともに小幅に上昇した。仕入・販売価格からみた交易条件は、 業種にかかわらず大企業・中小企業ともに大幅に改善した。 雇用人員判断DIは製造業で▲8%Pt、非製造業で▲24%Ptと、不足超が 続いた。先行きも製造業・非製造業ともに不足超が続く見通しであり、労働 需給のタイト化が進んでいる。 今回の短観は、日本経済 今回の短観は、製造業では中国等海外経済の減速が意識されつつあるも が緩やかながらも回復し のの、全体としては交易条件の改善や個人消費の回復などを受け、概ね回復 ていることを確認できる の方向に向かっていることが確認できる結果であった。GDPベースの設備 結果 投資の低調さが指摘されているが、投資計画は非製造業を中心に上方修正さ れており、企業の設備投資意欲は底堅さを維持していることも確認できた。 また、仕入・販売価格からみた交易条件は大企業のみならず中小企業におい ても大幅に改善しており、企業収益の拡大に繋がるとみられる。今後は交易 条件改善が企業収益を押し上げることにより、投資の増加や賃上げの拡大に 繋がることが期待される。 図表2 (前年度比、%) 全規模 製造業 非製造業 大企業 製造業 非製造業 中堅企業 製造業 非製造業 中小企業 製造業 非製造業 設備投資計画(土地含みソフトウェア除く) 14年度 6月計画 9月計画 12月計画 15年度 実績見込 修正率 3月計画 1.7 4.2 5.5 4.4 0.7 ▲ 5.0 10.1 11.8 12.2 7.1 ▲ 3.4 1.3 ▲ 2.4 0.5 2.2 3.1 2.9 ▲ 8.0 7.4 8.6 8.9 8.2 ▲ 0.5 ▲ 1.2 12.7 13.4 11.4 6.7 ▲ 4.4 5.0 4.9 6.3 7.6 8.8 1.5 ▲ 4.1 2.2 5.1 5.2 2.2 1.4 ▲ 2.3 15.9 19.2 19.6 9.4 ▲ 3.5 3.6 ▲ 5.2 ▲ 2.5 ▲ 2.6 ▲ 1.5 4.3 ▲ 5.6 ▲ 19.7 ▲ 12.9 ▲ 6.7 ▲ 6.2 5.0 ▲ 21.2 ▲ 5.4 ▲ 1.6 7.9 6.2 0.6 ▲ 14.3 ▲ 26.0 ▲ 18.0 ▲ 13.2 ▲ 11.1 7.2 ▲ 24.5 (注) 土地を含みソフトウェアを除く。 2014年12月調査までは旧ベース、2015年3月調査は新ベース。 2014年度実績見込の修正率は、2014年12月調査(新ベース)と2015年3月調査(新ベース)の比較。 (資料) 日本銀行「全国企業短期経済観測調査」よりみずほ総合研究所作成 (前年比、%) 8 2012年度 2014年度(旧ベース) 6 4 2013年度 2 2014年度(新ベース) 0 ▲2 ▲4 2015年度 ▲6 3月 6月 9月 12月 見込 (注)1.全規模・全産業。土地を含みソフトウェアを除く。 2.2014年12月調査までは旧ベース、2015年度3月調査は新ベース。 (資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」よりみずほ総合研究所作成 ●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに 基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 3 実績
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