日銀短観解説 2016 年 7 月 1 日 日銀短観(2016 年 6 月調査) 経済調査部主任エコノミスト 小西祐輔 03-3591-1294 業況判断の悪化は小幅。但し Brexit は織り込まず [email protected] ○ 大企業の業況判断は、製造業で横ばい、非製造業では悪化。製造業は円高による輸出産業への影響 があった一方、原油価格の回復などが一部業種でプラス寄与。非製造業は国内消費の弱含みが作用 ○ 2016年度の設備投資計画は、投資計画の固まっている大企業・製造業では堅調も、全体としてみれ ば保守的な結果。ただし、ソフトウェア投資は堅調であり、投資対象の変化が影響している面も ○ 総じてみると、円高による輸出採算の悪化、国内消費の弱含みによる非製造業の業績伸び悩みなど があり、全体的に企業の景況感は悪化。Brexitの影響が織り込まれていない点にも注意が必要 大企業の業況判断は、製造 日銀短観(2016年6月調査)では、大企業・製造業の業況判断DIが 業で横ばい、非製造業で悪 +6%Pt(3月調査:+6%Pt)と前回調査比で横ばい、大企業・非製造業 化 が+19%Pt(3月調査:+22%Pt)と前回調査から低下した。年明け以降、 為替レートは円高傾向にあり、特に6月に再び円高が進行したことが、輸 出産業の多い加工業種のマインドを低下させた。一方、原油価格の回復 による石油製品の在庫評価益発生が大きく寄与することで、素材業種の 業況は改善した。非製造業については、インバウンド需要の減速、国内 消費の弱含みなどが下押しした模様である。 図表1 業況判断DI 2015年12月調査 (%Pt) 最近 先行き 2016年3月調査 最近 2016年6月調査 先行き 最近 (変化幅) (%Pt) 先行き (変化幅) 30 20 18 13 13 11 12 ▲ 1 12 0 製造業 12 7 6 3 6 0 6 0 非製造業 25 18 22 17 19 ▲ 3 17 ▲ 2 14 8 12 5 9 ▲ 3 6 ▲ 3 5 0 5 ▲ 2 1 ▲ 4 0 ▲ 1 19 12 17 9 14 ▲ 3 10 ▲ 4 ▲ 40 3 ▲ 2 1 ▲ 4 ▲ 1 ▲ 2 ▲ 5 ▲ 4 ▲ 50 製造業 0 ▲ 4 ▲ 4 ▲ 6 ▲ 5 ▲ 1 ▲ 7 ▲ 2 ▲ 60 非製造業 5 0 4 ▲ 3 0 ▲ 4 ▲ 4 ▲ 4 大企業 大企業非製造業 先行き 10 0 ▲ 10 中堅企業 製造業 非製造業 中小企業 (資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、みずほ総合研究所作成 1 大企業製造業 ▲ 20 ▲ 30 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) (資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、みずほ 総合研究所作成 先行きについては、製造業、非製造業とも小幅な低下が続く見通しと なっている。海外経済や国内消費の先行きについて、まだ十分な回復の 見込みを持てずにいる模様だ。 製造業の業況は、円高のマイ 大企業・製造業の業況判断DIは16業種中9業種が改善、6業種が低下、 ナス影響を、原油価格の回復 1業種が横ばいであった。6月に入って再び円高が進行したことが、自動 などが打ち消す格好 車、造船、生産用機械など輸出産業のマインドを悪化させた。一方、原 油価格の回復が石油・石炭製品の景況感にプラス寄与したほか、製品の 需給改善により、水準自体はまだ低いものの鉄鋼業にも持ち直しが見ら れた。総じて見れば、予想されたよりも悪くない結果だったといえよう。 非製造業は、国内消費の弱含 大企業・非製造業の業況判断DIは12業種中4業種が改善、8業種が低 みなどから悪化 下であった。対事業所サービス、通信業、卸売業などが改善した一方、 小売、宿泊・飲食サービスなどが低下しており、インバウンド需要の減 速、国内消費の弱含みなどが影響した模様である。建設、不動産は低下 したものの、未だ高い水準を保っている。 中小企業は、製造業の業況判断DIが▲5%Pt(3月調査:▲4%Pt)、 非製造業が0%Pt(3月調査:+4%Pt)と、いずれも悪化した。製造業で は、素材業種が改善、加工業種が悪化した。 製造業の先行きは横ばい。非 先行きについては、大企業・製造業が+6%Ptと横ばい、非製造業が 製造業は低下が続く見込み +17%Ptと低下が続く見込みとなっている。製造業は、加工業種が回復 も水準は高い する一方、素材業種が低下となっている。非製造業については、DIの 低下が続く見込みではあるが、未だ水準自体は高く、先行きについて過 度に悲観的になっているわけではないとみられる。 図表2 15年度 (前年度比、%) 12月計画 実績見込 全規模 設備投資計画(土地を含みソフトウェア除く) (前年比、%) 16年度 実績 修正率 3月計画 6月計画 10 7.8 8.0 5.0 ▲ 2.8 ▲ 4.8 0.4 2.5 12.2 10.8 9.1 ▲ 1.5 ▲ 0.9 6.0 5.3 5.6 6.7 2.9 ▲ 3.5 ▲ 6.8 ▲ 2.5 1.0 10.8 9.8 3.4 ▲ 5.8 ▲ 0.9 6.2 0.9 15.5 13.3 8.4 ▲ 4.3 3.1 12.8 4.7 8.5 8.1 1.0 ▲ 6.6 ▲ 2.9 2.7 ▲ 1.1 中堅企業 4.8 5.3 8.7 3.1 ▲ 4.7 ▲ 4.6 3.2 製造業 11.3 7.4 9.3 1.7 5.1 5.8 2.5 1.3 4.2 8.3 3.9 ▲ 10.0 ▲ 10.2 3.7 中小企業 ▲ 0.2 3.9 7.2 3.2 ▲ 19.3 ▲ 14.9 8.8 製造業 1.5 4.8 11.5 6.4 ▲ 22.0 ▲ 17.8 12.3 ▲ 1.0 3.5 5.2 1.7 ▲ 18.0 ▲ 13.5 7.3 製造業 非製造業 大企業 製造業 非製造業 非製造業 非製造業 (資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、みずほ総合研究所作成 2 2015年度 修正率 8 2012年度 6 4 2 2013年度 2014年度 0 ▲2 ▲4 2016年度 ▲6 3月 6月 9月 12月 見込 実績 (注)全規模・全産業。土地を含みソフトウェアを除く。 (資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、 みずほ総合研究所作成 2016年度の収益見通しは、製 造業で大きく悪化 2016年度の経常利益(全規模・全産業)は、前年比▲7.2%と3月調査 から4.7%下方修正された。製造業の計画の下方修正(修正率:▲9.0%) が際立っており、想定為替レートを円高に見直し(大企業製造業・3月調 査:117.46円/ドル⇒6月調査:111.41円/ドル)たことが主因とみられる。 もっとも、足元の為替レートは見直し後の想定レートよりもなお円高水 準にあるため、今後、円安に転換しない限り、収益見通しは今後の調査 でさらに下方修正される可能性が高い。 2016年度の設備投資計画は 2016年度の設備投資計画(土地含みソフトウェア除く、全規模・全産 大企業・製造業で堅調も、総 業)は、前年比+0.4%(修正率:+2.5%)と上方修正された。6月調査 じて保守的 段階で概ね計画の固まる大企業・製造業は同+12.8%(修正率+4.7%) と、2015年度には及ばないものの堅調な推移を示している。一方で、大 企業・非製造業は同+2.7%と、6月調査時点としては2011年度以来の保 守的な計画となっている。 ただし、GDP統計上の設備投資の概念に近い「ソフトウェア含む、 土地除く」ベースでは、大企業・非製造業も高めの計画となっている。 企業の投資対象が変化しているものの、企業の投資意欲そのものは底堅 いといえるだろう。 大企業の海外での製商品需 給判断DIが下げ止まり 海外での製商品需給判断DI(「需要超過」-「供給超過」)は、大企 業、中小企業ともに改善し、昨年からの需給の悪化に歯止めがかかる形 となった。先行きの判断は大企業は横ばい、中小企業で小幅な改善とな っている。海外経済の低迷を背景とした輸出低迷が国内の景気回復の重 石となっているが、6月調査時点ではそうした下押し圧力がやや緩和した 図表3 海外での製商品需給判断DI(製造業) 「需要超過」 (%Pt) 0 ▲5 大企業 ▲ 10 ▲ 15 ▲ 20 先行き 中小企業 ▲ 25 ▲ 30 「供給超過」 10 11 12 13 14 15 16 (年) (資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、みずほ総合研究所作成 3 模様である。 今回の短観では、円高の影響 今回の短観では、円高による輸出採算の悪化、インバウンド需要の減 や国内消費の低迷などによ 速、国内消費の弱含みによる非製造業の伸び悩みなどがあり、全体的に る停滞がみられる結果 企業の景況感は悪化している。ただし、事前予想ほど製造業の業況は悪 化しておらず、3月調査時点に比べれば世界経済に対する懸念が薄らいで いたことがあるだろう。 Brexitによる不透明感を織 この点については、6/24(日本時間)に結果の判明したイギリスの国 り込んでいない点は注意が 民投票に離脱派が勝利したことで急速な円高、株安が進むとともに、世 必要 界経済の先行きに対する不透明感も高まったが、短観の調査対象期間の 関係から、この内容は結果に完全には織り込まれていない点には注意が 必要だ。現時点での企業マインドは、短観の結果よりも更に下振れてい ると考えておくべきだろう(注:短観の調査票は6月末まで回収している が、回収基準日は6/13である)。 ●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに 基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 4
© Copyright 2024 ExpyDoc