マーケットウィークリー・823号 マーケット展望 日銀短観:企業の慎重姿勢は変わらず 非製造業の業況改善が顕著に 2015.4.10 作成者:奥村義弘 企業の慎重姿勢 が 示 さ れ た 3月 調 査の日銀短観 企業の経営者心理は、先行きの企業活動を反映するものとして注目 度が高い。4月1日に発表された3月調査の日銀短観は、大企業・製造業 で現状判断DIが12月調査比変わらずの12、先行き判断DIが現状判 断DI比2ポイント低下の10となった。製造業では依然製品需給にひっ 迫感がなく、先行き不透明感の強い世界経済を受け方向感に欠ける。 ただ、設備稼働率が高まりつつあり、生産用機械、はん用機械、業務 用機械の業況は高水準。先行きは、円安・原油安メリットの享受、国 内生産回帰の声もある。15年度の為替の前提が111.81円/ドル、微増 益とみる収益計画を見る限り、保守的な印象を強く受ける。6月調査に 向けては上方修正の可能性があるものと考える。 非製造業の業況 改善が目立つ 一方、大企業・非製造業は現状判断DIが12月調査比2ポイント改善 の19、先行き判断DIが現状判断DI比同2ポイント低下の17となっ た。企業業績の好調、賃上げムード、消費拡大期待が高まる中、内需 型の業種が多い非製造業の改善が目立っている。業種別には、消費者 心理の改善を受け、対個人サービスの上昇が顕著。ばらつきはあるが 都心の一等地などで上昇が目立つ不動産、堅調な受注状況の建設、マ イナンバー制度など新しい需要が期待できる通信や情報サービス、訪 日外客増が寄与する小売では仕入れ価格上昇の販価への転嫁も進展し ているようだ。先行きの不透明感は残るが、良好な状況と言えよう。 慎重な設備投資 計画は例年通り 大企業・製造業の15年度の設備投資計画は前年度比5.0%増。14年度 予想の同6.7%増と比較すると低下を示したが、3月時点の集計値とし ては高めの数字である。決算を締めた後の6月調査の数字がポイントに なると考えるが、製造業の生産・営業設備の過剰感が解消しているこ と、円安や中国の人件費の上昇などで国内回帰の動きができているこ と、設備の老朽化も進んでおり効率化を高める更新ニーズが高まって おり、増勢基調になると考える。企業収益の好調を背景にキャッシュ フローは積み上がっている企業も多い。一方、大企業・非製造業の15 年度の設備投資計画は前年度比4.1%減と14年度予想の8.8%増との比 較では落ち込む印象。内需・非製造業は円安、人出不足などコスト増 要因も多く、慎重姿勢につながっている可能性がある。 企業心理向上に は規制改革や構 造改革が必要 国内の設備投資を高めるには、規制緩和、構造改革に対する継続的 な取り組みも重要だ。恒常的に不足する労働力に対しては、働き方を 変え生産効率を上げるとともに、女性や外国人労働者の積極的活用を 図る必要があろう。緩やかながら改革への取り組みが進んでいること は評価したい。法人税の引き下げも、先行するアジア諸国との競争を 考える場合避けては通れない課題である。原発の再稼動が話題となっ ているが、高騰したエネルギー価格を環境問題の克服とともにいかに 下げていくか、政策の道筋を示すことも重要な意味を持つ。肝心なの は、国内でいかなる産業を育成するかであろう。すでに海外に多くの 生産拠点を持つグローバル企業にとり、汎用品の生産増は中長期では 積極的な投資理由にはなりにくい。医療、ロボット、IT、次世代自 動車などポテンシャルの高い分野で、競争力ある高付加価値事業の創 出こそが目指すところとなろう。6月に改訂版がまとめられる戦略特区 や成長戦略などで具体的な青写真が描けるか再度注目されよう。 マーケットウィークリー・823号 2015.4.10 ◇大企業の収益計画、設備投資計画 (前年度比・%) 2014年度 2015年度 ◇日銀短観・業況判断DI 修正率 売上高 2.7 0.9 0.7 製造業 1.2 0.0 0.6 非製造業 3.7 1.5 0.8 全産業 4.3 2.7 0.6 製造業 5.1 5.7 1.3 非製造業 3.5 ▲ 0.1 0.0 設備投資額 全産業 8.2 ▲ 0.5 ▲ 1.2 製造業 6.7 ▲ 4.4 経常利益 大企業製造業 大企業非製造業 非製造業 8.8 1.5 (注)修正率は2014年12月調査との比較 (出所)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」 (注)直近は2015年3月調査、先行きは3カ月後まで (出所)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」 (%) 全産業 ◇大企業・製造業の設備投資額(含む土地投資額) 16 14 12 10 8 6 4 2 0 ▲2 ▲4 11年度 12年度 13年度 14年度 15年度 ◇大企業・非製造業の設備投資額(含む土地投資額) (%) 16 14 12 10 8 6 4 2 0 ▲2 ▲4 ◇判断DI 生産・営業設備(製造業:過剰-不足) ◇判断DI 雇用人員(過剰-不足) 製造業 2014/4Q 2014/1Q 2013/2Q 2012/3Q 2011/4Q 2011/1Q 2010/2Q 2009/3Q 2008/4Q 2008/1Q 2007/2Q 2006/3Q 2005/4Q 2005/1Q 非製造業 (出所)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」 40 35 30 25 20 15 10 5 0 -5 (出所)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」 ◇主な先行きの業況判断の良好な業種(大企業) 同変化幅 (単位:良い-悪い・%ポイント) 同変化幅 先行き 同変化幅 最近 先行き 業種 最近 16 2 14 ▲2 通信 16 ▲6 22 6 12 0 10 ▲2 情報サービス 23 ▲2 22 ▲1 19 2 17 ▲2 はん用機械 25 5 16 ▲9 対個人サービス 27 9 30 3 電気機器 15 0 15 0 不動産 33 11 29 ▲4 運輸・郵便 15 0 15 0 建設 36 0 26 ▲10 化学 16 9 13 ▲3 生産用機械 26 ▲1 25 ▲1 業務用機械 19 2 13 ▲6 物品賃貸 28 ▲3 23 ▲5 小売 5 7 13 8 対事業所サービス 27 ▲4 23 ▲4 宿泊・飲食サービス 17 0 13 ▲4 (注)最近の変化幅は15年3月調査と14年12月調査との対比、先行きの変化幅は最近との対比 (出所)日本銀行「全国企業短期経済観測」よりCAM作成 業種 全産業 製造業 非製造業 同変化幅 11年度 12年度 13年度 14年度 15年度 (出所)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」 (出所)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」 50 40 30 20 10 0 ▲ 10 ▲ 20 ▲ 30 5.0 ▲ 4.1 2005/1Q 2005/3Q 2006/1Q 2006/3Q 2007/1Q 2007/3Q 2008/1Q 2008/3Q 2009/1Q 2009/3Q 2010/1Q 2010/3Q 2011/1Q 2011/3Q 2012/1Q 2012/3Q 2013/1Q 2013/3Q 2014/1Q 2014/3Q 2015/1Q ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ 40 30 20 10 0 10 20 30 40 50 60 70
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