日銀短観(2016 年9 月調査)

日銀短観解説
2016 年 10 月 3 日
日銀短観(2016 年 9 月調査)
経済調査部主任エコノミスト
宮嶋貴之
03-3591-1434
収益見通しが悪化するも、設備投資は底堅さを維持
[email protected]
○ 大企業の業況判断は、製造業で横ばい、非製造業で小幅に悪化。製造業は熊本地震の影響収束など
がプラス要因となったが海外経済の弱さが下押し。非製造業は天候不順や爆買い一服などが要因
○ 大企業・製造業の想定為替レートは、107.92円と前回調査(111.41円)から円高修正。これを受け
て、製造業中心に経常利益計画は下方修正。一方、設備投資計画は、総じてみれば底堅さを維持
○ 企業は、昨年までの業績改善を円安などによる一時的なものと捉えていたとみられ、こうした追い
風が止んだとしても、設備投資意欲が大幅に後退することはない模様
大企業の業況判断は、製造業
日銀短観(2016年9月調査)では、大企業・製造業の業況判断DIが
で横ばい、非製造業で小幅に
+6%Pt(6月調査:+6%Pt)と前回調査から横ばい、大企業・非製造業
悪化
が+18%Pt(6月調査:+19%Pt)と前回調査から小幅に悪化した。製造
業では、自動車業や鉄鋼業が改善する一方、はん用・生産・業務用機械
業や化学業が悪化した。非製造業については、建設業や対個人サービス
業などが改善したものの、小売業や運輸・郵便業などが悪化したことを
受けて、全体では小幅の悪化となった。総じてみれば、業況判断は、前
期からほぼ変わらなかったと評価される。
図表1
(%Pt)
大企業
製造業
非製造業
2016年3月調査
2016年6月調査
最近
最近
先行き
業況判断DI
(%Pt)
30
2016年9月調査(予測)
先行き
最近
(変化幅)
先行き
先行き
(変化幅)
20
13
11
12
12
12
0
11
▲ 1
6
3
6
6
6
0
6
0
22
17
19
17
18
▲ 1
16
▲ 2
12
5
9
6
10
1
6
▲ 4
5
▲ 2
1
0
3
2
1
▲ 2
17
9
14
10
15
1
10
▲ 5
10
0
▲ 10
中堅企業
▲ 20
製造業
▲ 30
非製造業
大企業製造業
▲ 40
中小企業
1
▲ 4
▲ 1
▲ 5
0
1
▲ 3
▲ 3
大企業非製造業
▲ 50
製造業
▲ 4
▲ 6
▲ 5
▲ 7
▲ 3
2
▲ 5
▲ 2
4
▲ 3
0
▲ 4
1
1
▲ 2
▲ 3
▲ 60
非製造業
(資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、みずほ総合研究所作成
1
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16 (年)
(資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、みずほ
総合研究所作成
製造業の業況は、熊本地震の
影響収束などにより改善
大企業・製造業の業況判断DIは 16 業種中 7 業種が改善、8 業種が低
下、1 業種が横ばいだった。6 月下旬の Brexit 以降、さらなる円高の進
行が当初は懸念されたが、実際には円高に歯止めがかかり、業況判断の
急激な悪化は避けられた。また、熊本地震などにより生産が落ち込んで
いた自動車業も、挽回生産の局面となって改善した。加えて、中国など
新興国経済の減速による商品市況の悪化に歯止めがかかったことで、鉄
鋼業も改善した。一方で、設備投資を中心に海外経済の回復力が弱いこ
とから、はん用・生産・業務用機械業の景況感は悪化した。また、原油
安の一服を受けて化学業も悪化した
非製造業は、天候要因と爆買
い一服などより小幅の悪化
大企業・非製造業の業況判断DIは12業種中5業種が改善、4業種が低
下、3業種が横ばいであった。対個人サービス業が大幅に改善しており、
邦画作品のヒットなどを受けてサービス消費は底堅かったとみている。
また、2015年度の補正予算執行や相続税対策による貸家需要などから、
建設業、不動産業が改善した。一方で、天候要因による来店客数の減少
や中国人観光客による爆買い一服を受けて、小売業が悪化した。加えて、
運輸・郵便業も天候不順の影響から悪化した。また、ソフトウェア投資
の拡大一服により、情報サービス業も悪化した。
中小企業は、製造業の業況判断DIが▲3%Pt(6月調査:▲5%Pt)と、
非製造業が1%Pt(6月調査:+0%Pt)と、いずれも小幅の改善となった。
製造業の先行きは横ばい。非
先行きについては、大企業・製造業が横ばい、非製造業は小幅の悪化
製造業は悪化が続く見込み
となった。米国の利上げペースの鈍化や海外の政治情勢の不透明感など
から円高懸念がまだ燻っているほか、海外経済の回復力の弱さやインバ
ウンド消費拡大の一服、可処分所得の伸び悩みによる個人消費の足腰の
弱さなどから、企業は先行きを慎重に見ていると考えられる。
図表2
想定為替レートと実勢レート
図表3
(円/ドル)
(前年比、%)
60
Brexit決定
100
105
大企業・製造業の経常利益計画
円高
大企業・製造業の想定レート
(9月調査)
2013年度
50
40
30
110
2012年度
2014年度(新ベース)
20
115
大企業・製造業の想定レート
(6月調査)
10
0
120
▲ 10
円安
125
16/1
2015年度
2014年度(旧ベース)
2016年度
16/2
16/3
16/4
16/5
16/6
16/7
16/8
▲ 20
16/9
3月調査
(年/月)
6月調査
9月調査
12月調査
見込
(資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、
みずほ総合研究所作成
(資料)Datastream、日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、
みずほ総合研究所作成
2
実績
想定為替レートの修正によ
2016年度の経常利益(全規模・全産業)は、前年比▲8.1%と6月調査
り2016年度の収益見通しは
から下方修正(修正率:▲1.0%)された。大企業・製造業の想定為替レ
悪化
ートが、円高修正(6月調査:111.41円/ドル⇒9月調査:107.92円/ドル)
されたことにより、計画が下方修正(修正率:▲3.3%)されたためだ。
ただし、実勢レート対比でみれば、想定レートは依然円高水準にあり、
現状の円高水準が続けば、収益の着地点はより低くなる可能性が高い。
2016年度の設備投資計画は
2016年度の設備投資計画(土地含みソフトウェア除く、全規模・全産
総じてみれば底堅い
業)は、前年比+1.7%(修正率:+1.3%)と上方修正された。例年の
パターン通り、中小企業が上方修正(修正率:+6.9%)された影響が大
きく、大企業・製造業は同+12.7%(修正率▲0.1%)、大企業・非製造
業は同+2.9%(修正率+0.1%)となり、前期から計画はほぼ変わらな
かった。
GDP統計上の設備投資の概念に近い「土地除くソフトウェア含む」
ベースでは、大企業・製造業、非製造業ともに小幅に下方修正された。
ソフトウェア投資の拡大が一服した可能性がある。ただし、全体でみれ
ば特に非製造業は高い伸び率を維持している。
以上を総じてみれば、設備投資計画は底堅い結果と評価されよう。
雇用、設備の不足感がやや
生産・営業用設備と雇用人員判断DIは、大企業を中心に不足感がや
強まる
や強まり、先行きも不足感が強まるという結果となった。人手や設備の
不足感が強い中、省力化投資などへの企業の投資意欲は、先行きも底堅
く推移することが期待される結果と言えよう。
海外需給判断DIは横ばい
海外での製商品需給判断DI(大企業・製造業)は小幅に改善、先行
きは小幅の悪化となった。輸出を巡る外部環境に大きな変化はなく、企
業は先行きを慎重に見ていることが示唆される。
図表4
(前年度比、%)
全規模
15年度
実績
設備投資計画(土地を含みソフトウェア除く)
16年度
3月計画
6月計画
(前年比、%)
9月計画
修正率
5.0
▲ 4.8
0.4
1.7
1.3
製造業
9.1
▲ 0.9
6.0
6.1
0.2
非製造業
2.9
▲ 6.8
▲ 2.5
▲ 0.6
1.9
3.4
▲ 0.9
6.2
6.3
0.1
製造業
8.4
3.1
12.8
12.7
▲ 0.1
非製造業
1.0
▲ 2.9
2.7
2.9
0.1
大企業
中堅企業
8.7
▲ 4.7
▲ 4.6
▲ 3.9
0.7
製造業
9.3
5.1
5.8
4.4
▲ 1.4
非製造業
8.3
▲ 10.0
▲ 10.2
▲ 8.3
2.1
中小企業
製造業
非製造業
7.2
▲ 19.3
▲ 14.9
▲ 9.0
6.9
11.5
▲ 22.0
▲ 17.8
▲ 15.3
3.0
5.2
▲ 18.0
▲ 13.5
▲ 6.0
8.6
(注)右図は全規模・全産業。
(資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、みずほ総合研究所作成
3
2014年度
(旧ベース) 2015年度
10
8
2012年度
6
4
2
2013年度
2014年度
(新ベース)
0
2016年度
▲2
▲4
▲6
3月調査
6月調査
9月調査
12月調査
見込
実績
収益見通しが悪化する中で
今回の短観では、業況判断が横ばいとなったことで、Brexit後の日本
も設備投資意欲の底堅さを
経済に大きな異変はないことを確認する内容となった。また、想定為替
確認
レートが円高に修正されたことを受けて、大企業・製造業の収益計画は
下方修正となったが、設備投資計画は小幅の下方修正にとどまった。収
益の悪化を受けても、企業の設備投資意欲が大幅には後退していないこ
とを確認する結果と評価されよう。
企業は昨年の好業績を一時
的と捉えていた可能性
この背景には、企業がこれまでの業績改善を一時的と捉えてきたこと
があるとみられる。
製造業の経常利益と売上高の推移をみたものが図表5である。これをみ
ると、2013年から2015年半ばにかけて、経常利益が増加傾向となってい
る一方で、売上高は、消費増税による駆け込み需要により上昇した2014
年以降、弱含んでいる。つまり、経常利益の改善は売上要因ではなく円
安や原油安によってもたらされていたため、企業は好業績を一時的な追
い風によるものとして、慎重に捉えていた面が強いと推察される。これ
を受けて、2013年以降の設備投資の伸び率は、企業収益の改善テンポほ
ど高まらなかったと考えられる。よって、円安や原油安の追い風が弱ま
ったとしても、輸出および個人消費など内需が大幅に悪化しない限り、
設備投資が底割れするようなことは避けられるだろう。
ただし、足元の内外需の回復力が力強さに欠けることから、円高のさ
らなる進行が現実化した際には、収益や設備投資が下振れすることで実
体経済が悪化する懸念は、依然残る点には留意すべきだろう。
図表5
経常利益と売上高
(兆円)
(兆円)
110
売上高(左目盛)
8
経常利益(右目盛)
7
105
6
5
100
4
95
3
2
90
1
0
85
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
(年)
(注)全規模・製造業の季節調整値。
(資料)財務省「法人企業統計」より、みずほ総合研究所作成
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