しょうせいりゅうとう 小青龍湯(傷寒論)

傷寒・金匱方剤解説 140 しー29
方剤名
傷寒論・金匱要略条文
音順
しー29
小青龍湯
生薬構成 および製法・服用方法
読み および解訳・その他
麻黄(苦温)
・芍薬(苦平)
・五味子(酸温)
・乾姜(辛温)
・甘草(甘平)
・桂枝(辛温)
・細辛(辛温)各 3g
半夏(辛平)5g
上の 8 味を水 400mlを以って、先ず麻黄を煮て 80mlを減じ、諸薬を内れ煮て 120mlとなし、滓を去り 3 回
に分けて温服する。
弁太陽病脈証併治中第六第 10 条(傷寒論)
「傷寒表解せず、心下に水気有り、乾嘔発熱して咳し、或は渇し、或は痢し、或は噎し、或は小便不利、少腹満、或は喘する者は小青龍湯
之を主る。
」
げ
いつ
つかさど
解せず、噎し、 主 る
解訳 傷寒に罹って、幾日か経っても表が治らないで、心下(みぞおち)の辺りに元々水があるために、乾嘔(ゲーゲー言っても物が
出ない)して発熱し、咳が出ている、また咽の乾く場合もあり、或いは微に下痢のある時もあり、或いは噎する(むせる)時も
あり、或いは小便の出が悪く下腹が張る時もあり、或いは喘する者には、小青龍湯が主治する。
小青龍湯加減法
もし微かに下痢のある場合には、
小青龍湯 -麻黄 +蕘花(苦寒)
、鶏卵大を用いる。
蕘花は、体中の水分が体表に出ることが出来ずに、裏に迫って微痢を起こすものに用いる。
もし渇する者には、
小青龍湯 -半夏 +栝楼根(苦寒)3gとする。
もしむせる場合には、
小青龍湯 -麻黄 +附子 0.2gとする。
もし小便の出が悪く下腹が満つる者には、
小青龍湯 ―麻黄 +茯苓 4gとする。
もしゼイゼイと喘する者には、
小青龍湯 -麻黄 +杏仁 4gとする。
以上はいずれも小青龍湯を服用させて見て、ハッキリしない場合に限り加減を行なうものである。
小青龍湯の麻黄は風寒を発散し、平喘し利水する。麻黄・桂枝は通陽宣散の作用を増強する。乾姜・細辛は散寒し、水飲を
除く。半夏は去痰し、逆気を降す。甘草は正気を扶け、胃を和する。薬味が辛散のものが多く、正気を消耗する恐れがあ
るので、酸収の五味子を加えて肺腎の気を保つ。酸収微寒の芍薬で、五味子を助けて、営陰を収斂して動血を防ぐ。
以上により、正気を傷つけないで、邪気を去る。乾姜・細辛・五味子の 3 薬の配合は、肺の水飲を温散し、止咳平喘
の効果があるが、これは張仲景先生の咳喘効果の薬物配合の特徴である。
「方剤決定のコツ」の注釈
傷寒で、表が解せないために邪熱が裏に影響を及ぼして、胃中の水を刺激して水気を発して、突き上げを起こせば乾嘔と
なり、水気が、邪熱と表に向かえば、発熱を生じ、肺に迫れば咳を発する。或いは渇する者は、邪熱が咽に及ぼして生じ、
或いは利する者は、邪熱が腸中に入り、腸中の水を動じて微痢を生ずることもあり、或いは噎する(むせること)者は、
寒を生じて、そのために腸虚を生ずることもあり、或いは小便不利し、少腹満する者は、水の偏在が上焦にあるために生
ずるものであり、或いは喘する者は、表に水無く裏に水の偏在があって生ずるのである。
この証は、病の源が、表を解せずして、心下の水が気を帯びて生じ、色々の証候を発する場合の治方を述べたものであ
る。
参考 寒飲に化熱の傾向が現われ、激しい咳などが出たりする煩躁の状態がみられる時は、生石膏を加えて小青龍湯加石膏として用
いる。
小青龍湯は、陽気を発散するばかりではなく、傷陰動血の恐れがあるので長期間の服用は適さない。故に心疾患が原因で生じ
た咳喘や肺結核などに対しては慎重に用いる必要がある。
小青龍湯証
新古方薬囊によれば「熱があって、咳が出ることが激しく、咳激しきときは吐き気をさえ催し、咽喉の乾かない者。悪寒があって
汗の出ない者。咳して、うすい痰や唾を多く吐く者。全身に水腫(むくみ)があって、小便少なく、咳の出る者。本方はまた、
皮膚にブツブツを生じ、かゆみある者にも効果がある。胃中に水気があるというのが本方の主眼である。本方は、また風邪より
来る小便の不利に効あり。
」と記されている。
「方剤決定のコツ」の注釈
小青龍湯の場合には、表証がまだ残っていて、胃内停水があり、水が上逆するのが大切な証となる。
弁太陽病脈証併治中第六第 11 条(傷寒論)
おわ
げ
つかさど
「傷寒、心下に水気有り、咳して微喘発熱渇せず、湯を服し已り渇する者は此れ寒去り解せんと欲する也。小青龍湯之を 主 る。
」
解訳 傷寒で、みぞおちの辺りに水気があって(胃に余分な水分が停滞して、ゴボゴボ鳴る)
、咳をして少しゼイゼイと喘し、熱が出
て、特に咽の乾かない様なものに、小青龍湯を服用させて渇が出て来たものは、寒が取れて解する前兆である。表を発して水を
散ずる小青龍湯が主治する。
小青龍湯証は、傷寒に属し、同時に水飲を兼ねた外寒内飲証である。故に傷寒表証の悪寒、発熱、無汗(自汗)
、身体痛など
の症状も存在することになる。また発熱しても、水飲の存在のために咽は乾くことはない。
「心下に水気あり」とは、元来水
太りタイプや、湿った所に長く住んでいたりして水飲が内停している。心下の水は多くの場合、胃内停水であるために、胃が
冷えて「胃は降濁を主る」作用が障害されて、胃気上逆をきたし乾嘔となる。また外寒内飲は、肺に影響を与え易く、肺気の
流れを滞らせて肺の宣散粛降が失調するために、咳喘が起こり、寒飲であるために、咳と共に稀薄な泡沫状の痰が出る。また
水邪は、常に気の昇降により変動し、気によって津液に化さないので、至る所に異常が発生する。水邪が腸に行けば下痢にな
り、また下焦(膀胱)に貯まり、膀胱の気化作用が失調すると小便不利となり、下腹部に膨満感が現われる。また水飲が上に
うつ積すると、気の流れが障害されて咽頭が詰まった感じになって、食べ物が咽を通りにくくなる(噎)
。また裏の寒飲のた
めに、四肢が冷えることもある。これがひどくなると真武湯証になる。
小青龍湯証は、寒飲の内停が多いために、一般に口渇は少ないのが当たり前であるが、小青龍湯を服用して、口渇を訴えて
水を飲みたくなれば「寒去って解せんと欲する」状態であり、寒飲が消退して胃の陽気が回復した好現象である。
痰飮咳嗽病脈証併治第十二第 24 条(金匱要略)
つかさど
まさ
また
つかさど
「溢飲を病む者は、当にその汗を発すべし。大青龍湯之を 主 る。小青龍湯も亦之を 主 る。
」
解訳 溢飲を病んでいる者は、当然汗を発して治すべきである。それには大青龍湯が主治する。小青龍湯もまた主治する。
大青龍湯も小青龍湯も、溢飲に対しては発汗によって治療して行くことは同じであるが、両湯ともその病人の身体の状態に大
変な違いがある。
大青龍湯は表が塞がって内に熱がこもってしまい、そのために飲の行く所が無くなって、心下に集まり、心下に冷えがあり、
旧蓄水がだぶついて捌くことが出来ず溢飲を起こしているのであるし、小青龍湯の方は表に寒邪が未だあり、表が閉塞して
おり溢飲を起こしている。
大青龍湯の場合は、麻黄で表閉を開き、桂枝・甘草・生姜で胃腸を補し、発汗を容易ならしめ、杏仁で肺の欝気を緩解し
て逐水を容易にし、大棗で脾陰を補し、石膏で表裏のこもった熱気を冷やす。
小青龍湯の場合は、麻黄で表閉を開き、桂枝・甘草で胃腸を助け、芍薬・五味子で脾陰を補い、細辛・乾姜で旧蓄水の旧
寒を逐し、半夏で濁水を捌く。
小青龍湯証
新古方薬囊によれば「熱あり咳出づること劇しく、咳劇しき時は嘔氣をさへ催し咽喉の乾かざる者。悪寒あって汗出ざる者。咳し
てうすい痰や唾を多く吐く者。全身に水腫(むくみ)があり小便少なくして、咳出づる者。本方は又皮膚にブツブツを生じ痒み
ある者にも効果あり。胃中に水気が在ると云ふのが本方の主眼なり。本方はまた風邪より来る小便の不利に効あり。
」と記され
ている。
大青龍湯証
新古方薬囊によれば「麻黄湯の證にて、一段と発熱や悪寒が激しく、病人が苦しんで落ち着かざる者、此れは汗の出が麻黄湯より
余計に出悪き爲に、
病人が騒ぎ落ち着かざるなり、
全身にむくみを生じ汗が出でず、
身体重だるくして身の置き場がない様な者。
」
と記されている
とにかく煩躁がひどいというのが、一番大切な目標である。
」と記されている。
痰飮咳嗽病脈証併治第十二第 37 条(金匱要略)
き そく
つかさど
「咳逆倚息、臥するを得ざるは小青龍湯之を 主 る。
」
解訳 咳き込むことが続いているために、寄りかかって呼吸をして、苦しく横になることが出来ない者は、小青龍湯が主治する。
痰飮咳嗽病脈証併治第十二第 38 条(金匱要略)
「青龍湯を下し己り、多唾口燥、寸脈沈尺脈微、手足厥逆し、気少腹より上りて胸咽を衝き、手足痺し、其の面酔状の如し翕熱し、因って復
陰股に下流し小便難、時に復冒する者、茯苓桂枝五味甘草湯(苓桂五味甘草湯または苓桂味甘湯)を与えて其の気衝を治す。
」
くだ
おわ
た だ こうそう
しょうふく
のぼ
きょういん
つ
きゅうねつ
よ
また
いん こ
なん
き
しょう
下し已り、多唾口 燥、 少 腹より上りて 胸 咽を衝き、 翕 熱、因って復、陰股、小便難、気 衝
解訳 小青龍湯を服用した後で、唾が多くなって、口が乾いてつらく、寸脈が沈んでしまい、尺脈も微かになって、手足の先から冷え
て来て冷たく、気が下腹部より昇って胸や咽の方まで突き上げて来て、手足が冷たくしびれる様になり、顔はポーッとして酒に
酔った様に赤くほてり、また上がって来た気が下に戻って来て、陰股に下がったために小便が出にくくなり、時々復た気が上に
昇って頭がボーッと何かかぶった様になるものには、茯苓桂枝五味甘草湯(苓桂五味甘草湯)を与えて、その上の方に突き上げ
る気を治してやればよい。
小青龍湯を与えたために生じた変証であり、多唾とは、心下支飲が充分に除かれずに残っている場合の証である。
即ち、発汗によって陽気を失って、寸脈が沈を現わし、また陰気を失って尺脈が微を示し、陰陽の気が衰微し、津液の流通が
出来なくなり、故に口燥となり、手足が厥冷する。発汗の衝撃で腎気が虚し、孤陽となった命門の陽気が、衝脈に従って上下
に昇降する。故に「気が少腹より胸咽に衝き」以下の諸証が生じる。
茯苓桂枝五味甘草湯(苓桂五味甘草湯)は、桂枝・甘草で失われた胃陽を助けて、腎陽の上衝を制し、茯苓でこれを鎮降せ
しめ、五味子で腎陰を補い、腎陽の脱出を制圧する。
苓桂五味甘草湯(茯苓桂枝五味甘草湯)証
新古方薬囊によれば「手足冷え、腹から咽喉へ掛けて何か突き上げて来る様な気持ちのする者。手足の痺れる者。顔面、又は眼中
が赤くなる者、小便の出が悪い者、頭がかぶさった様にぼーっとする者など。その他、本証の患者には、頸から肩へ掛けて凝る
者あり。咳は多少に拘らず出る者多し。
」と記されている。
「方剤決定のコツ」の注釈
上記の証は、表虚して陽気が外に発することが出来ず、また裏虚して手足の冷えを表わすことによって、上衝を起こす。
婦人雑病脈証併治第二十二第 7 条(金匱要略)
「婦人涎沫を吐するに医反って之を下し、心下即ち痞す。当に先ず其の涎沫を吐するを治すべし。小青龍湯之を主る。涎沫止めば乃ち痞を治
す、瀉心湯之を主る。
」
せんばつ
かえ
くだ
まさ
つかさど
すなわ
涎 沫、反って之を下し、当に、 主 る、 乃 ち
解訳 婦人が病んで、唾やよだれを吐くのは、上焦に寒があるのに、涎沫を吐するのを医者が内熱から来ていると考え違いして、下す
べきでないのを下したために、裏を冷やして、熱が上衝してみぞおちに痞えを生じたものには、先ず、その唾やよだれを吐くの
を治してやるべきである。それには心下の水気を除くのに小青龍湯が主治する。唾やよだれが止まったら、上衝の熱を下げて心
下に戻して痞えを治してやればよい。それには瀉心湯が主治する。
婦人で冷え性の人は、心下の蓄水を生じ易く、それが基になって上焦に冷えがあり、水飲が欝滞して涎沫が流れ出る。これは
内を温めて発汗すべきであるのに、誤って下すと、脾胃の気が不和となり、陰陽の気が交流せず心下痞となる。この場合は、
先ず水飲を発散すべく小青龍湯の主治である。これで痞が不解ならば、瀉心湯の主治となる。