平成 25 年度 バイオニクス専攻修士論文概要 論文題目 執筆者氏名 指導教員 抗生物質による環境中硝化細菌に対する阻害 太田 昇吾 浦瀬 太郎 教授 〔概 要〕 硝化細菌は従属栄養細菌に比べてエネルギー変換効率が悪く,増殖が遅いことから 環境変化に対して感受性が強いため,硝化作用は様々な要因により攪乱されやすい。 また,服用された抗生物質は人の体内では一部しか代謝されない為,抗菌力を持った ままし尿を経由して廃水処理施設へ流入し,硝化プロセスが攪乱される恐れがある。そ こで,本研究では硝化細菌に影響を及ぼす化合物として,抗生物質に着目し,抗生物 質未添加のブランクサンプルと抗生物質を段階的に添加したサンプルを用意して,硝化 抑制試験を実施した。対象の試料として廃水処理施設から接取した活性汚泥,河川水 及び単離株(Nitrobacter winogradkyi)のそれぞれに対する影響を調べた。硝化率は,基 質となるアンモニアまたは亜硝酸性窒素の減少と硝化作用による硝酸性窒素の増加を 測定し,算出した。 活性汚泥の希釈率の増加や,活性汚泥上澄みを用いることにより初期菌体数を低下 させると,抗生物質による 50%硝化抑制は低濃度から見られたが,硝化菌群集の多様 性は維持されていると考えられ,高濃度の抗生物質を暴露してもゆっくりと硝化した。こ れは,活性汚泥中硝化細菌群集では,抗生物質に対して敏感な種と鈍感な種が混合し ているためだと考えらえる。 Nitrobacter 属単離株では,活性汚泥とは異なり,ある濃度以上で完全な硝化阻害が 見られた。しかし,50%硝化抑制濃度で比較すると,Nitrobacter 属の方が,GM,LVFX に 対して鈍感であり,TC では抑制効果は見られなかった。Nitrobacter 属は,増殖も速く, 抗生物質に対しても鈍感な種であると考えられるため,Nitrobacter 属を基準に活性汚泥 への硝化抑制の程度を議論することは出来ない事が明らかとなった。 自然河川水中では全ての地点で亜硝酸酸化細菌は完全な硝化阻害が見られ,アン モニア酸化細菌は清浄な河川でのみ完全な硝化阻害が確認された。このことから,環境 ごとに微生物の多様性(群集組成もしくは存在場所)が幅広いほど抗生物質に対して, 一部の硝化細菌が抵抗し,ゆっくりとした硝化を維持できたと考えられる。
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