平成 22 年度経営学研究科修士論文要旨 □ 氏名孫鶴 □ 所属経営学研究科経営学専攻 □ 論文題目「現代のリーダーシップ論にみる実践的リーダーシップ」 □ 論文の概要リーダーの役割を担う人間が実際に使えるリーダーシップとは、一体どのようなものなのか。実際に使えるリーダーシップを「実践的リーダーシップ」と名付けて、本論文では、現代の主要なリーダーシップ論を再検討することを通じて、実践的なリーダーシップを探求し、その要件（態度や行動や人間的資質など）を描き出している。本論文で再検討したリーダーシップ論は、行動科学のリーダーシップ論、組織変革のリーダーシップ論、サーバント・リーダーシップ論、分類学的アプローチのリーダーシップ論である。第一に取り上げる行動科学のリーダーシップ論は、最も歴史が長く、最も研究成果が蓄積されてきたリーダーシップ論である。行動科学のリーダーシップ論からみえてくる実践的なリーダーシップは、ある意味では実践的であるが、別の意味では特定的である。それは行動科学のリーダーシップ論は、作業集団の生産性向上といった特定の状況下におけるリーダーシップに焦点を絞っているからである。実践的リーダーシップの観点から見たとき、行動科学のリーダーシップ論は、「特定状況下のリーダーシップ」について論じているといえる。第二に取り上げる組織変革のリーダーシップ論は、さまざまなリーダーの役割のなかでも特に理念やビジョンの提示を強調したリーダーシップ論である。こうした意味で組織変革のリーダーシップ論は、実践的リーダーシップの観点からみたとき、「理念提示型のリーダーシップ」について論じているといえる。第三に取り上げるサーバント・リーダーシップ論は、さまざまなリーダーの役割のなかでも特に組織成員への支援を強調したリーダーシップ論である。こうした意味でサーバント・リーダーシップ論は、実践的リーダーシップの観点からみたとき、「行動支援型のリーダーシップ」について論じているといえる。そして第四に取り上げる人類学的アプローチのリーダーシップ論は、人類学の研究手法を用いて、実際のリーダーがなにを行っているのかを解明しようとするリーダーシップ論である。これまであまり強調されてこなかった、リーダーの人間的資質や状況判断・意思決定能力の重要性が指摘されている。こうした意味で人類学的アプローチのリーダーシップ論は、実践的リーダーシップの観点からみたとき「、現実状況下のリーダーシップ」について論じているといえる。以上のような検討結果から、実践的なリーダーシップについて最もよく教えてくれるのは、人類学的アプローチのリーダーシップ論であることが分かった。それは人類学的アプローチのリーダーシップ論が、リーダーという一人の人間の視線からリーダーシップの実際を記述的に描き出しているからである。しかし、実践的なリーダーシップを理解する上で、行動科学のリーダーシップ論で強調されてきた動機付け、組織変革のリーダーシップ論で強調されてきた理念提示、サーバント・リーダーシップ論で強調されてきた行動支援が、それぞれ重要であることには違いがない。ただ、その実際はよく理解されていないだけである。そこで本論文では、実際のリーダーに関する記述的研究から、動機付け、理念提示、行動支援の実際について簡単に考察した。野村克也氏のケースからは、選手を長期的な人間育成の視点から動機付けしていること、ジャック・ウェルチ氏のケースからは、理念を分かりやすく説明するモデルを開発して理念を説明していること、そしてルイス・ガースナー氏のケースからは、具体的なルールを徹底することによって行動支援する組織文化を醸成していることが明らかになった。