本来感及び自己価値の随伴性と自己開示抵抗感との関連

目白大学大学院
所属
氏名
論文題目
心理学研究科
臨床心理学専攻
修士課程
中尾 万梨子
修了論文概要
修了年度
平成 26 年度
指導教員
(主査)
渡邉 勉
本来感及び自己価値の随伴性と自己開示抵抗感との関連
本 文 概 要
【問題と目的】
クライエントの自己開示は,カウンセリングを成立させる条件の一つであるが,否定的内容の自己開
示には抵抗感が伴うことが示されている。よって,適切に自己開示を促すためには,自己開示抵抗感に
ついて理解を深めることが必要である。自己開示抵抗感は,パーソナリティと深く結びついていること
が指摘されており,その一つとして自尊感情が挙げられる。自尊感情について,適応的な側面と不適応
的な側面を弁別して測定するべきだという指摘がある(Kernis,2003)
。適応的な自尊感情としては本
来感が挙げられ,不適応的な自尊感情としては自己価値の随伴性が挙げられる。このことから,本研究
では,本来感と自己価値の随伴性を個人のパーソナリティ要因として取り扱い,これらが自己開示抵抗
感に及ぼす影響について,明らかにすることを目的とした。
【方法】
調査対象大学生 472 名 調査時期 2014 年 7 月から 10 月 質問紙の構成①フェイスシート(年齢・学
年・性別) 場面想定法を用いた質問②開示対象(“最も親しい人”と“まだゆっくり話をしたことのない知
り合い”について一人を想定してもらい,対象者から見た属性のみ尋ねた)③開示対象ごとの自己開示抵
抗感(片山,1996)(1 項目) ④開示対象ごとの開示抵抗感尺度(松下,2005)(15 項目) 普段の自分につい
ての質問⑤日本版自己価値随伴性尺度(内田,2008)(35 項目)⑥本来感尺度(伊藤・児玉,2005)(7 項目)
⑦自由記述:感想。倫理事項本研究への協力は自由意思であり,回答を拒否する権利があること,得ら
れたデータは研究目的以外には使用しないことを協力者に説明し,同意を得て実施した。
【結果と考察】
①本来感と自己価値の随伴性,自己開示抵抗感との関連について尺度間相関を算出して検討した結果,
本来感は自己開示抵抗感と負の相関,自己価値の随伴性下位尺度は自己開示抵抗感と正の相関を示した。
②本来感の高低によって開示抵抗感に差があるのかを検討するために,t 検定を行った結果,親しい人
及び知り合い対する自己開示抵抗感のほとんどの下位因子について,本来感高群よりも低群の方が有意
に高い得点を示した。このことから,開示対象が親しい人であっても,自己開示抵抗感を抱きやすいこ
とが分かった。③自己価値随伴性の高低によって開示抵抗感に差があるのかを検討するために,t 検定
を行った結果,親しい人及び知り合いに対する自己開示抵抗感の全ての下位因子において,自己価値随
伴性低群よりも高群の方が有意に高い得点を示した。このことから,自分の価値を外的基準に置く人は,
自己開示抵抗感を抱きやすいと考えられる。④本来感と自己価値の随伴性の各下位尺度を高低の 2 群に
分類し,これらを独立変数とした多変量分散分析を行った。その結果,本来感と競争性,本来感と外見
的魅力の多変量分散分析において,有意な交互作用がみられた。このことから,本来感が低い人の中で
も,特に競争に勝つことや外見に自分の価値を置く人が自己開示抵抗感を抱きやすいということが明ら
かになった。自分の価値を特定の領域に重みづける人は,外的な基準に影響を受けやすいため,固執し
ている領域に対する認知の変容を促し,またその領域について開示対象者が認めることで,本来感が高
まり,自己開示に対する抵抗感が軽減されることが考えられる。
【引用文献】
片山美由紀(1996)
.否定的内容の自己開示への抵抗感と自尊心の関連 心理学研究,67,5,351-358.