平塚中等教育学校 vol.127 校長室の窓から 2015年(平成27年)9月28日 文字のよみかたのできなかたときは まいにち かべにむかて にらめこしていました こころがさみし くてしかたなかた (大沢 俊郎著『生きなおす、ことば ~書くことのちから-横浜寿町から~』 (太郎次郎社エディタス)より) ( ) 本校は、今、第3回定期試験の真っ最中だ。前期・ 後期の2期制だが、学習内容の確実な定着を目指し て、定期試験を年に5回実施している。 世間では9月の大型連休を“シルバーウィーク” (ゴールデン、シルバーとあれば、ブロンズはあ り?)と言っているが、定期試験はその連休明けの ①9月24日(木)から④29日(火)までの4日間だ。 定期試験3回目なので、1年生もそろそろ慣れたは ずだ。1年生の試験科目は、①数学、音楽、美術、 ②英語、保健体育、③社会、技術・家庭、④国語、 理科、という具合だ。ちなみに、6年次生になると 科目選択だが、①物理、生物、古典講読、数学精講 A、数学精講B、数学精講C、②日本史精講、地理探 究、倫理、英語表現、③現代文、現代文精講、化学 精講、政治・経済、④物理精講、生物精講、世界史 精講、古典探究、英語精講、と科目名称も1年生と 比べると何だか専門的な響きがする。 順調にいかないと、何でこんなにテストがあるん だ、勉強なんか大嫌い、と嘆く諸君もいるかも知れ ない。 人は苦しい時に、世の中で自分が一番不幸な人間 だ、と思ってしまうことがある。だが、自分よりも っともっと大変な境遇にいる人たちがいることに気 がつくと、自分の甘ったれに辿り着く。 この大型連休中に、太宰の次に、 「識字」と「夜間 中学」に少し向き合った。 「壁にむかってにらめこし ていました(寿識字学校からの報告) 」(横浜市政策 局「調査季報」71号(1981.9) 特集・共生の時代 生きる権利を求めて)から一部抜粋する。 識字とは、文字通り<字を識る>ということで、 文字を読んだり書いたりできない人が、それができ るようになることであり、自分のものとすることで ある。さまざまな理由で、文字の読み書きができな いまま成人した人たちが、身をきりきざむような想 いのなかから、文字を自分のものとするたたかいに 向かっていく勉強が識字である。 (中略)文字の読み 書きができないということは、ものの見方や考え方 という意識の世界もズタズタにきりけずり一人の人 間の生きていく<場>そのものも強く決定してしま うということである。つまり、現象としての文字の 読み書きができるのかできないのかという問題では なく、一人の人間の生そのものを、生き方そのもの を決定してしまうということである。■ 著者の大沢俊郎さんは、横浜寿町で十分な学校教 育を受けることのできなかった人たちと“人間の学 び”を34歳で始め、それ以降、寿識字学校を運営し、 識字実践活動を行っている方だ。文字を読み書きで きないことが、どれほど苦しいことかを、前文に揚 げた著書で読み取ることができる。 ・・・識字を学んだ長岡さんという方が、識字を 始めた頃、精一杯の叫び声とも思える、ひとこと、 の文章を書いたが、それが前文にある「文字のよみ かたのできなかたときは・・・」である。長岡さん にとって、文字の読み書きのできないことは、壁に 向かってにらめっこをしている毎日の生活だったと いうのだ。毎日の仕事をしながら、でもこころは、 どこへも動きようのない「壁」に囲まれ続けていた のかと思った。これが寿町で出会った、識字の最初 の衝撃のことばだったと綴っている。■ 寿識字学校は、国が認めている学校ではないが、 「夜間中学」という国が認めている公立学校が全国 に31校ある。元夜間中学生の髙野雅夫さん(75歳) の朝日デジタルの記事が目に留まっていた。 「17歳のころ、初めて自分の名前が書けた。移り 住んでいた東京の山谷でバタ屋のおじいさんが、拾 った辞書で『髙野雅夫』って教えてくれた。辞書が 古かったから『高』ではなく『髙』の方。 『高野』と 書かれると自分ではない気がする。初めて自分の名 前が書けたとき、心臓がドキドキして、手が震えた。 もっと字が書けるようになりたくて21歳で東京の 夜間中学に入った。生まれて初めて、日本には憲法 があって、第25条には生きる権利が、第26条には 学ぶ権利が書いてあることを知った。」 (平成27年5 月10日・朝日デジタル「学ぶことは誇りの奪回」髙 野雅夫さん(夜間中学卒業後、各地で夜間中学の廃 止運動と増設運動に取り組む)より一部抜粋) 昨年ノーベル平和賞のマララさん(18歳) 。 「世界 は兵器にお金を費やしすぎています。もし世界の指 導者が、軍に費やす総額のわずか8日分だけでも支 出をやめさえすれば、世界中のあらゆるこどもたち を対象とした12年間にわたる教育(初中等教育)へ の支出が1年間可能になります。」(9月25日朝日) 平塚中等 校長 鈴木 靖 神奈川県立平塚中等教育学校 TEL 0463 (34) 0320 FAX 0463 (34) 3866 〒254-0074 平塚市大原1番13号 URL http://www.hiratsuka-chuto-ss.pen-kanagawa.ed.jp/
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