ビタミンK拮抗薬投与患者における頭蓋内出血

 2015年12月5~8日,米国・オーランド
リバーロキサバン,ダビガトラン,ビタミンK拮抗薬投与患者における頭蓋内出血:
Dresden NOAC registry
2015.12.14
実臨床下においてもNOACの頭蓋内出血リスクは低く,ビタミンK拮抗薬で安定している患
者に対しても,NOACを選択肢として考慮すべき-12月5日,米国血液学会学術集会(ASH
2015)にて,Sandra Marten氏(University Hospital Carl Gustav Carus Dresden, Center for
Vascular Medicine,ドイツ)が発表した。
●背景・目的
抗凝固療法のもっとも恐ろしい合併症は,頭蓋内出血である。非ビタミンK拮抗経口抗凝
固薬(NOAC)の第III相試験では,ビタミンK拮抗薬投与患者における発現率は約0.8%/年
に対し,NOACでは約0.3~0.5%/年と低くなっている。ただし,臨床試験の登録患者は,治
験を実施するための基準を満たした施設において,厳格なプロトコールのもとに治療が行
われた患者集団である。したがって,実臨床下でNOACまたはビタミンK拮抗薬を投与され
Sandra Marten氏
ている患者において,頭蓋内出血のリスクや管理,転帰の実態を評価する必要がある。
本研究では,NOAC投与患者における頭蓋内出血発現率について,ビタミンK拮抗薬投与患者と比較した。
●方法
Dresden NOAC registryは,2011年11月に開始された前向き登録研究である。ドイツ・ザクセン州の230名を超える医師の
ネットワークにより前向きに最大3,000例の登録を目標とし,中央委員会が60ヵ月間の転帰を裁定した。 本解析では,すべ
ての頭蓋内出血発現例をデータベースより同定し,その管理および転帰を評価した。
●結果
1. 患者背景
2015年10月31日までに,2,826例を登録した。薬剤別の内訳は,ダビガトラン群348例(大部分は心房細動患者),リバーロ
キサバン群2,051例(心房細動患者1,204例+静脈血栓塞栓症患者825例など),ビタミンK拮抗薬群427例(心房細動患
者)。 ビタミンK拮抗薬群は,NOAC群に比べHAS-BLEDスコアが低く,PT-INR治療域内時間(TTR)は75%と,良好に管理
されていた。
2. 頭蓋内出血発現率
平均追跡期間27.8ヵ月において,頭蓋内出血は23例に発現した(硬膜下血腫35%,多発性出血26%,くも膜下出血22%,
実質内出血17%)。薬剤別では,NOAC群16/2,399例(0.7%,0.4件/100患者・年,95%CI 0.2-0.6)で,ビタミンK拮抗薬群
7/427例(1.6%,1.3 件/100患者・年,95%CI 0.5-2.7)に比べ抑制された(p=0.0020)。NOAC群の内訳は,ダビガトラン群2
例(0.4件/100患者・年),リバーロキサバン群14例(0.34件/100患者・年)。 NOAC群における頭蓋内出血の原因は,自然
発生7例,外傷性9例,ビタミンK拮抗薬群ではそれぞれ2例,5例であった。
3. 頭蓋内出血に対する治療
頭蓋内出血発現例に対し,プロトロンビン複合体製剤(PCC)はダビガトラン群0例,リバーロキサバン群5例(35.7%),ビタ
ミンK拮抗薬群5例(71.4%),新鮮凍結血漿(FFP)はそれぞれ0例,2例(14.3%),1例(14.3%),その他の止血剤は0例,2
例(14.3%),4例(57.1%)に投与された。止血剤非投与はそれぞれ2例(100%),11例(78.4%),2例(28.6%)であった。外
科的もしくは介入的治療は1例(50%),4例(28.6%),3例(42.9%)に行われた。
4. 頭蓋内出血発現後の転帰
頭蓋内出血発現後の抗凝固療法は,一時中断がNOAC群8例,ビタミンK拮抗薬群1例,恒久的中止がそれぞれ7例,4例
であった。
頭蓋内出血発現後90日以内にNOAC群5例(29.4%),ビタミンK拮抗薬群2例(28.6%)が死亡した。生存者16例に対するそ
の後の抗血栓療法はリバーロキサバン6例(37.5%),ヘパリン4例(25%),アピキサバン1例(6.3%),ビタミンK拮抗薬1例
(6.3%),アスピリン3例(18.8%)。1例(6.3%)には何も投与されなかった。
●結論
本研究では,ビタミンK拮抗薬群における頭蓋内出血発現率は第III相試験の結果より高く,またNOAC群に比べても有意に
高かった。NOACは実臨床下においても頭蓋内出血の発現率は低く,PT-INRが良好に管理されているビタミンK拮抗薬投
与患者に比べても頭蓋内出血リスクを抑制することが示唆された。したがって,ビタミンK拮抗薬で安定している患者に対し
ても,NOACを選択肢として考慮すべきである。
Marten S, et al. Pattern and Management of Intracranial Haemorrhage with Rivaroxaban or Dabigatran Compared to
Vitamin K Antagonists - Results of the Prospective Dresden Noac Registry.
抗血栓療法トライアルデータベース