4剤目の 新規経口抗凝固薬 (NOAC) その選択ポイント 重症,再発例が多い非弁膜症性心房細動(NVAF)に伴う心原性脳塞栓症の予防には長年ワルファリンによる抗凝固療法が行われてきた。しかし,ワル ファリンにはさまざまな問題があるため,それらを解決するために 2011~13 年に新規経口抗凝固薬(NOAC)が 3 剤登場し,そして 4 剤目が認可された。 熊本市民病院首席診療部長・神経内科部長の橋本洋一郎氏は「複数の中から患者に合った NOAC を選択できる時代となったが,それぞれの薬剤の特徴 や投与の基準などを熟知しておく必要がある」と述べている。 ワルファリンの問題を解決 ワルファリンは,肝臓でビタミンK依存性血液凝固因子(第Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子)の産生を阻害し,凝固を抑制する強力な経口抗凝固薬で,用量調節が可 能なためテーラーメイドの治療ができるという利点がある。 しかし,①治療域が狭く定期的なプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)測定(凝固モニタリング)や頻繁な用量調節が必要②PT-INR が不安定な症例 が存在③薬剤抵抗性のある症例が存在(ワルファリンレジスタンス)④抗凝固作用のあるプロテイン C や S の産生阻害(ワルファリンジレンマ)⑤相互作用 を示す薬剤が多い⑥ビタミン K 含有の多い食物(納豆,クロレラ,青汁,モロヘイヤなど)の摂取制限が必要⑦半減期が長く効果発現・消失が遅い⑧頭蓋 内出血や消化管出血などの重篤な出血合併症が起こる⑨皮膚壊死,肝障害,黄疸,過敏性蕁麻疹,皮膚炎,発熱,悪心・嘔吐,下痢,皮膚脱毛などの 副作用の可能性⑩妊娠初期には催奇形性があり使用できない⑪治療域に入っていても脳梗塞が発症し,出血合併庄は増加する―など多くの問題点が 存在する。 これらワルファリンの問題を解決するため,食品の影響を受けず,薬物相互作用が少なく,定期的なモニタリングがいらない NOAC として,2011 年にダビ ガトラン,2012 年にリバーロキサバン,2013 年にアピキサバン,そして 2014 年にエドキサバンが 4 剤目として登場した。 1 日 1 回または 2 回内服 NOAC の適応は「NVAF 患者における虚血性脳卒中および全身性塞栓症の発症抑制」であり,NVAF とは「人工弁置換(機械弁,生体弁とも)とリウマチ 性僧帽弁膜症(主に狭窄症)を有さない心房細動」と定義されている。 NOAC の特徴としては,ダビガトランの標的因子がトロンビン(第Ⅱa 因子)であるのに対し,リバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバンは第Ⅹa 因子 が標的因子であり,半減期,最高血中濃度到達時間,生物学的利用率,蛋白結合率などもそれぞれ異なっている。内服回数は,ダビガトランとアピキサ バンが 1 日 2 回,リバーロキサバンとエドキサバンは 1 日 1 回となっている。 各薬剤で異なる禁忌,慎重投与 禁忌はワルファリンでは重篤な肝障害・腎障害のある患者だが,NOAC は腎機能障害でも Cockcroft & Gault の式により算出したクレアチニンクリアラン ス(CLcr)が,ダビガトランでは 30mL/分未満,リバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバンでは 15mL/分未満となっている(表 1)。 なおエドキサバンは下肢整形外科手術施行患者における静脈血栓塞栓症の発症抑制の適応では,高度の腎機能障害(CLcr 30mL/分未満)のある患 者は禁忌であり,疾患によって腎機能障害の程度が違うことには注意が必要である。 肝機能障害に関しては,リバーロキサバンは凝固異常を伴う肝疾患,中等度以上の肝機能障害(Child-Pugh 分類 B または C 相当)が,アピキサバンは 血液凝固異常および臨床的に重要な出血リスクを有する肝疾患が,エドキサバンでは凝血異常を伴う肝疾患の患者が禁忌となっている。 併用禁忌薬剤は,ダビガトランではイト ラコナゾール(経口薬投与中),リバーロ キサバンではアゾール系抗真菌薬(フル コナゾールを除くイトラコナゾール,ボリ コナゾール,ケトコナゾールなど投与中) と HIV プロテアーゼ阻害薬(リトナビル, アタザナビル,インジナビルなど投与中) となっている。それに対し,アピキサバン とエドキサバンには併用禁忌薬は存在し ない。 その他,ダビガトランでは 6 カ月以内の 出血性脳卒中,脊椎・硬膜外カテーテル 留置もしくは抜去後 1 時間以内は禁忌と なっている。リバーロキサバンとエドキサ バンは急性細菌性心内膜炎の患者,ま たリバーロキサバンは妊婦または妊娠し ている可能性のある女性が禁忌となっている。 慎重投与については,腎機能障害として,ダビガトランでは CLcr 30~50mL/分未満,リバーロキサバンでは同 15~49mL/分,アピキサバンでは同 15~ 50mL/分,エドキサバンは腎機能障害のある患者が指摘されている(表 2)。肝機能障害についてはアピキサバンでは重度の肝障害を有する患者,エドキ サバンでは高度の肝障害のある患者。併用薬剤としてはダビガトランでは P-糖蛋白阻害薬(ベラパミル,アミオダロン,キニジン,タクロリムス,シクロスポ リン,リトナビル,ネルフィナビル,サキナビル)が慎重投与とされる。 ダビガトランでは消化管出血の既往を有する患者,上部消化管出血の潰瘍を有する患者,出血リスクが高い患者は慎重投与とされる。また,リバーロキ サバンとアピキサバンでは出血リスクが高い患者と 低体重の患者,エドキサバンでは出血する可能性 の高い患者と体重 40kg 未満の患者が慎重投与とさ れている。全ての NOAC は,高齢者(65 歳以上)は 慎重投与となっている。 薬物相互作用に関連して減量を考慮,併用を注意 薬物相互作用に関連して,NOAC の減量を考慮する 薬剤と併用を注意する薬剤,減量の基準も示されて いる(表 3,4)。ダビガトランでは 110mg×2 回への減 量を考慮する薬剤としてベラパミル,アミオダロン, キニジン,タクロリムス,シクロスポリン,リトナビル, ネルフィナビル,サキナビルが,併用を注意する薬 剤としてクラリスロマイシンが挙げられている。リバ ーロキサバンでは 10mg への減量を考慮する薬剤と してフルコナゾール,クラリスロマイシン,エリスロマ イシンが挙げられている。アピキサバンでは 2.5mg ×2 回への減量を考慮する薬剤としてアゾール系抗 真菌薬(フルコナゾール,イトラコナゾール,ボリコナ ゾール,ケトコナゾール,ただしフルコナゾールを除 く),HIV プロテアーゼ阻害薬(リトナビルなど)が挙 げられている。エドキサバンでは 30mg に減量する薬 剤として,キニジン,ベラパミル,エリスロマイシン, イトラコナゾールを,30mg への減量を考慮する薬剤 としてアジスロマイシン,クラリスロマイシン,イトラコ ナゾール,ジルチアゼム,アミオダロン,HIV プロテ アーゼ阻害薬(リトナビルなど)が挙げられる。 通常投与および減量の基準は添付文書によると,ダビガトランでは,通常,成人には 1 回 150mg(75mg カプセルを 2 カプセル)1 日 2 回経口投与し,必 要に応じて,1 回 110mg(110mg カプセルを 1 カプセル)1 日 2 回投与へ減量する。リバーロキサバンでは,通常,成人には 15mg を 1 日 1 回食後に経口投 与し,腎障害のある患者に対しては,腎機能の程度に応じて(CLcr 15~49mL/分未満の場合)10mg 1 日 1 回に減量するとされている。アピキサバンでは, 通常,成人には 1 回 5mg を 1 日 2 回経口投与するが,年齢,体重,腎機能(①80 歳以上②体重 60kg 未満③血清クレアチニン 1.5mg/dL−の 3 項目中 2 項目以上該当)に応じて 1 回 2.5mg 1 日 2 回投与へ減量するとされている。エドキサバンを減量する基準には①体重 60kg 以下②CLcr 50mL/分未満③P糖蛋白阻害薬(キニジン,ベラパミル,エリスロマイシン,シクロスポリン)の併用−の 3 項目中 1 項目以上があるときとされている。 減量を考慮する基準としては,ダビガトランでは中等度の腎機能障害(CLcr 30〜50mL/分)のある患者,P-糖蛋白阻害薬(経口薬ベラパミル,アミオダ ロン,キニジン,タクロリムス,シクロスポリン,リトナビル,ネルフィナビル,サキナビル)を併用している患者,出血リスクが高いと判断される患者(70 歳以 上の高齢者,消化管出血の既往を有する患者)が挙げられている。 リバーロキサバンの減量を考慮する基準は併用薬剤がフルコナゾール,クラリスロマイシン,エリスロマイシンの場合,75 歳以上かつ体重 50kg 以下の場 合とされている。アピキサバンの減量を考慮する基準は併用薬剤がアゾール系抗真菌薬(フルコナゾール,イトラコナゾール,ボリコナゾール,ケトコナゾ ール,ただしフルコナゾールを除く),HIV プロテアーゼ阻害薬(リトナビルなど)の場合とされている。エドキサバンの減量を考慮する基準としては P-糖蛋 白阻害薬(経口薬アジスロマイシン,クラリスロマイシン,イトラコナゾール,ジルチアゼム,アミオダロン,HIV プロテアーゼ阻害薬)を併用している患者が 挙げられている。 橋本氏は「以上のように NOAC の大規模臨床試験のデータや使用経験に基づき,複数の NOAC の中から選択できる時代となったが,各 NOAC にはそ れぞれ利点と欠点があり,それらの特徴や投与の基準などを熟知しておく必要がある」と注意を喚起している。
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