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2016 年 2 月
No.86
薬剤部医薬品情報室発行
新規経口抗凝固薬①
(NOAC, novel oral anticoagulants)
~基本情報と各薬剤について~
はじめに
NOAC(ノアック)と呼ばれる新規経口抗凝固薬をご存知でしょうか?日本ではプラザキサ、リクシアナ、
イグザレルト、エリキュースの 4 品目発売されており、院内ではプラザキサカプセル 75mg とリクシアナ錠
30mg が採用となっています。効能・効果は薬剤によって異なりますが、共通として「非弁膜症性心房細動患
者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制」があります。
(表 1)
心房細動は最も多くみられる不整脈であり、2005 年には定期健診でみつかった患者さんだけでも約 70 万人
いたと考えられています。生活習慣の欧米化に伴い、2030 年ごろには 100 万人を突破するといわれています。
心房細動は心臓の「心房」と呼ばれる部屋が小刻みに震え規則正しい収縮が出来なくなった状態をいい、それ
により心房内の血流が乱れ血栓ができやくすなります。血栓が血流にのって脳に運ばれ脳の血管を詰まらせる
と、脳梗塞(心原性脳梗塞症)を引き起こします。治療法としては、血栓ができないようにする薬(抗凝固薬)
や抗不整脈薬の服用、カテーテルアブレーションや心臓ペースメーカーによる治療があります。抗凝固療法は
基本ワルファリンの服用となりますが、それに替わり得る薬剤として出てきたのが、今回ご紹介する NOAC
と呼ばれる新規経口抗凝固薬です。
表 1 NOAC 比較表(下線部院内採用薬)
分類
トロンビン
第 Xa 因子阻害薬
直接阻害薬
薬価収載年月
2011.3
2011.7
2012.4
2013.2
商品名
プラザキサ
リクシアナ
イグザレルト
エリキュース
エドキサバン
リバーロキサバン
アピキサバン
75 / 110
15/ 30 /60
10 / 15
2.5 / 5
●
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一般名
規格(mg)
ダビガトラン
エテキシラート
非弁膜症性心房細動患者に
おける虚血性脳卒中及び全
効
身性塞栓症の発症抑制
能
深部静脈血栓症及び肺血栓
・
塞栓症の治療及び再発抑制
効
膝関節全置換術、股関節全
果
置換術、股関節骨折手術施
行患者における静脈血栓塞
●
栓症の発症抑制
2016 年 2 月現在
NOAC とは
NOAC とは、novel (new) oral anticoagulants もしくは non-vitamin K antagonist oral anticoagulants の
略で、日本では 2011 年から順次発売されている新規経口抗凝固薬のことです。最近は DOAC (direct oral
anticoagulants) とも呼ばれます。ワルファリンの作用機序とは異なり、直接トロンビンや第Ⅹa 因子を阻害
することにより効果を発揮します(図 1)。
Ⅶ
組織因子/Ⅶa
ワルファリン
Ⅸ
Ⅹ
Ⅸa
Ⅶa
第 Xa 因子阻害薬
リクシアナ
イグザレルト
エリキュース
Ⅹa/Ⅴa
プロトロンビン
直接トロンビン阻害薬
プラザキサ
トロンビン
フィブリノーゲン
図 1 抗凝固薬の作用点
フィブリン
月刊薬事 2015.7(Vol.57 No.7)を一部改変引用
各薬剤とも大規模臨床試験においてワルファリンと比較され、有効性及び安全性が証明されており、ガイド
ラインでも非弁膜症性心房細動患者に対する抗凝固療法の選択肢として推奨されています。ちなみに NOAC
間で有効性・安全性を直接比較した文献は今のところありません(メタ解析による間接比較は有り)。
各薬剤に関して(詳細は添付文書を参照)
共通事項として、透析患者を含む高度腎障害患者は 4 剤全て禁忌となっていますのでご注意ください(Ccr
値は各添付文書参照)。
1) プラザキサ(ダビガトラン)
・2011 年 8 月に安全性速報(ブルーレター)「重篤な出血について」が発出された。
・併用禁忌、併用注意に P 糖蛋白阻害剤がある。
・中等度の腎障害のある患者、P 糖蛋白阻害剤を併用している患者、70 歳以上の患者、消化管出血の既
往を有する患者は減量対象である。
・2015 年米国 FDA 及び欧州連合にて中和剤 Praxbind® (idarucizumab) が承認された。(日本未承認)
2) リクシアナ(エドキサバン)
・“非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制”及び“静脈血栓塞栓症
(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制”では、P 糖蛋白阻害剤の併用や体重 60kg
以下の患者は減量対象である。また、効能・効果にかかわらず腎機能によっても減量が必要である。
・併用禁忌薬剤無し。
3) イグザレルト(リバーロキサバン)
・CYP 3A4 などにより代謝され P 糖蛋白の基質であるため、併用禁忌に CYP3A4 や P 糖蛋白を阻害す
る薬剤がある。
・中等度以上の肝障害(Child-Pugh 分類 B 又は C に相当)のある患者は禁忌である。
・腎機能により減量が必要である。
4) エリキュース(アピキサバン)
・80 歳以上、体重 60kg 以下、血清クレアチニン 1.5mg/dL 以上、のうち 2 つ以上に該当する患者は減量
対象である。
・併用禁忌薬剤無し。
★ 次回は NOAC の各効能・効果における用法・用量と術前の休薬方法に関してご紹介したいと思います。