学会レポート

A t r i a l F i b r i l l a t i o n a n d S t ro k e
学会レポート
心房細動 と脳梗塞
抗凝固療法の最前線
Congress Reports
JHRS/JSE 2014
第29回日本不整脈学会学術大会・第31回日本心電学会学術集会合同学術大会 2014年7月22日∼25日 東京
海外ではNOACに対する中和薬の第III相試験が進行中
大分大学医学部 循環器内科・臨床検査診断学講座 教授
髙橋 尚彦 氏
N OACは、その 作用を急 速に失活させる中和 薬がないことが 臨 床 現 場で課 題とされてきた。7月22日から25日まで
東京で開催された第29回日本不整脈学会学術大会・第31回日本心電学会学術集会合同学術大会において、大分大学医学部
循環器内科・臨床検査診断学講座教授の髙橋尚彦氏は、海外を中心としたNOACに対する中和薬の開発状況を解説した。
非弁膜症性心房細動患者に対する心原性脳塞栓症の発症予防としてNOACの有用性は広く認知されてきているが、ワルファリンにおけるビタミンKに
相当するような中和薬がないことが以前から議 論となってきた。NOAC 投与中に、頭 蓋内出血などの出血性合併 症が発 現した場 合や緊急の手 術
あるいは処置を要する場合、NOACの抗凝固作用を速やかに消失させる必要性があることから現在、中和薬の開発が進行している。
海外では、直接トロンビン阻害剤であるダビガトランの中和薬として、ヒト化モノクローナル抗体フラグメントであるIdarucizumabの第III相試験が
進行中である。Idarucizumabは、トロンビンよりも特異的かつ300倍以上強力にダビガトランに結合することで、ダビガトランの抗凝固作用を中和
する(図1)。ラットを用いた検討では、ダビガトラン投与 後のトロンビン時間や活性化部分トロンボプラスチン時間(aPT T)の延長が、中和薬の
追加投与によりコントロール群と同程度にまで抑制されることが確認されている(図2)。
また、健常成人を対象とした第I相試験においてIdarucizumabは、ダビガトランの抗凝固活性を迅速かつ完全に中和し、その効果は48時間にわたり
持続することが確認された。臨床上問題となる有害事象の発現も認められなかったことから、現在は35カ国500施設以上によるREVERSE-AD試験
が進行中である。日本では、健常成人を対象とした第I相試験が2014年1月から行われている。
一方、リバーロキサバンやアピキサバンなどの第Xa因子阻害剤の中和薬として研究が進められているPRT064445は、第Xa因子と類似した構造を
有するが、抗凝固活性はないため、第Xa因子の替わりに第Xa因子阻害剤と結合することにより、抗凝固作用を中和する。PRT064445は、健常成人
を対 象とした海 外第II相試 験において、第Xa因子阻害剤の抗 凝固活性を急 速に中和すること、持続点 滴により中和効果が維 持されることが 確認
されており、現在、第III相試験が行われている。
いずれの中和薬も、米国食品医薬品局(FDA)から画期的治療薬の指定を受けており、今後の開発の進展が期待される。髙橋氏は最後に、「抗凝固
作用を中和すれば、当然、血栓塞 栓症のリスクが増大する。中和薬はNOACによる出血性合併症への対処法の一つとして重要であるが、医師には
患者の症状に応じた適切な対応が求められる」と結んだ。