有酸素運動のトレーニング量による肝臓脂肪と内臓脂肪の減量の差 Effect of aerobic exercise training dose on liver fat and visceral adiposity J Hepatol 2015; 63; 174-182 5 研究の背景と目的 10 脂肪の蓄積量だけでなく、脂肪組織の体内分布も、肥満症における心血管合併 症や代謝異常の独立した予測因子であることが、今では判っている。例えば、内臓 脂肪組織の量が多いと、高血圧、心筋梗塞、及びインスリン抵抗性の発症が増加す る。同様に、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)に見られるような過剰な肝臓への 脂肪沈着も、心血管疾患の独立した危険因子であり、合併症を予防する上で肝臓 脂肪の減量が有効となる。 異所性に蓄積した過剰な脂肪を減らす特別な薬剤は限られているため、生活様式 15 を是正が治療研究の焦点となっている。食事と運動によって減量すれば、内臓脂肪と 20 肝臓脂肪も減少するが、肝機能の改善には一般に体重の 3%以上の減量が必要で ある。そしてより減量が大きいと(5〜10%)、効果も大きくなる。しかし、この水準で体 重減少を維持することはかなり困難である。成人の 1/3 に NAFLD が認められる現状 を考えると、過度の減量に依存しないライフスタイルの改善(例えば、適度な運動な ど)が有効かどうかを調査することは、非常に価値があると考えられる。 脂肪組織量の測定 1 脂肪量の測定において、今現在最も正確かつ非侵襲的なアプローチである H-MRS を用いた。 25 運動療法の方法 30 35 心拍数、RPE#1および血圧を持続モニタ-しながら、すべてのトレーニングを認定 運動療法士が監修した。試験群の参加者には研究の目的は伏せた。コントロール 群の参加者には、ストレッチング/マッサージ/ボール体操によって炎症と腹部の脂肪 を減らすことが目的である、と説明した。 <試験群>(有酸素運動トレーニング群) 1.高強度:低容量のトレーニング群、HI:LO 群 HI:LO 群の参加者は、VO2peak 60〜70%の強度でエルゴメータを使った連続サ イクリングを週に 2 日間行った。そして週に 1 日、自宅で同じ強度の早足の歩行を実 行し、記録した。トレーニングの強さは、第 1 週目の VO2peak 50%、30 分間から、第 #1主観的な運動強度の評価、ratings of perceived exertion 1 3 週目には VO2peak 70%、45 分に進めた。運動量は 1 週間に合計 90-135 分とし た。 5 10 2.低-中強度:高容量のトレーニング群、LO:HI 群 LO:HI 群の参加者は、VO2peak 50%の強度でエルゴメータによる連続サイクリン グを週に 3 日間行った。そして週に 1 日、自宅で同じ強度の早足の歩行を実行し、 記録した。トレーニングは、第 1 週目の 45 分間から、第 3 週目には 60 分に進めた。 運動量は 1 週間に合計 180-240 分とした。 3.低-中強度:低容量のトレーニング群、LO:LO 群 LO:LO 群の参加者は、VO2peak 50%の強度でエルゴメータによる連続サイクリン グを週に2日間行った。そして週に 1 日、自宅で同じ強度の早足の歩行を実行し、記 録した。トレーニングは、第 1 週目の 30 分間から、第 3 週目には 45 分に進めた。 運動量は 1 週間に合計 90-135 分とした。 15 20 <コントロール群> コントロール群の参加者は、自宅での運動と併せて週 3 日間、運動を行った。スト レッチ、セルフマッサージ、ボール体操を指示した。参加者はエルゴメーターに慣れ るように、非常に弱い強度(30W)で 5 分自転車運動を行い、隔週毎に新しい運動を 指導した。コンプライアンスを確実にするため、運動をログブックに記録した。コント ロール群の運動指示は、心血管や代謝疾患は改善できないが、ライフスタイル改善 に注意が向くような設計にした。 有酸素運動 肝脂肪 18-29% 内臓脂肪 7-11% コントロール群 肝脂肪 14% 内臓脂肪 3% 2 結果 HI:LO LO:HI LO:LO 内臓脂肪量の変化( 肝臓脂肪量の変化(%) コントロール コントロール HI:LO LO:HI LO:LO ) 3 10 m c 5 48 名の参加者(各群 n=12)のうち、47 名が試験を完了し、重篤な有害事象はなか った。 各群 x 時間による、肝臓脂肪の変化には有意な差が見られた。すなわち、肝臓脂 肪は HI:LO 群は 2.38±0.73%減少、LO:HI 群は 2.62±1.00%減少、 LO:LO 群は 0.84±0.47%減少であったが、コントロール群は 1.10±0.62%増加した(P=0.04)。 内臓脂肪は HI:LO 群が-258.38±87.78cm3 減少、LO:HI 群が-386.8±119.5 cm3 減少、LO:LO 群は-212.96±105.54 cm3 減少したのに対して、コントロール群は 92.64±83.46 cm3 増加した(P=0.03)。 試験群間で、運動の量や強度と、肝臓脂肪や内臓脂肪の減少量に有意差はなか った(P>0.05)。 コントロール 肝臓脂肪と内臓脂肪に与える 8 週間の運動療法の効果 参加者は 8 週間の有酸素運動を行った。コントロール群、高強度・低容量(HI:LO 群)、低〜中強度・ 高容量(LO:HI 群)、および低〜中強度・低容量(LO:LO 群)に分けた。 この結果、(A)肝臓脂 肪、(B)内臓脂肪組に、有意な変化が観察された。円は個々のベースラインからの変化の割合、水平 のバーはグループ平均のベースラインからの変化の割合を示す。*は有意差があることを示す(P<0.05)。 3 考察 5 10 15 20 25 30 今回の試験で、体重が有意に減少していないにも関わらず、肝臓脂肪や内臓脂肪 の減少効果が観察され、ライフスタイルの改善により肝臓脂肪と内臓脂肪の両方を 減らすことができることが確認できた。ただ、臨床的に効果が現れるには、内臓脂肪 は 10〜40%減少することが望ましい。また肝臓の組織学的改善が得られるには(例 えば NAS スコアの 65%の改善、かつ 9%以上の減量)、5〜15%の体重減少が望ま れる。こうした効果が持続するためには、体重減少を維持する必要があり、ライフスタ イルの改善だけでは現実的には難しい目標である。その一方で、運動トレーニングに より、体重が減少していない状態でも、肝臓脂肪や内臓脂肪を減らせることが示され た。 有酸素運動により肝臓脂肪が減少することが、今回の研究で実証された。この効 果は、運動量より強度を重視するプログラムでも、逆に、強度より量を重視するプログ ラムでも、どちらでも達成できる可能性が示された。最小の運動、すなわち LO:LO で も肝臓脂肪を減少させることができた。 運動のプログラムは、合併症、運動の好みや、運動を行う際の障害、例えば落下 の恐怖や時間の制約などを考慮して計画した。運動プログラムの遵守が困難な高リ スク集団には、最小限の運動(すなわち LO:LO)でも、体調の管理、体組成や肝臓の 改善効果が期待できる。 今回の研究結果や、これまでの知見に基づいて、NAFLD 患者や予備軍に次の事 項を推奨する。 1.定期的な運動は、NAFLD のリスクを低減するのに有益である。 2.有酸素運動と抵抗運動の両方が、体重が減少しなくても、NAFLD 患者における 肝臓脂肪の減少に有効である。 3.運動単独では、体重が減少しない場合に NASH が改善するかどうかは判ってい ない。 4.現時点では、運動とカロリー制限の両方によって体重を減少させる(約 5〜10%の 体重減少)ライフスタイルの改善が、NASH を改善させるために必要と考えられる。 5.専門家の意見では、NASH の肝組織学的異常を改善させるには、より厳格な運動 療法と食事療法が必要とされる。 6.最小有効量といえる運動強度はまだ判っていないが、今回の研究によると、低強 度と低容量の運動も有益であると思われる。何もしないよりは、した方が良い、という ことである。 4
© Copyright 2024 ExpyDoc