健康長寿の鍵:ロコモティブシンドローム 超高齢社会では、“長寿”ではなく、“健康長寿”を全うしたいというのが国民 的願いです。その願いを実現するために大きな壁となるのが、認知症とロコモ ティブシンドローム(運動器症候群、以下、ロコモと略)です。本講演の前半 では、総論として、ロコモとは何か、後半では、各論として、その基礎疾患を 解説します。 ロコモは、2007年に日本整形外科学会が提案して始まった概念で、その定 義は、 “運動器の障害によって移動機能の低下をきたした状態”です。運動器と は、身体を自由に動かす機能を担う器官で、骨、軟骨、筋肉などで構成され、 それぞれが連携して働いており、どれかひとつが悪くても身体はうまく動きま せん。また、移動機能とは、立ち上がったり、歩いたりする機能のことを意味 し、ロコモが進行すると介護が必要になるリスクが高くなります。つまり、加 齢とともに気づかないうちに、骨、軟骨、筋肉の減少が起こっていますが、無 症状のうちは自覚するのは困難です。しかし、進行して膝痛や腰痛が生じたり、 転倒して骨折するなどで、歩くのが実際につらい状態になる前にロコモに気づ くことが重要です。そのためには7つのロコチェックで自己評価し、疑いがあ る場合は、筋力や歩行能力が年齢相応かを評価して、ロコモを診断する仕組み になっています。ロコモの予防や治療にある程度有効であることが証明されて いるのは、ロコトレと言われる運動訓練です。まずは、これらを実践継続する ことが推奨されています。 さて、気づかないうちに起こっている骨、軟骨、筋肉の減少や衰えは、ロコモ の基礎疾患となっています。すなわち、骨の減少は骨粗鬆症、軟骨の減少は、 膝などでは変形性関節症、背骨では脊柱管狭窄症、また、筋肉の減少はサルコ ペニアと呼ばれる疾患が代表的です。さらにこれらが複合すれば、より深刻な 健康長寿の阻害因子となります。筋肉の衰えで転倒しやすくなり。同時に骨粗 鬆症にもなっていると、転んで骨折してしまうという状況が典型です。そこで、 転倒を始め、各疾患の定義、診断、予防・治療の現状に関して、簡単な説明を 行います。
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