大学 学部 全体概況

2016 年度
慶應義塾大学
理工学部
物理
全体概況
試験時間 物理・化学で 120 分
大問数・解答数
難易度の変化(対昨年)
大問数:3 題
○ 難化
○ やや難化
解答数:29 問
● 変化なし
問題の分量(対昨年)
○ 多い
○ 変化なし
出題分野の変化
○ あり
● なし
出題形式の変化
○ あり
● なし
新傾向の問題
○ あり
● なし
○ やや易化
○ 易化
● 少ない
総評
例年大問3題で、力学と電磁気学が必ず1題ずつ含まれている。今年は、残りの1題に原子分野が含まれる
のかどうか注目されていたが、波動であった。(原子分野が範囲外であった)旧教育課程の時は、熱力学と波動
がほぼ隔年で出題されていたので、今年もその傾向を引き継いだ形となった。原子分野の対策が不足していた
受験生は、問題用紙を開けたときに、小さく「ガッツポーズ」をしたに違いない。題材はどれも図を見ただけで、ど
んな問題なのか予想がつくものばかりであり、慎重に条件を読み取る設問は昨年より少ない。しかし、「剛体の転
倒問題」や「交流回路」といった、受験生が苦手にしているテーマが多く含まれていたために、難易度は昨年同
様で、かつ得点差の付きやすい問題であった。
問題の分量は、昨年が「描図を1つ含む 28 問」だったのに対し、今年は「描図を含まない 29 問」であった。今
年の方が単純に1問分多くなってはいるが、「描図がない」「力学では、2物体の質量が同じである」「電磁気学
では、抵抗値の比が対称性のある簡単な整数である」「波動では、実験条件が読み取りやすく、計算の負担が
軽い」などの点から、実際の分量は昨年よりも少ないという印象を受ける。ただし、幼稚な設問は1問もなく、現象
の本質を見極める力がなければ、与えられたヒントや誘導の意図を理解できないため、解答時間 60 分で 29 問
を完答することは不可能である。もちろん、物理の力を正しく身につけた受験生ならば、(化学の解答時間を奪う
ことなしに)全問正解も夢ではない。
大問1は、典型的な力学総合問題である。1)と2)は「非等速円運動および二次元の相対運動」の組み合わ
せとなっていて、ちょうど 2013 年の力学と同等である。(エ)の拘束条件は入試では大人気で、早大(理工系)が
2013 年・2014 年と連続で出題したことがある。(オ)は、相対運動エネルギーに注目すれば、誘導なしにすぐ求
めることができる。3)の「質点の運動が剛体のつり合いにどう影響を及ぼすか」についての題材は、他大学の過
去問でたまに見かける程度であるが、誘導が丁寧でわかりやすく(極端に剛体を苦手にしているのでなければ)
難しいところは1つもない。
大問2は、交流の発生原理から回路へ展開する標準問題である。磁束、電圧、力、電流などの符号の定義が
明確で、前半は安心して解ける。回路Ⅱは複雑そうに見えるが、与えられた交流電圧が ab 間にかかっているこ
とに注意すれば単純である。(キ)と(ク)に関連する「並列共振」は交流回路の大切なテーマの1つで、本大学に
も 2008 年に類題がある。(ケ)は対称性に気付けば処理が楽になる。
大問3は、マイケルソン干渉計に関する標準問題である。試験当日(2 月 12 日)は、「重力波初観測」の報道
がなされた日で、試験場に向かう朝に新聞を読んだ受験生は、「重力波観測の仕組み」の記事に同じ図があっ
たことを試験中に思い出し、「予習しておいてよかった」と感じたことだろう【城南でも、梶田教授の 2015 年ノーベ
ル物理学賞の受賞に関連して、今年は特別に直前演習にマイケルソン干渉計の題材を取り入れていた】。後半
の「光のドップラー効果」は少々厄介なテーマであるが、「(光速が反射鏡の速さに比べて十分大きいため)音波
のドップラー効果と同様に扱えばよい」という指示通りに解けば、短時間で完答できる。
毎年書いていることだが、慶應大学の問題を解けば、「物理は何が大切なのか」がはっきりとわかる。物理は、
数学の演習問題というわけではなく、まずどんな現象なのかを定性的に感じることが、その本質である。それを
常に大切にしながら、定量的な演習も繰り返せば、必ず良い結果を手にすることができる。たとえば、今年の大
問2の(コ)を例にとると、「発生する総ジュール熱=磁気エネルギー」と一瞬で見抜けるようにしておく勉強こそ
が、合格にとって最も重要である。
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