組織培養の教材化に関する研究

神奈川児立教育センター研究集録13:29−32 .1994
組織培養の教材化に関する研究
一プラスチックフィルムを用いた培養容器の改良一
渡辺克己
’
組織培養の教材化に際し 、培養容器の蓋は改良すべき点の一つである 。ラッ プフィルムやポリプ ロ袋など
のプラスチ ックフィルムを蓋として用いることにより 、現在広 ’く用いられているガラス曲管付きゴム栓と同
様の効果が得られ 、作業能率は向上した 。また 、フィルムケースや コーヒーびん等の利用が可能となった
。
変化の大きい培養条作下で 、両方の条件を満たすの
は じ め に
はかなり難しい問題である
。
現在使用されている 、ガラス曲管付きゴム栓
組織培養は初歩的なパイ・ オテクノロジーとして
・ア
ルミホイル ・ミリシール等が通気型の蓋であるのに
、
高等学校の部活動を中心にかなり普及してきた 。し
対し 、今回開発したプ7スチ ックフィ 、!レムを用いた
かし 、授業中の実験として取り入れる場含には 、教
蓋は 、フィルム成分を通して拡散しでくる気体を利
科としての指導目的の明確化 、限られた時間内に未
用する 、いわぱ密閉型の蓋である
経験な生徒が実験するための指導方法と技術の確立
。
、
多数の生徒が同時に実験できる設備と生徒に適した
1材料
用具類の改良 、短時間で期待される結果が確認でき
本研究で使用したプラスチ ックフィルムは第1表
る材料の開発等 、解決すぺきいくつかの課題がある
の通
ように思われる
‘)である
。
。
学校で行われて’ いる組織培養の実験で失敗する主
第1表 プラスチ ックフィルムの種類
な原因は 、無蘭操作を行う条件とその後の培養条作
に大別される 。前者は設備の改善と生徒の訓練で比
物 質 名 等
商晶名等
較的容易に解決されるが 、後者あ解淡は培養装置な
.ど犬きな設備を必要とするため容易ではなく 、又
ポリ塩化ビニリデン
食晶用ラッ プ
見逃され易い部分ぞある 。結果とし亡溢度変化が大
ポリ塩化ビニール
食品用ラ ップ
きい理科室等では 、培養中に容器内に雑南が侵入し
ポリェチレン
食晶用ラッ プ
失敗する場合が多い
ニ軸延伸ポリプ ロピレン(20仰)
OPP袋
今回は 、生徒実験を念頭に置き 、日用品として市
無延伸ポリプ ロピレン
ポリプ ロ袋
販されているプラスチ ックフィルムを用いて 、温度
ポリエチレン (20〃m)
ポリ袋
変化の犬きい条件でも雑薗の侵入の少ない培養容器
フロロカーボン
ミりシール
、
。
の蓋の開発と実験方法の改良を行 った
’(40〃m)
。
本実験において主に使用したポリ塩化ビニリデン
はサランラ ップ 、0P盲袋はミヤロン防曇袋 、ポリ
I 培養容霧の蓋の開発
プロ
袋はHeikou ポリプ
ロ袋である
。
培養容器の蓋は 、¢雑菌の侵入を防ぎ 、ゆ適度の
通気性(酸素 ’二酸化炭素は高く
、’
水蒸気は低 い方
がよい)があり 、@操作性の良いものが好ましい
2 蓋の透湿性
(1)方 法
。
しかし 、¢と は相反する性格を持 っておリ 、温度
¢ 直径30m 、長さ90mの管ぴんに 、約10m尼の0
1 教科第二研修室(生物)’
て蓋する二
.
8%寒天を入れ 、容器の口をそれぞれの材料を用い
研修指導主事
一29一
@酸素濃度計のセンサー部分に取り付け可能な
同様の管ぴんを3本ずつ用意し 、温度27 .ト
30 .O℃
、湿度36−91%の条件下に置く
フィルム等を装着するための装置を作製する
。
。
直径30mの試験管を口の部分から9cmの所で切断
2−10日おきに重さを量リ 、減少量の平均に
より各材料の透湿性を求める
、
し、
切断部分に内経15mあビニールチューブを取り
。
付けた9号のゴム栓を接着する
(2)結果と考察
30日後の測定結果を第1図に示す
容積は約50m且となり
。
。
、試験管の口が培養容器の口に
相当する 。第2図参照
。
@ @の装置をそれぞれの材料により蓋する 。フ
釦 2
ィルムをかぷせた上から輸ゴムを幾重にもかけ密閉
曇
度を高めるように留意する
。
@ @の内部を窒素ガスで満たし 、素早くセンサ
ー部分に取り付ける 。この操作が正確に行われれぱ
の 1
装置内の酸素濃度は1 .0%以下になる
警
。
窒素ガス充填後10分間を経過し 、装置内の酸
素濃度が1 .O%以下の値を示していることを確認し
てから測定を開始する 。温度26 .0−29 .5℃の条作下
(9)
装置内の酸素濃度を1時間毎に測定し 、開始時
で、
o
■69 ’ガラス曲閉寸きゴム栓
からの増加量により酸素透過性を表した
。
魔塞蜜7ルミホイル
■ミリ…戸ル
囲囲二軸延伸ポリプロ膜
脇ポリエチレン膜
魎園痴化ビニリデンラップ
囮ポリエチレンラッ プ
[コ坦化ビニールラップ
第1図 各蓋の透湿性
¢ ガラス曲管付きゴム. 栓(O .159/30
準とした場合 、アルミホイル(O
ピニリデン(O .089)
.049)
即を標
・ポリ塩化
・二軸延伸ポリプ ロピレン(O
.
119)・ ポリエチレン(袋)(0 ,209)などは 、培
地の水分を保持する意味では 、培養容器の蓋として
適していると思われる
第2図 酸素濃度計と透過量測定装置
。
組織培養の専用部晶であるミリシール
・(O .47
(2)結果と考察
9は 、培地の乾燥が起こり 、小型の培養容器を用い
ることの多い 学校での実験には不適当であると思わ
8時間後の装置内の酸素濃度は 、第3図の通りで
れる
ある
.
。
回
@ アルミホイルの結果が非常に低く出ているが
この場合 、装着する際の技術によ 1)大きな差が生じ
Q二軸延伸ポリプ ロピレンの場合 、8時間後に
、
4.
、
8%の酸素濃度の上昇が見られ 、1時間の平均で
。この値は1時間毎に測定した値と
この結果を得るためにはかなりの訓練を必要とする
はO .6%となる
と思われる
よく一致している
。
。
@ 外気との酸素濃度の差により透過速度には差
3 蓋の酸素透過性
が見られるが 、全体としてはほぽ時間に比例してい
(1)方法
0酸素濃度の測定は 、ガステ ック社製酸素濃度
ると考えられる
@ ガラス曲管付きゴム栓を標準とした時 、プラ
計モデルG0 −50型を使用した 。第2図参照
スチ ックフィルム類の酸素透過性は 、ほぽ1/3の
。
一30一
。
値を示している 。二軸延伸ポリプ ロピレンの場合
高温度が33−O℃の条件下にほぽ2週間置きその後27
、
.
酸素透過量はO .3m2 /時間とな
i)
・管びん等底面積
の小さい容器を用いた培養では特に不足する量では
ないと思われる
O℃で1週間培養して雑蘭の侵入状況を調べる
。
(2)結果と考察
Q 3週間後 、管ぴん ・アルミホイルの1/3
。
、
管ぴん ・ミリシールの1/3に雑蘭の侵入が見られ
8釦
たが 、他の容器には見られなか った
蔓
プラスチ ックフィルムは 、多様な容器に対し
の
て、
1釦
。
温度変化の大きい 条件で雑菌の侵入を防ぐ蓋と
して利用できると思われる
。
II夷験方法の改良
(%)佃
組織培養を教材として一般化するためには 、未経
験な生徒が実験しても成功するような方法を開発し
なけれぱならない 。従来の滅薗方法では培養容器に
■9ガラス曲讐付きコム栓
麗萎117ルミホイル
■ミリシール
蓋をした状態で滅薗し 、植物を植え付けるために蓋
厘田ボリエチレン膜
脇ポリ塩化ビニリデン膜
を外し 、その後同じ蓋をすることが多く 、馴れない
目睡1ポリプロピレン膜
生徒にとってはかなり難しい 作業となる 。本研究で
囮二軸延伸ポリプロ膜
は、
第3図 各蓋の酸素透過性
る分離滅菌の方法と 、@培養容器にプラスチ ックフ
¢培地の入 った容器と蓋を分離し別々に滅菌す
ィルムを簡単 ・確実に装着する方法について検討し
@ フィルム面を通して拡散する気体の量はフィ
た。
ルムの面積と比例するので 、口の大きい容器を用い
ることにより酸素の透過量を増やすことができると
思われる
1 培地の滅菌方法
(1)方 法
。
培地の入 った培養容器にポリプ ロ袋をかぷせ 、輸
4 雑菌の侵入状況
ゴムで止めて121℃で15分間滅菌する
(1)方法
。
(2)結果と考察
Q 直径30m 、長さ90mの管びんに 、約10m尼の組
0 この方法によ ^)培地の滅南が可能であり 、滅
織培養用培地(シ
蘭後1ヶ月以上室内に放置しても雑蘭が侵入するこ
ョ糖309
・ハイポネ ックス3 .09
・寒天8 .09/1)を入れ滅薗し 、容器の口を
とは殆ど無か った
、ガラ
ス曲管付きゴム栓 ・アルミホイル ・ミリシール
。
@ ポリプ ロ袋には大小何種類もの大きさがあリ.
・二
軸延伸ポリプ ロピレン膜 ・ポリ塩化ピニリデン膜に
適当なものを選ぷことにより色 々なぴんの滅菌が可
より蓋する 。同じものを3本ずつ準備する
能となった
。
@ フィルムケース(富士写真フィルム社製)
。
@ 加圧滅蘭の際培養容器の蓋がはずれる心配が
・
遠沈管(ストックウエル社製)・ コーヒーぴん(ネ
なく
スカフェ ゴールドブレンド1009用)に0と同様の
滅菌できる容器の数が増える点でも適当な方法であ
培地を入れ 、滅蘭し 、二軸延伸ポリプ ロピレン膜
ると思われる
ポリ塩化ピニリデン 膜により蓋する
本ずつ準備する
。・
・
、また 、ガラス曲管付きゴム栓に比べて一度に
。一
同じものを3
2 フィルム滅菌用具の製作
。
@ 培養用フラスコ ・広口の清涼飲料のぴん
(1)方 法
・麺
つゆのぴんを@と同様に処理する 。同じものを3本
¢ プラスチ ックフィルムを用いる場合は 、培養
ずつ準備する
容器の口の直径の3借の大きさが必要である 。容器
。
@ O @を夜間の最低温度が14 .0℃ 、日中の最
の大きさに合わせて画用紙を切リ 、二つ折にして適
一31一
当な位置に容器の口よリも大きい穴をあける(円切
りカ ッターを用いると便利である)。
第4図参照
。
第5図 コーヒーぴんへのフィルム装着
(2)結果と考察
第4図 フィルム滅薗用具
¢培地を滅蘭する時の蓋と培養時の蓋を分ける
@プラスチ
ックフィルムを適当な大きさに切1)
0の画用紙にはさむ
ことにより 、植物を植え付ける際にはそのことだけ
に注意を集中でき 、作業能率が向上した 。結果とし
。
@@を1枚ずつ封筒にいれ 、まとめて大きなポ
リプ ロ袋に入れ 、加圧滅蘭する
て失敗が少なくなると思われる
。
@ コニヒーぴんの蓋 ・フィルムケース ・遠沈管
。
などを用いることにより 、経験に関係なく 、同じよ
(2)結果と考察
0 オートクレープによる加圧滅蘭で容易に滅薗
うに培養容器の蓋を装着することができる
。
することが出来た 。ただし 、乾熱滅菌を行う場合は
温度 、時間とも異なると思われる
摘.
。
要
ポリ塩化ビニリデンのロールに巻いてある内
側を用いた場合は特に滅蘭操作を行わなくとも雑南
の繁殖は見られなか った
フィルム滅蘭用具を工夫することにより 、プラ
1.
スチ ックフィルムを培養容器の蓋として使用する
。
ことができる
透湿性 ・酸素透過性の点から 、二軸延伸ポリプ
2.
3 作業手順
ロピレン ・無延伸ポリプ ロピレン ・ポリ塩化ビニ
リデン ・ポリエチレン(袋)は 、培養容器の蓋と
(1)方・ 法
コーヒーぴんを用いた場合の例を示す
。
。
0 ポリプ ロ袋がかぷ った滅蘭済:みの培地とフィ
して使用することができる
ルム入りの封筒を無蘭箱内に入れる 。コーヒーぴん
3.
プラスチ ックフィルムを用いることによリ 、利
用できる容器の範囲が広がり 、温度変化の大きい
の蓋には 、パッ キンごと直径4cmの穴をあけ(ホ
ールソーを用いると便利である)、 ビニール袋に入
培養条件でも 、雑薗の侵入が少ない培養容器の蓋
を作ることができる
れて 、70%エタノールを噴霧しておく。
@ ポリプ ロ袋を外し 、植物を植え込む等の作業
を行う
。
4.
。
培地と蓋を分離して滅蘭する方法と 、培養容器
にフィルムを簡単 ・確実に装着する方法の開発に
。
より 、組織培養の作業能率を高めることができる
@ フィルム滅蘭用具を封筒から取リ出し 、コー
ヒーぴんんの上に載せる 。コーヒーぴんの蓋をフィ
ルムの上から押しつける 。第5図参照
参考文献
。
@ フィルム滅薗用具を外し 、コーヒーぴんへの
プラスチ ックフィルム蓋の装着が完了する
@ 同様な方法によリフィルムケース 、遠沈管等
1.
。
でもフィルムを装着することができる
。
一32一
上野景平1 691身のまわりの化学物質講談社
。