ジュラシック・トーク カルメンの「版」について その2 前回ご紹介した

ジュラシック・トーク
●カルメンの「版」について その2
前回ご紹介したカルメンの「ギロー版」と「アルコア版」とでは、セリフの部分が伴奏のついたレシタティー
ヴォなのか、普通のセリフなのか、という違い以外にも、多くの異なる部分があります。今回演奏する第3幕
の「カルタの三重唱」でも、そのはっきりとした違いが見つかりました。
ここでは、カルメンと、その仲間のジプ
シー女、フラスキータとメルセデスの3
人による三重唱が歌われているのです
が、実質的にはフラスキータとメルセデ
スのデュエット+カルメンのソロとい
う形です。そのデュエットの2人はとも
にソプラノという指定がありますが、基
本的にフラスキータ(F)が高音、メル
セデス(Me)が低音を歌うというパー
ト分けになっています。ですから、2人
が一緒に歌う時には、このようになりま
す。右の対訳の②の赤線の部分です。
それぞれが交互にソロを歌うようなところでも、当
然フラスキータは高い音、メルセデスは低い音の部
分を歌うようになっています。ですから、①のよう
に最初にフラスキータが歌ったセリフを次にメル
セデスが繰り返す時には、1オクターブ下で歌われ
る、というのが、ビゼーの自筆稿に忠実に校訂を行
ったアルコア版の楽譜(⇐)です。それ以外の実用
的なヴォーカルスコアでもこの形になっていて、今
回のソリストもこのように歌っていました。
ところが、ギロー版(⇒)ではその2人のパートが入れ
替わっているのですよ。今まで高いパートを歌っていた
フラスキータが、一人で歌う時になると突然低いパート
に変わってしまうのですね。これは、その先の 6/8 に
変わって長いソロを歌う部分(③)でも同じです。
そんなこととは知らずに、このプログラム用の対訳はギ
ロー版の CD に付いていた対訳を元にして作ってしま
いました。ですから、ソリストとのリハーサルでそのこ
とが初めて分かり、あわてて名前を差し替えました。
③
①
②