第 58 回日経・経済図書文化賞決まる 受賞作品 実験制度会計論 ―未来の会計をデザインする 田口聡志著 中央経済社 ix,266 ページ、3400 円(税別) 書評 ゲーム理論用いた新境地 神戸大学教授 桜井久勝 会計基準の国際統合と企業の不正会計という2つの重要なトピックスを取り上げ、ゲーム 理論を援用して得た仮説を実験経済学によって確かめるという構成の、これまでにない研究 書である。 前半では会計基準の国際統合が考察される。ゲーム理論に立脚した著者の実験によれば、 各国が自国基準に固執して国際統合が成立しない可能性が大きいという。この状況下での国 際統合の達成には、最初から特定の単一基準に向けた統合を推進するのではなく、多様な基 準の併存を認めて相関均衡とよばれる合意点を目指す方法が有望だと著者はいう。 本書の後半では不正会計の原因や、監査の品質管理の在り方に関心が向けられる。著者は 信頼ゲームと呼ばれる理論を援用し、株主が経営者との「互恵」を求めて財務報告に信頼を 寄せても、経営者が一方的にそれを裏切る動機があることを明らかにし、その上で、その回 避策である監査の品質管理の方式に関して、会計士協会による自主規制と、国による第三者 規制の2つの効果を対比している。 現実のデータによって制度の有効性を確認する研究手法が、当然のことながら事後的にし か制度分析に活用できないのに対し、ゲーム理論、実験経済学の手法を用いれば、例えばい まだ実施していない設計段階の会計制度の評価も可能になるという著者の指摘は魅力的であ り、傾聴に値しよう。実験会計学という新しい分野を開拓しようという著者の熱意が伝わる 書物である。
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