日本のSF 今回は,文学賞を受賞した日本のSFを紹介します。 1冊目は,日本推理作家協会賞を受賞した恒川光太郎の『金色機械』です。 今年の第 67 回日本推理作家協会賞候補作は,太田愛の『幻夏』,三上延の『ビブリア 古書店の事件手帖4』の2作品がミステリで,上田早夕里の『深紅の碑文』,恒川光太 郎の『金色機械』,東山彰良の『ブラックライダー』の3作品が SF でした。この中で『金 色機械』が受賞と決まりました。 物語は,江戸時代の遊郭の一室で始まります。嘘を見破れる能力を持つ楼主のもとに, 手を触れるだけで生物の命を奪うことができる女がやって来て,自分の過去を語り始め ます。ファンタジー色が強い中で,生きるとは何か,死とは何かといった,人間にとっ て根源的な問題を問うものとなっています。 著者は,『夜市』という作品で 2005 年の日本ホラー小説大賞を受賞してデビューし, この作品は直木賞候補にもなりました。 2冊目は,2011 年の日本SF大賞を受賞した,上田早夕里の『華竜の宮』です。 多くの陸地が水没した 25 世紀。人類は残された土地や海上都市で情報社会を維持す る陸上民と,遺伝子改変で海に適応した身体となり魚舟(うおぶね)と呼ばれる生物船 と共に海洋域で暮らす海上民に分かれて文化を形成しています。陸上民と海上民の確執 が深まる中,日本政府の外交官である主人公が対立を解消すべく奔走します。最新の地 球惑星科学をベースに地球と人類の運命を描いた海洋SFです。 『華竜の宮』の続編が,今年の日本推理作家協会賞候補作になった『深紅の碑文』で す。前作の主人公も登場し,絶望的な環境変化を前に全力で生きる者たちの人生を描い た群像劇となっています。 3冊目は,上橋菜穂子の『精霊の守り人』です。 女用心棒バルサは、新ヨゴ皇国の皇子チャグムを託されます。精霊の卵を宿した息子 を疎む父が差し向けてくる刺客や、異界の魔物から幼いチャグムを守るため、バルサは 身体を張って戦い続けます。全 10 冊の「守り人」シリーズの第 1 弾です。児童書とし て出版されましたが、大人のための文庫本もできています。 著者は、児童文学の分野で高い権威を持つ国際アンデルセン賞の今年(2014 年)の 受賞者です。国際アンデルセン賞は、スイスに拠点を持つ国際児童図書評議会が 2 年に 一度、作家から一人、イラストレーターから一人を選出しており、児童文学界のノーベ ル賞とも呼ばれています。日本からの受賞者は作家部門の「まど・みちお」、イラスト レーター部門の「赤羽末吉」 「安野光雅」を合わせて 4 人目となります。 国際児童図書評議会は、上橋さんの作品を文化人類学の観点から描く独自のファンタ ジー小説、日本的な要素と同時に、世界共通の普遍的なストーリーがあると評していま す。
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